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ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~  作者: コル
第12章 ミュラ達がんばる!
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第91話

 掃除も終わり、ミュラ達はケーキ作りを再開し始めた。


「……もう 一度 やる」


 俺が声をかけると、ミュラは一瞬だけこちらを見て、小さく頷いた。


「……うん……」


「今度こそ、うまく割るっスよ」


 コヨミがミュラに卵を渡す。

 ミュラはゆっくりと卵を台の角に近づけて、軽く当てた。


「そ~っと……そ~っと……」


 プルプルと震えながら、ゆっくりと卵を開く。

 中身が器の中に落ちて、ミュラが心配そうにのぞき込んだ。


「……できた……かな?」


 殻は混ざっていないし、黄身も割れていない。

 完璧だな。


「ああ」


 俺が頷くと、ミュラは嬉しそうに、その場で軽くジャンプをした。


「やった~!」


「オ、オレもやる!」


「駄目駄目……卵割りは僕とミュラちゃんに任せといて」


 カルが卵を持ったターンを止め、その卵を取り上げる。


「あっ! おい!」


「この状態で、殻が入ったら取るのが大変でしょ? 大人しくしててよ」


「ぐぐぐ……」


 先ほどの件もあり、ターンは何も言い返せず、歯がゆそうにする。

 まぁ、こればかりは仕方ないよな。


「次、混ぜる」


 俺は泡立て器を取り出して、器の横に置いた。


「それ! オレがやる!」


 そう言って、ターンが泡立て器を手にする。

 それを見たカルが慌てて止めた。


「せっかく掃除したのに、さっきみたいになるじゃないか!」


「しねぇよ! それにさっき失敗したから、今度こそ成功させたいんだよ」


「でも……」


 心配するカルの肩に、コヨミが手を乗せる。


「カル、ターンを信じるっスよ」


「……うん。わかった……」


 ターンは器を片手で押さえ、泡立て器を器の中に入れてゆっくりと動かし始めた。

 先ほどとは違い、勢いはかなり抑えられている。

 卵が外に跳ねることはなかった。


「そのまま 続ける」


「おう」


「コヨミさん、今のうち 牛乳 温める」


「了解っス」


「…………こんな感じでどうだ?」


 俺は器の中を覗き込み、卵の状態を確認した。

 うん、これならいいだろう。


「いい」


 そう言うと、ターンは手を止め、小さく息を吐いた。


「ふぅー、結構疲れるな」


 だろうな。

 かき混ぜる系の料理は体力勝負でもある。


「次 これ」


 そのタイミングで砂糖の入った容器を取り出し、90gを器の中に入れた。


「さ、かき混ぜる」


「えっ! まだ混ぜるのかよ!?」


 俺の言葉にターンが露骨に嫌な顔をした。

 仕方ないだろう、ケーキは混ぜて混ぜての繰り返しなんだからな。


「仕方がいないなー。次は僕がやるよ」


 カルが器を持ち、混ぜ始めた。

 回し続けて、砂糖のざらつきが無くなれば次だ。


「牛乳 いい?」


「いいっスよ」


 コヨミは火から鍋を下ろし、そのまま器の横に持ってくる。


「このまま入れていいっスか?」


「いや、少し ずつ。一気に 入れない」


「わかったっス」


 コヨミはお玉で、少しだけ牛乳をすくい、器の中に垂らした。


「そのまま 混ぜる」


「うん、わかった」


 混ぜながら、また少し牛乳を足す。

 それを繰り返し、牛乳を全部入れ終わる頃には、器の中はなめらかな液体になっていた。


「次 いく」


「ふぅー……混ぜるのは、これで終わり?」


「いや、まだ」


「ええ!? まだ!?」


 今度はカルが露骨に嫌な顔をした。

 こいつもかよ。


「じゃあ、つぎはミュラがやる!」


 カルと入れ替わりで、ミュラが器と泡立て器を手にする。

 俺は小麦粉の袋を引き寄せて開けた。


「次、粉 入れる。これも 少しずつ」


「うん! わかった!」


 小麦粉を少しずつ入れていくと、生地がどんどん粘り気を持ち始めた。


「……ぐぬぬ! おもい~!」


 明らかにミュラの混ぜる速さが落ちてきている。

 ここは男どもに任せるべきだったか。


「止めるな。そのまま」


「うん!」


 とはいえ、今変われと言ってもミュラは絶対に嫌がるだろう。

 こういう時は最後までやり通したいタイプだからな。

 だったら、続けさせるしかない。


 やがて、小麦粉も全部器の中へと入れ切った。

 器の中は、とろみのある生地になっていた。


「……はぁ……はぁ……こ、これで……いいの?」


 ミュラが息を切らしながら聞く。

 俺は器の中をのぞき込み、指で生地を少しだけすくった。

 理想はもっと混ざっていた方がいいんだが……ミュラの体力を考えると、このくらいならいいかな。


「いいぞ」


 声をかけると、ミュラは大きな息を吐いて、両手をぶらぶらさせた。


「……あ~……つかれた……」


「まだ 終わり じゃない」


「「「ええっ!? まだ!?」」」


 俺の言葉に、ミュラ、ターン、カルが同時に声を上げた。


「これ 入れる」


 俺は一欠けらのバターを器の中に入れた。


「さっ、早く 混ぜる」


「「「……」」」


 ミュラとカルはターンを、ターンはカルの顔を見つめた。


「……ちっ! しょうがねぇな!」


 多数決に負けたターンは泡立て器を手にしてかき回し始めた。


「がんばれ、これ 最後」


「やってやらぁ!!」


 ターンはただひたすらかき回し続けた。



「はあー……はあー……ど、どうだ?」


「ムラ 無し……混ざってる。これで いい」


「はあ……終わった……」


 ターンがその場で座り込みそうになるのを、カルが慌てて後ろから支えた。



 俺は底が深い陶器を引き寄せて、台の中央に置いた。

 これが、スポンジの枠になるってわけだ。


「生地 この中 流す」


「うん、わかった」


 ミュラが器を持ち上げ、そのまま陶器の上で傾ける。

 とろりとした生地が流れ落ちて陶器に溜まる。


「ならす」


 陶器の端を持って、軽く左右に揺らす。

 これで偏っていた部分を均等にする。


「じゃあ、コヨミさん。窯に」


「おまかせっス」


 コヨミが石窯の前に立ち、扉を開けた。

 そして、陶器をゆっくり中へと差し込んだ。


「……これで……よしっと……」


 窯の扉が閉じられ、後はこのまま焼くだけだ。




 窯に入れて、だいたい30分くらいたっただろうか。

 時間的には、頃合いだ。


「コヨミさん。出して ほしい」


「お、とうとうっスね!」


 コヨミは両手にミトンをはめ、扉を開けた。

 その瞬間、生地の焼けたいい匂いが広まった。


「うわ~……いい匂い……」


「これは成功だな!」


「そうだね!」


 3人は興奮した様子だが、中を覗いたコヨミの表情はあまり良くなかった。

 これは、多分……。


「おねえちゃん、どうしたの?」


「……」


 ミュラの言葉に、コヨミは無言のまま陶器を取り出した。

 そして、台の上に置く。


「……あれ?」


「は?」


「どういう事?」


 陶器の中を見て、3人が驚きの声を上げた。

 それはそうだ、生地は焼けてはいた。

 しかし、膨らんでいない。

 明らかに石窯の中に入れる前と同じ量だ。


「……膨らんでないっスね……」


「……えと……しっぱい……ってこと?」


 ミュラの言葉に、俺は頷くしかなかった。

 膨らまなかったことを考えると、かき混ぜ不足だった可能性が高いな。

 やはり、小麦粉を入れるタイミングは男どもにやらせるしかない。


「そんな~……」


「マジかよ……」


「頑張ったのに……」


 3人が落ち込んだように肩を落とした。

 そうなる気持ちはよくわかる。

 俺も、料理を失敗した時はそうなるからな。


「3人とも、何を落ち込んでいるっスか!」


 コヨミは明るい声を出し、3人の頭をくしゃくしゃと荒っぽく撫でた。


「確かに失敗しちゃったっスけど、最初はこんなもんっス! どんどん練習をしてうまくなればいいっスよ!」


「……そうだね……うん! ミュラ、つぎはせいこうさせる!」


「俺も!」


「僕も!」


 コヨミの言葉に3人が笑顔になった。

 よかった、コヨミのおかげで空気が明るくなった。

 じゃあ、最後に残ったこれは……。


「これ、俺 食う」


 俺は焼き立ての生地を台の上に置いた。


「……え? それ、たべるの?」


「ああ、捨てる もったいない」


 砂糖を少し取って、上から振った。

 そして、包丁で生地を少し切り、口の中へと入れた。


「もぐもぐ……うん、いける」


 パンの中身を押し固めた感じで、到底スポンジとは言えない。

 けど、そういうパンと考えれば全然問題ない。


「……ミュラもたべる!」


「俺も食っていいか?」


「僕も僕も!」


「ウチも食べるっス」


 4人はそれぞれ生地を持ち口に入れた。

 この苦い失敗を、甘い糧にするように……。

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