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第98話

 誰も口を開かないまま、時間だけが過ぎていく。

 コヨミは視線を落としたまま動かない。

 ここは何か言うべきだとは思うんだが……何を言えばいいのかわからないな。


「………………そうかも、っスね」


 長い沈黙の後、ぽつりと小さい声でコヨミが言った。

 今にも泣きだしそうだ。


「そんな!」


 コヨミの言葉に、ミュラが身を乗り出す。


「どうにかできない!? ミュラ、ここがすき! やめたくない!」


「……」


 ミュラがコヨミに呼びかけるが、何も答えようとしない。


「おねぇちゃん! ねぇ! ねぇってば!」


「……」


「――っ!」


 ミュラは言葉に詰まり、顔を俺の方に向けた。


「ねぇ! ゴブ! ゴブはどうなの!?」


「俺 か?」


 ミュラはまっすぐ俺を見つめている。

 これは、変にごまかさない方がいいな。

 思っている事を話そう。


「……同じ。ここ 無くなる。いや だ……」


「だよね!」


「けど、これ 家族 問題。俺たち 口出すべき じゃない……」


 そう、これはコヨミの家族の問題だ。

 部外者が外から口を出していい話じゃない。


「そんな!」


 とはいえ、やはりここが無くなるのも困る。

 この先どうすればいいのか……それを考えるだけで不安だ。


『……どうにかしたいが……』


 けど、それは俺のワガママであって、言ってしまえばコヨミの家族たちは全く関係ない。

 それがどうした、で終わってしまうだけの話だ。


『はぁ……俺って無力すぎるな』


 虚無を感じつつ、俺は天井を見上げた。


「……家族の問題というなら……ミュラちゃんも、ゴブくんも関係あるっスよ」


「「へっ?」」


 コヨミの言葉に、視線をコヨミへと向けた。


「ウチにとっては……もう2人共家族っスよ。一緒に、悩んでほしいっス。いい方法を考えてほしいっス」


 そう言うと、コヨミは俺とミュラを交互に見た後、笑顔を見せた。


「かぞく……うん……うん! そうだよね! よ~し! いいほうほうがないか、かんがえないと! むむむ……」


 ミュラは腕を組み、目をつむって眉間にしわを寄せた。


『家族か……』


 コヨミの言葉、すごくうれしいな。

 現世界にいる本当の家族には申し訳ないけど……今俺が生きている世界は、この世界だ。

 この世界の住人のコヨミに家族と言ってもらえる……こんなにうれしいことはない。


「……なら……」


 うまくいくかわからないが、この方法ならどうだろうか。


「その……料理は どうだろう……」


「料理……っスか?」


 俺の言葉にコヨミが首を傾げた。


「そう……ここ 食堂。となれば、祖母に コヨミの 料理 食べて もらう。そして、真剣 気持ち 伝える。説得 じゃなく 言葉 でもなく……想い 食べて もらう」


「ウチの……気持ち……想いを……」


「それだ! それをやろうよ!」


 ミュラはぱっと目を見開き、そのままコヨミに視線を向け、ビシッと指をさした。


「りょうりってさ、たべたらえがおになる! しあわせなきもちになる!」


 そして、大きく両手をあげる。


「そしたらさ、コヨミおねえちゃんのおばあちゃんだって、わかるってくれるよ! ちゃんとおねえちゃんの気持ち、つたわるよ!」


「……ふふ……」


 ミュラの姿を見て、コヨミが笑顔になる。

 そして、大きく頷いた。


「そっスね……確かにそうっス! ウチ、やってみるっスよ! おいしいものを作って、おばあちゃんを説得してみせるっス!」


 コヨミがグッとこぶしを握った。


「じゃあ、きまりだね!」


 よし、コヨミがやる気を出したとなれば……。


「で、何 作る?」


 次は、これを決めることが重要だ。


「そうっスね……常連さんが、よく注文していたのは……野菜と豚肉の煮物……秋刀魚の定食……カボチャのスープに……」


 コヨミが1つ1つ思い出しながら指を折っていく。


「ちょっと ストップ」


 俺はコヨミの言葉をすぐに遮った。


「それ 絶対 駄目だ」


「へっ? どうして? どれも、おいしそうじゃん」


 俺の言葉に、ミュラがきょとんとした顔をする。


「普通の客 なら 問題 無い。だが、相手は ずっと 料理 作ってきた 本人だ。同じ 物 出したら、どうしても 比べられる。それで 説得 難しい」


 コヨミの表情が少し曇った。


「なるほど……」


「だから、同じ物 作らない 方がいい」


「……たしかに……そうっスね」


 コヨミが頷き、腕を組んだ。


「う~ん……じゃあ、何を作れば……」


「そう……だな……」


 俺も腕を組み、考え始めた。

 どうせならインパクトがあるのがいいと思うが……。


「じゃあさ、いままでのぜんぶどう?」


「全部?」


「そう! コヨミおねえちゃんと、ゴブがつくってきたもの、ぜんぶ!」


「はあ!?」


 おいおい、流石にそれだと量が多すぎだっての。

 それに準備するのが大変すぎるぞ。


「それ、いいっスね!」


「ちょっ!」


 何を言っているんだこの人は。


「ゴブくんの料理はこの世界にないものばかり! それを出せば、きっとおばあちゃんが気に入るかもしれないっス!」


 あー……これはもう止められない空気だな。

 けど、どう考えても絶対に無理だ……となれば……。


「じゃあ、フルコース どうだ?」


「「フルコース?」」


「複数の 料理を 決まった 順番 出して いく」


「じゅんばん……?」


「そう 前菜、スープ、サラダ、魚料理、ソルベ、肉料理、デザート、食後の 飲み物。これら 出して いくんだ。これなら 色々 楽しめる」


「それが、フルコースなの?」


「ああ」


「なるほど……それなら、色々食べれる……いいっスね! それで決まりっス!」


 よし、何を作るかの方針は決まったな。


「じゃあ、明日から フルコース 中身 決めて いこう!」


「お~!」


「了解っス!」


 俺たちはそれぞれの手を勢いよく叩きあった。

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