第93話
ナナの誕生日当日。
俺たちは、朝からケーキ屋の厨房に入っていた。
店主が気を利かせてくれて、今日1日を臨時休業にしてくれた。
本当にありがたいことだ。
「よ~し! がんばるぞ~!」
「おう!」
「うん!」
ミュラ、ターン、カルが気合を入れ、ケーキ作りを始めた。
俺とコヨミは黙って3人の姿を見つめた。
さぁ、今日まで練習してきた成果を出す時だぞ。
「よいしょっと」
ミュラは器を少し寄せて、卵を手に持つ。
そして、器の角に卵を軽く叩きヒビを入れた。
「む~……」
器の上で、ゆっくりと……慎重に卵を割り入れた。
「……よしっ!」
殻が入ることもなく、卵の黄身は綺麗に器に入っている。
ミュラは続けて、残り2個の卵も入れた。
最初に比べたら、すごい成長だな。
「よし、できた!」
「じゃあ、次は僕の番だね」
ミュラと入れ替わりで、泡立て器を持ったカルが器を持った。
そして、泡立て器を器の中に入れ、かき混ぜ始めた。
リズムよく、卵も周りに飛び散らない完璧な混ぜ方だ。
「…………こんなもんかな?」
カルが器を傾け、俺に確認を取って来た。
卵がなめらかになっているな。
これなら次にいっても大丈夫だ。
「問題 ない。砂糖 入れる」
「うん」
カルは砂糖100gを器に入れ、混ぜ始めた。
砂糖が溶け切ったことを確認し、今度は牛乳150mlを数回に分けて入れ、更にかき混ぜていく。
「……ふぅ……これでいい?」
もう一度中身を確認し、俺は頷いた。
「よっしゃ! じゃあ俺の出番だな!」
今度はターンが器を受け取り、小麦粉の袋の口を開けた。
そして、牛乳同様に小麦粉200gを分けて入れ、泡立て器でかき回し始めた。
『よしよし、うまい事いっているな』
力と体力がないミュラは混ぜる作業から外し、その作業はカルとターンに任せることにした。
混ぜる作業は重要、この役割分担はとても大切だ。
「んっ! んっ! ……おっも……いな…………ふぅ……おい、こんなもんでどうだ?」
ターンが見せてきた生地は、もったりとした塊が出来ていた。
うん、この状態なら問題ないだろう。
俺は指先で塩をひとつまみつまんで落とし、そのまま軽く混ぜてから溶かしておいたバターを入れた。
「さっ。混ぜる」
「チッ、気楽に言ってくれるぜ……ふんっ!」
ターンは器を持ち上げ、必死に泡立て器を回し続けた。
泡立て器を持ち上げ、生地がゆっくり流れて落ちる状態になれば、型の陶器に流し込む。
そして、陶器の端を持って、軽く左右に揺らしてならす。
「じゃあ、コヨミさん。窯に」
「了解っス」
コヨミが石窯の前に立ち、扉を開けて陶器をゆっくり中へと差し込んだ。
「焼く 間、クリーム 作る」
「うん!」
ミュラは壺を持ち上げ、中から生クリームを器へと注いだ。
そして氷魔法を使い、器と生クリームを冷やしていく。
冷たい状態でかき混ぜるのが、おいしいクリームを作る理想の形だ。
そして、これが出来るのはミュラだけ……頑張ってもらわないとな。
「ミュラ、頑張る」
「うん! がんばる!」
ミュラは必死に生クリームを泡立て器で混ぜる。
クリームにとろみが出てから、砂糖を入れて、またかき混ぜる。
泡立て器を持ち上げ、クリームに角が立てば出来上がりだ。
「……できた……ふぃ~……つかれたよ~……」
ミュラは両手をブンブン振り、うなだれた。
「そろそろ、生地焼きあがったんじゃないか?」
「あ、はいっス」
ケーキ屋の店主の言葉に、コヨミが窯の扉を開け、陶器を外へと出した。
「あちちちちっ!」
コヨミは熱がりながら、陶器を台の上に置いた。
その瞬間、全員の目が陶器に集中する。
その瞬間、誰も言葉を出さなかった。
「…………これ……ふくらんでいる……よね?」
「……と、思うけどよ……」
「……ど、どうなの?」
不安そうな顔をして俺を見つめるミュラ、ターン、カルの3人。
俺は陶器の縁に沿って刃を入れて外し、陶器を逆さまに向けて台の上に乗せた。
そして、陶器を持ち上げると……。
「わああああ!」
「おお……」
「いい匂いだ!」
台の上には綺麗に焼けた生地が崩れずに乗っていた。
おいしそうな匂いが辺りを包む。
「コヨミさん、半分 切って ほしい」
「お任せっス」
コヨミは包丁を手に取って、横に刃を当ててスッと切る。
切れた生地を上下に分けると、綺麗な断面が顔を出した。
「クリーム 塗る」
出来たクリームの器を生地の横に置いた。
すると、3人はすぐさまパレットナイフを手に持った。
「まってました!」
「よっしゃ!」
「任せて!」
ミュラはパレットナイフでクリームをすくって、押し広げるように塗っていく。
それに続いてターンとカルも塗っていった。
クリームを塗り終わり、切っておいた果物を並べた後に、上に生地をのせる。
「つぎ 上」
「「「お~!」」」
先ほど同様に、3人がクリームを塗り始める。
「ここをこうして~」
「いやいや、塗りすぎだろ!」
「ちょっと2人共! 僕の塗るところがなくなっちゃうよ!」
3人が好き勝手にクリームを塗るせいで、歪なケーキが完成していく。
かなり雑だし、見栄えもひどい……。
だが、これはこれで手作り感は出ているから……ありではある……かな。
上のクリームも塗り終わり、最後の仕上げだ。
ミュラ、ターン、カルが頑張って集めたお金。
そのお金で買った、大きなイチゴをケーキの真ん中に置く。
「ケーキ、できた~!」
「おおっ、オレたちで作ったケーキだ!」
「これなら喜んでくれるよね!」
3人が喜びの声を上げ、俺たちは完成を祝い拍手をする。
正直、不安なところもあったが立派にやり遂げたな。
「これ ナナの家 もってく」
「うん! すぐにもっていこう!」
ミュラが氷の箱を作り、その中にケーキを入れた。
そして、氷の箱を布で包み、ターンが持ち上げる。
「ターン、落とさないでね」
「落とすわけないだろ、任せとけ」
「それじゃあ、レッツゴー!」
ミュラが先に店から飛び出し、ターンとカルがその後ろを追いかけて出ていく。
「あっ! みんな、待つっスよ! おじさん、ありがとうございますっス!」
「ありが とう」
俺とコヨミは店主に頭を下げ、お礼の言葉を言うと店主はニコリとほほ笑んだ。
「ああ、俺も面白いもの見せてもらったよ。ほれ、早く追いかけないと子供たちが行っちまうぞ」
店主の言葉にもう一度頭を下げ、俺たちはケーキ屋から外へと出た。
「ゴブ~! おねえちゃん! はやくはやく~!」
ミュラが手を振って、大きな声を上げた。
先に出て行ったのはお前だろうに……まったく。
俺たちは3人の後を追いかけ、ナナの家へと向かった。




