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ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~  作者: コル
第12章 ミュラ達がんばる!
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第94話

「ミュラちゃん! 走ると危ないっスよ!」


 先頭を走るミュラに、コヨミが声をかける。

 ミュラは走りながら器用に後ろを向き、返事を返す。


「だいじょうぶ~! はやくしないと、ケーキがとけちゃう!」


 いやいや、そんなに簡単には溶けないっての。

 氷の箱にも入れてるしな。


「ターン、もっとはやく!」


「バカ言うな。これ以上スピードを出すとケーキが崩れるだろ」


「む~……」


 ミュラはちょっと走っては止まり、俺たちが追いつくとまた走るのを繰り返した。


「とうちゃく!」


 ミュラがナナの家の前で、ぴたりと止まって両手を伸ばした。


「こんにちは~!」


 ミュラは入り口の扉を叩く。

 すると、すぐに中から足音が近づいてきて、扉が開いた。


「みんな! いらっしゃいなの!」


 出てきたのは、オシャレをしたナナだった。

 すごい笑顔でとても楽しそうだ。


「きたよ~!」


「うん! 来てくれて嬉しいの!」


 ミュラとナナが手をつなぎ、嬉しそうに揺らす。


「おい、ナナ。中に入ってもらいなさい」


 ナナの父親の声に、ナナがハッとした表情でミュラから離れた。


「こほん……いらっしぃませなの。中に入ってくださいなの」


 ナナの誘いに、俺たちは家の中へ入った。

 部屋の中央にはテーブルがあり、その上には料理がいくつか並んでいた。

 おお、どれもうまそうだな。


「さっ、みんな座ってなの!」


 ナナの言葉に、俺たちはそれぞれ置かれていた椅子へと座った。


「後は、パパが買ってきてくれたケーキを並べれば完璧なの!」


「「「っ」」」


 ナナのケーキという言葉に、3人が同時に肩を震わせたよ。

 何もやましい事なんてしていないのに、挙動不審になっちゃってる……。


「あ、ナナ……そのことなんだが……」


 父親の言葉に、ナナが不思議そうに首を傾げた。


「ケーキは買ってきていないんだ」


「……え?」


 ナナは目を見開き、その場に固まってしまった。


「ケーキ……ない……の……?」


「それはね、ちゃんとした理――」


「ぎゃああああああああああああああああああん!」


 ナナの母親が説明をしようとした瞬間、ナナは大粒の涙を流して泣きだしてしまった。

 まずい、この流れは非常にまずい。


「ちょっ、ナナ! 落ち着きなさい! これには理由が……」


「ケエエエエエエエエエエキイイイイイイイイイイイ! パパのバガアアアアアアアアアア! 大っ嫌いいいイイイイイイイイイイイ!!」


「グハッ!!」


 ナナの父親が何かを吐き出して胸を押さえ、その場に膝をついてしまった。

 ナナの言葉が心に突き刺さったらしい……可哀そうに。


「ナナちゃん! なかないで!」


 ミュラは椅子から降り、ターンが持っていた包みを強引に奪い取った。

 そして、テーブルの上にそっと置いた。


「ケーキなら……ここだよ!」


 ミュラが包みの布を取ると、氷の箱が姿を現した。

 それを見たナナが、ぴたりと泣くのをやめる。


「……ひっく……ぐず……ど、どういう……こと……なの……?」


「みてみて!」


 ミュラが蓋に手をかけ、思いっきり開ける。

 ナナが身を乗り出して中を覗き込み、そのままぱっと顔を上げてミュラのほうへ振りむいた。


「……これ……ケーキ……?」


「そう! ケーキ!」


 ミュラが嬉しそうに何度も頷く。

 ターンは1歩前に出て、箱の中からゆっくりとケーキを持ち上げる。

 歪んだ形のケーキは、そのまま台の上の皿にのせられた。


「すごいだろ、オレたちが作ったんだぜ」


「そう。僕、ターン、ミュラちゃんの3人で!」


「みんなでつくったの!」


 ナナの視線がケーキの形をなぞるように動き、やがて少しだけ口元が緩む。


「……イチゴも大きい……すごいの……」


 指先を伸ばしかけて止め、ためらうように手を引っ込めると、3人の顔をもう一度見上げる。


「これ……食べていいの?」


 ナナが問いかけると、3人は同時に頷いた。


「わあぁああ! うれしいの! ぐすっ! すごくうれしいの!」


 ナナの目から、また大粒の涙がこぼれ落ちてきた。

 けど、あの涙は問題ない。

 そう……何の問題も……な。


「ナナ。ケーキの上にろうそくをさすけど、いい?」


「うん! お願いなの!」


 ナナの母親はろうそくを8本ケーキに刺し、火をつけた。


「「「「「誕生日、おめでとう!」」」」」


 みんなの歓声にナナが、笑顔でこたえる。


「ありがとうなの! ……すぅ~……ふぅ~~!!」


 ナナが息を吸い込み、ろうそくに向かって息を吹きかける。


「「「「「わああああああ!」」」」」


 ろうそくが消えると同時に、拍手が鳴り響いた。


「さっ、ナナ。みんなが作ってくれたケーキを食べましょうか」


「うん!」


 ナナの母親がケーキを包丁で切っていく。

 そして、それぞれの小皿へとケーキを置いていった。

 もちろん、大きなイチゴはナナの小皿へと移される。

 イチゴが大きすぎて、ケーキより目立っているが……まぁそれはそれで、インパクトがあっていいんじゃないかな……多分。


「わ~! どんな味か気になるの~」


 ナナはフォークを手に取って、ケーキの先を切り、切った部分に軽く刺す。

 ケーキをゆっくりと持ち上げ、口の中へと入れた。


「もぐもぐ……」


 ケーキを食べるナナにみんなの視線が集中する。


「…………どう?」


 ミュラが覗き込むように顔を近づけた瞬間、ナナの目から1粒の涙が流れ落ちた。


「…………っナナちゃん……!?」


「えっ!? ま、まずかったか!?」


「そ、そんな!」


 その姿に、3人は一斉に慌てて声を上げて身を乗り出した。

 するとナナは首を横に振りながら涙を袖でぬぐい、口をひらいた。


「ちがう……ちがうの……おいしいの……すごく……おいしいの……」


 その言葉を聞いた瞬間、ミュラはその場にへたり込み、ターンが大きく息を吐いて頭を掻き、カルが胸に手を当てて安堵の表情を浮かべた。


「びっくりしたぁ……」


「そんなんで泣くなよ……」


「でも、よかった……」


「あはは、ごめんなの……とにかく、おいしいの! みんなも食べるの!」


「うん、ミュラ、たべるのずっとがまんしてたんだ!」


「オレもオレも」


「実は僕も……」


 それぞれフォークに手を伸ばし、ケーキを崩して口へと運ぶ。

 ナナはその光景を見てポツリとつぶやいた。


「…………最高の誕生日なの」


 その小さな声は、周りの騒音にかき消される。

 しかし、俺の耳にはちゃんと届いていた。

 ナナの嬉しそうな声を……な。


『……よかったな……みんな……』

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