第87話
午後。
窓から入る光が、心地よい昼下がり。
『……ふぃー』
俺はまったりと椅子に座っていた。
相変わらずこの食堂にお客様は来ない。
ゆったりとした時間が過ぎていく……まぁ食堂としては駄目なんだがな。
すると、食堂の扉が勢いよく開いた。
「ただいま~!」
「ただいまっス」
入って来たのはミュラとコヨミだった。
なんだ、買い物に行っていた2人か。
客かと思ったぞ。
「おか えり」
「たっだいま~!」
ミュラが笑顔で、俺に向かってもう一度声を上げた。
なんだ、妙に機嫌がいいようだが……。
『……ん? スンスン……』
何やら、匂いがするぞ。
甘い……お菓子だろうか。
「何か 買って きた?」
コヨミに聞くと、コヨミは笑顔で1個の箱を取り出した。
「正解っス! ケーキを買ってきたっスよ」
「ケーキ! ケーキっ!」
ミュラが嬉しそうに両手をばたつかせる。
なるほど、妙に機嫌が良かったのはそのせいか。
「ゴブくん、ウチはお茶とか用意するっスから、戸締りお願いしていいっスか?」
「ああ」
コヨミは箱をテーブルの上に置き、台所へと歩いて行った。
俺は椅子から降り、食堂の入口へと向かい鍵をしてカーテンを閉めた。
そして振り向くと、俺が座っていた椅子にミュラがちょこんと座っていた。
『準備万端だな……』
「はい、お待たせっス」
コヨミがお茶の入ったコップをテーブルの上に置いた。
そして、箱の中からケーキを取り出した。
白いクリームが全体を覆い、その上には数種類の果物がカットされて乗っている。
「おお、これ うまそう」
ミュラが身を乗り出す。
「おいしそ~……じゅるり」
目がケーキに釘付けだな。
今にも、このままかぶりつきそうな勢いだ……。
「今切るっスからね~」
コヨミは包丁で3等分に切り分け、皿を並べていく。
若干大きさにばらつきがあるが……まぁ、これはご愛嬌ということにしておこう。
「……ん~…………はい、どうぞっス」
コヨミは大き目のケーキを選び、ミュラの前に置いた。
「わああい!」
ミュラは嬉しそうにすぐさま皿を持ち、フォークを握りしめる。
「ふふっ」
コヨミは笑いながら椅子に座った。
「さっ、食べるっスか」
そのコヨミの一言で、ミュラが即座に動いた。
フォークでケーキを切り突き刺す。
「あ~んっ!」
そして勢いよく口へと入れた。
「ん~! おいひぃ~!」
ミュラは目を細くして、頬がゆるむ。
「どれどれ?」
コヨミもフォークでケーキを切り、一口食べた。
「んんっ! おいしいっス~」
コヨミも頬に手を当てて微笑んだ。
俺もフォークを持ち、ケーキを切った。
おお、スポンジが柔らかくてスッとフォークが入るぞ。
切った部分をフォークで刺し、口に入れた。
『……もぐもぐ……』
うん、クリームの甘さがちょうどいい。
甘ったるくもなく物足りない感もない。
そして、果物の酸味がアクセントになってクリームをより引き立てるな。
しばらく3人でおやつを楽しんでいると、コンコンと入り口から音がした。
俺たちは入り口の方を見ると、もう一度音がした。
「だれかきたのかな?」
「……みたい だな」
俺は椅子から降り、外してあったフードをかぶり、顔を隠した。
コヨミはそれを確認してから入り口へと近づく。
「はいはい、今開けるっスよ」
カーテンを開き、入り口の扉を開けた。
そこにはターン、その後ろにはカルの姿があった。
「ターンとカルじゃないっスか」
「姉ちゃん、こんにちは」
カルがペコリと頭を下げた。
「こんにちはっス……あれ? ナナは?」
コヨミの言葉にターンが肩をすくめた。
「今日は、オレたちだけなんだ……えと、いまから話いいかな?」
「ん? いいっスよ。さ、中に入ってっス」
コヨミがそう言って、扉から体をずらした。
ターンが頷き、中へと入ってきた。
カルもその後に続く。
「じゃあ、みんながいる席に座るっス」
「ああ、わかった」
ターンとカルは、俺たちの席まで来て、それぞれ椅子を引いて座った。
コヨミは扉を閉め、空いている椅子に座った。
「で? 話ってなんっスか?」
コヨミの質問にターンとカルがお互いの顔を見る。
そして、ターンが口をひらいた。
「えと……来週のナナの誕生日パーティーのことなんだけど……」
「えっ!? なにそれ!? たんじょうび!?」
ミュラが驚いて身を乗り出した。
突然のことにターンがビクリと体を震わせ、ゆっくりと頷いた。
「あ……ああ、そうだけど……え? 招待状、来ていないのか? ナナはお前に渡したって……」
「ミュラ、しらないよ!」
「あっ!!」
コヨミは大声を出し両手を叩いた。
そして、椅子から立ち上がり急いでかけてあったエプロンの傍まで近づき、ポケットに手を入れた。
すると、1枚の封筒くらいのサイズの紙を取り出した。
「ウチが受け取って、ミュラちゃんに渡すの忘れてたっス……」
「コヨミおねえちゃん! もっと、はやくおもいだしてよ!」
「ごめんっス、ごめんっス」
怒るミュラにコヨミが平謝りをする。
そんなやり取りを横目に、カルがほっとしたようにターンに語り掛けた。
「良かった、この感じだと何も決まってないみたいだね」
「ああ、そうみたいだな」
ターンとカルのやり取りに、俺は首を傾げた。
「と、いう と?」
「あ、何かみんなでサプライズをしようかって、ターンと話していたんだ」
「え? みんなって、ミュラも?」
ミュラは怒りを引っ込めてターンの方を見る。
「お、お前もオレたちの……な、仲間だし……な……」
ターンは照れた様子でミュラから顔をそらした。
「わああ! うれしい!」
ミュラは両手をばたつかせて喜ぶ。
なるほど、サプライズか……。
確かに誕生日に何かするのは定番ではあるな。
「じゃあ プレゼント 用意 しないとな」
「「う……」」
俺の言葉にターンとカルが苦笑する。
なんだ、この反応。
「えと……オレたち今金が少なくて……」
「だから、みんなで……お金のかからないサプライズをと……」
そういう訳か。
仲間だからってだけじゃなく、理由があったわけね。
「う~ん……お金のかからないサプライズっスか……」
コヨミが腕を組みながら椅子へと座る。
「う~ん……」
ミュラも両手を組み唸る。
「ナナちゃんが、よろこびそうなの……よろこびそうな……ん?」
食堂内を見渡し、ある物に視線を止めた。
その視線の先にあるものはケーキが入っていた箱だ。
「そうだ、ケーキ!」
ミュラの言葉にターンが眉をひそめた。
「は? ケーキだって?」
「そう! ケーキ!」
「……いや、ケーキを買うんじゃ、サプライズになんか……」
「ちがうよ! ケーキをつくるの! ミュラたちで!」
「え? 僕たちでケーキを?」
困惑するカルに、ミュラが頷く。
「そう! みんなでケーキつくるの! ナナちゃん、よろこぶとおもうよ!」
ミュラの言葉に、ターンは両手を組み少し考えてから口をひらいた。
「ケーキを作る……か。確かに、ナナは甘いもの好きだが……オレ、料理なんてしたことないぞ?」
「えと、僕も……」
それを聞いたミュラが胸を張った。
「だいじょうぶ! ゴブがおしえてくれるから!」
まぁそうなるわな。
仕方ない。
「いい。教える」
「……カルはどう思う?」
「うん、僕はそれでいいと思うよ」
ターンはカルの確認を取り、組んだ腕をほどいた。
「わかった、それでいこう」
「きまり! じゃあ、ちょっとまってて!」
そう言うと、ミュラは椅子から降りバタバタと2階へ駆け上がって行った。
そして、紙とペンを持って1階へと降りてきた。
「いまから、かいぎをします!」
「「会議?」」
ターンとカルが眉を同時にひそめた。
「そう! どんなケーキにするか、みんなできめるの!」
ミュラは鼻の穴を大きくして、フンスと鼻息を出す。
そんな姿を見て、ターンとカルは茫然とするのだった。




