第84話
翌日の朝。
俺たちは大通りを歩いていた。
買うものはもちろん、スープに使う材料、そしてラーメンの上に乗せる具の材料だ。
まずは目についた露店から昆布を買い、その足で八百屋へと向かった。
「おや、3人共、いらっしゃい」
「おばちゃん! おはよう~!」
ミュラは両手をあげ、八百屋のおばちゃんに挨拶をする。
おばちゃんはその姿を見て、にっこりと笑う。
「おはよう、ミュラちゃん。今日も元気だねぇ。で、何を買うんだい?」
八百屋のおばちゃんが袋を取り出して入れる準備をする。
「ネギ 2本、玉ねぎ 1個、にんにく 1個、生姜 1個、そして……タケノコ 6本」
「はいよ。ちょっと待ってね」
普通、タケノコを6本も買うのは多すぎると思うだろう。
しかし、この世界のタケノコは1本じゃ到底足りない。
何故ならツクシを少し大きくしたようなものだからだ。
そうなると、必然的に数が多くなってしまう。
「……はい、お待たせ。全部で1600ゴルドだよ」
「ありがとうっス」
コヨミはお金を払い、袋を受け取る。
さて、次に必要なものは……。
『メインの肉だ』
俺は肉屋の方へ足を向けた。
「おじちゃん! おはよう!」
ミュラが八百屋のおばちゃんの時と同様に、肉屋の親父に挨拶をする。
「おう! おはようさん! 今日は、朝から買いに来たのか」
「そうっス。ゴブくん、肉は何を?」
「……えーと、豚バラ ブロック 400グラム……」
「あいよ、豚バラのブロックを400ね」
肉屋の親父が紙を広げて、豚バラのブロックを包み始める。
「……あと 豚の骨 ほしい」
俺の言葉に、一瞬全員動きが止まった。
「……はあ? 骨だあ?」
肉屋の親父が眉をひそめながら驚きの声を上げた。
「ちょっ! ゴブくん!?」
「豚の 太ももの骨、後 背骨 ほしい」
「なんで、そんな物がほしいっスか!?」
「スープ 使う」
「スープ……? あ、前に作った魚の……? え? 豚の骨でも出来るんっスか?」
「そう」
コヨミの言葉に、俺は力強く頷いた。
「……なるほど……おっちゃん、あるっスか?」
「いや……あるにはあるが……」
「もらえるっスか?」
「……ああ……別に構わないぞ……豚の太ももの骨と、背骨だったな? ちょっと待ってろ」
肉屋の親父は頭をかきながら、店の奥へと入っていった。
そして、大きな骨を腕に抱えて戻って来た。
「これで、いいのか?」
豚の太ももの骨と背ガラが台の上に置かれる。
「ああ、いい」
「そうか。骨をほしいって言ってきたのは、初めての経験だぜ……」
「え~と……骨はいくらになるっスか?」
「へっ? んー……骨は売ったことがねぇからなぁ……」
肉屋の親父は両腕を組み、しばらく考えてから口をひらいた。
「……骨は処分するだけだし、いつも肉を買ってくれるし……タダでいいよ」
「いいっスか?」
「ああ、いい。この骨も包んでやるから、しばらく待ってろ」
親父はそう言って、大量の包みで骨を包み始めた。
必要なものをそろえ、俺たちは食堂に戻って来た。
買ったものを厨房の台へと下ろし、一息ついてから作業を始めた。
「コヨミさん、すまない。卵 とって 来て ほしい」
「卵っスね。見てくるっス」
コヨミが裏口から外へと出て行った。
とって来てもらっているうちに、タケノコの下処理をしよう。
まずは鍋に水を入れる。
そこにタケノコと米をひとつかみ入れる。
そして、かまどの上に置いて煮ていく。
『……これでよしっと。アク抜きをしている間に、次だな』
「ゴブくん~、卵4個だけあったっス」
4個なら十分だな。
「ありが とう」
卵が届いたのなら、次は卵の仕込みをするか。
鍋に水と卵を入れて沸騰させる。
沸騰したら火を少し弱めて、6〜7分ほど茹でる。
『……そういえば、ラーメン屋で作られてる味玉は、半熟の黄身の位置と同じ仕上がりなる様に沸騰してから卵を入れて茹でているって聞いたことがあるな……』
俺にはそんなことは出来ない。
その辺りは、やっぱりプロだなと思うな。
茹で終わったら冷水で冷やして、殻をむく。
器に水200ml、そこに塩10gを入れてよく溶かす。
そこに軽くつぶしたニンニク1片、生姜の薄切り3枚、刻んだネギを少々、殻をむいた卵を入れて蓋をする。
本当なら、醬油ベースにしたいがこの世界にはないからこれで行くしかない。
今度は肉だ。
俺は包みを開いて、豚バラのブロックを手に取った。
豚バラのブロックの表面に塩を落として、均一になるように全体に擦り込む。
刷り込んだら清潔な布で豚バラのブロックを包む。
包んだ豚バラのブロックを器に入れて蓋をして、残る工程は……。
「……」
「ミュラ」
俺はミュラの方を向いた。
「ん?」
「氷で この器 囲って ほしい。冷やし たい」
「うん、わかった」
ミュラが器に手をかざす。
すると、氷が器を包み込むように固まった。
『よしよし、後は氷が溶けないように……つめたっ!』
凍傷に気をつけながら、凍った器を床下収納庫にしまった。
後は1晩置いておく。
「これで バッチリ。次は……」
俺はアク抜きをしていた1本のタケノコに串を刺してみた。
すると串は簡単にタケノコに刺さった。
流石小さい分、柔らかくなるのも早いな。
鍋を火からおろして、そのまま自然と冷えるまで放置だ。
『さて……今日のメインの骨だな』
包みに巻かれた太ももの骨と背骨を取り出す。
白くて太い、いい骨……なのかな。
その辺りの目利きがないからよくわからないが、太いから良しとしよう。
だが、このままでは骨のエキスはちゃんと出ない。
「コヨミさん、お願い ある」
「なんっスか?」
「これ、割って ほしい」
太ももの骨を指で軽く叩いた。
コンコンと硬そうな音がする。
「その骨を割ればいいっスね。任せてっス」
コヨミが太ももの骨を持ち、グッと力を入れた。
「ふんっ!」
すると、枯れ木が折れるような音と共に簡単に割れた。
本来ならハンマーとか使って、割るものなんだが……流石コヨミだな。
洗った寸胴鍋に水を張り、その中に割った太ももの骨と背骨を入れる。
そして強火のかまどの上に置く。
しばらくして、沸騰してくると灰色の汚れが浮いてくる。
血、タンパク、雑味といったものがこれで取れるわけだ。
そうしたら、火からおろして骨を取り出す。
「すまない。この鍋 洗って ほしい」
「了解っス」
「ミュラ、骨 洗う 手伝って」
「うん、いいよ~」
取り出した骨を水で洗う。
ぬめり、黒ずみ等を指先でこすって確実に除去する。
でなければ雑味が出て、おいしくできないからな。
しっかり洗ったらもう一度、寸胴鍋に水と骨を入れる。
そこにネギを1本、玉ねぎを1個、潰したニンニクを3片、薄切りにした生姜を3枚入れる。
そして、かまどの上に置く。
『……ふぅ……ここからがスープ作りの本番だっ!』




