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ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~  作者: コル
第12章 ミュラ達がんばる!
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第92話

 翌朝。

 ミュラが雑巾で、懸命に食堂の床を拭いていた。


「ごしごし……ごしごし……」


 その理由はもちろん、イチゴを買うためのお小遣いが欲しいからだ。

 普段からこうして手伝ってくれればいいんだがな。


「ごしごし……ごしごし……」


 というか、同じところばかりこすっていたら意味がないんだがな。


「ミュラちゃん、朝から張り切ってるっスね」


 コヨミが後ろからミュラに声をかけた。


「うん!」


「その調子っスよ」


 ミュラの元気のいい返事に、コヨミはケラケラと笑いながら、袋を肩にかけた。


「それじゃあ、ウチは買い出し行くっス。2人は留守――」


「ミュラがいく!」


 ミュラが立ち上がり、コヨミの前に出た。


「ミュラがいく!」


「いや、でも――」


「いく!」


「……お小遣いっスか?」


「うん!」


 コヨミの言葉に、大きく頷くミュラ。

 それを見て、コヨミが頭を押さえた。

 正直でいいとは思うが……こんなに堂々と言われるとな……。


「……はぁ……わかったっス。じゃあお願いするっス」


「やった~!」


 ミュラがその場で跳ね、コヨミから袋を受け取った。

 そして、そのまま食堂の入口へ走る。

 って、雑巾を持ったままじゃいか。


「待つ! ミュラ!」


 俺の声に気が付かなかったのか、ミュラは勢いよく外へ飛び出した。


「あははは……持って行っちゃったっスね……」


「そのうち 気付く だろう……」


 多分。


「……あ、そうだ。コヨミさん、ちょっと いい?」


「ん? どうしたっスか?」


「ケーキ 材料 使って いい?」


「いいっスけど、ケーキを作るっスか?」


「出来て からの お楽しみ」


 俺は材料が保管してある、食糧庫へと向かった。



 必要な材料は小麦粉、卵、砂糖、牛乳、バターだ。

 まずは卵2個を器に割り入れる。

 そこに砂糖70gを入れて、泡立て器で混ぜる。


 砂糖のザラザラ感が無くなってきて、表面がなめらかになったところで、牛乳120mlを2~3回に分けて入れる。

 一気に入れるより、かき回しながら数回に分けた方が混ざりやすい。


 牛乳も混ざれば、小麦粉200gと塩を一つまみ入れていく。

 これも、ダマにならないように小麦粉を数回に分けて混ぜるのがコツだ。


『さすがに……重たくなってきたな……』


 小麦粉が混ざれば混ざるほど、生地が粘り気が強くなりかき回すのが大変になる。

 昨日、子供たちがこれを頑張って混ぜてたんだな……。


 小麦粉を混ぜたら、最後に溶かしたバター30gを入れて、またかき混ぜる。

 生地に艶が出て、まとまり方が変わってきた。

 さっきよりも滑らかになってきたが……どうかな。

 俺は泡立て器を持ち上げると、生地がゆっくりと落ちていく。

 すぐには切れず、少しだけ引くように伸びた。

 これで完成だな。


『で、このままだと手にくっつくから……』


 小皿に少し油を出して、手に薄く塗り広げた。

 こうすれば、生地はほとんど手につかない。


 生地をちぎって、手の中で転がして形を整える。

 丸くなったところで台の上に置き、真ん中に穴をあける。

 見た目は悪いが、ドーナッツと言えば、この穴だよな。


 最後の1つを完成させて、少し時間を置く。

 その間に、油を温めておかないとな。



 鍋に2~3cmくらいの深さまで油を入れて、火にかける。

 少し待って温まって来たなと思ったら、生地を小さくちぎって油に落としてみる。

 一度沈んで、すぐに浮かび上がり細かい泡が出れば頃合いだ。


『よし』


 台の上に並んだ生地を1つ手に取り、生地を油の中へと落とした。

 その瞬間、ジュッと音が立って、表面に細かい泡が一気に広がった。


「へぇ~……ケーキと違って、これは揚げるっスね」


 俺の横でコヨミが身を乗り出す。


「ああ」


 間を見ながら、1つ1つドーナッツを油へ落とす。

 鍋の中が詰まりすぎないように、間隔を空けることを意識しないといけない。


 ドーナッツの表面の色が少しずつ変わっていく。

 白かった生地が、薄いきつね色に変化してきた。

 その色を見ながら、タイミングを測り…………。


『今だ!』


 裏返しにして、もう片面を揚げていく。

 下にあった面が、きつね色に変わっている。

 よしよし、問題ないな。

 他のも順番にひっくり返してっと。


「わぁ~……いい匂いしてきたっス」


「ああ」


 揚がったドーナッツを、どんどん皿へと移す。

 そして砂糖を、ドーナッツの全体にまぶせば……。


「これで 完成!」


「おお! おいしそうっス!」


 俺は1つ持ち上げて、コヨミに手渡した。


「味見 お願い」


「まかせてっス」


 コヨミは軽く息を吹きかけてから、かじった。

 そのままもう一口食べて、目を少し見開く。


「……んっ! 外はカリッとしてるのに、中は柔らかいっス! それに甘くて……これは、おいしいっス」


「良かった」


 そのとき、ばたばた外から足音が近づいてきた。

 そして、勢いよく入り口の扉が開いた。


「ただいま~!」


 雑巾を握りしめたまま、ミュラが食堂の中へと入って来た。

 おいおい、結局そのまま買い物をしたのかよ。


「……むっ!? すんすん……」


 ミュラはその場で止まり、鼻をひくつかせた。


「……いいにおいがする!」


 すぐにこっちを見て、即座に厨房へと入って来た。


「なにこれ!?」


「ドーナッツ だ」


「どーなっつ? おいしいの?」


「おいしいっスよ」


「ミュラも! ミュラも!」


 そう言いながら、雑巾を投げ捨て、その手でドーナッツを取ろうとした。


「ちょっと 待つ!」


 流石にその手でドーナッツを持たせるわけにはいかん。

 俺はドーナッツを1つ手に持ち、ミュラの口元へ近づけた。

 意図に気付いたミュラが大口を開ける。


「あ~~~~んっ! もぐもぐ……おいしい! もうひとくち! もうひとくち!」


「だったら 手 洗う」


「む~……あ~ん、してほしかったのに~」


 ミュラは口を尖らせて、手を洗い始めた。


「コヨミさん、これ、売る。どう?」


「売る?」


「そう。これなら 俺 顔を出さず お金 稼げる」


「ああ、そういう事っスか……なるほど……」


 コヨミは少し考えるように顎に手を当てた。


「ん~……なんか、食堂からまた離れて行っている気もするけど……確かに、その方がありがたい……むむむ…………よし、決めたっス。まずはお試し期間を設けて、うけが良かったら本格的にっていうのはどうっスか?」


「ああ、それで いい」


 これで、少しはコヨミの懐が温かくなればいいな。


「ん~! おいひぃ~!」


 一方ミュラはその横で、満足そうに頬を膨らませていた。

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