第83話
体が……まぶたが……重い。
『……んん……うう……』
ゆっくりと目を開けると、見慣れた天井があった。
『……あれ……』
ここは……俺の部屋だ。
いつ戻ったのか、まったく覚えていないぞ。
確か、麺を作って……。
『……できて……それから…………』
……そこで記憶が途切れているぞ。
あの後一体どうしたんだっけ。
ゆっくりと上半身を起こすが、少しだけふらつく感覚があった。
まだ少し眠気が残っているようだけど……。
『……腹、減ったな……』
ぐう、と腹が鳴った。
眠たくても、空腹には逆らえない。
『……よい……しょっと……』
俺はゆっくりと立ち上がり、ふらつきながらも1階へと降りた。
「あっ! ゴブくん!」
俺を見たコヨミが声を上げる。
その声と同時に、ミュラが俺の方に振り向く。
「あっゴブ! だいじょうぶ?」
「ああ……もう 大丈夫」
ミュラは少し近づいてきて、俺の顔を覗き込んだ。
「ほんとうに?」
「本当」
そう言うと、ミュラはほっと息をついた。
「よかったぁ……」
「?」
俺は訳が分からず、首を捻った。
「ゴブくん、まさか覚えていないっスか?」
「な、何?」
「何? じゃないっスよ。今朝、倒れちゃったっス」
コヨミは呆れた様子で腕を組んだ。
「え? 倒れ……た?」
「そうっス。それで、ウチが部屋まで運んだっス」
ああ、それで俺は自分の部屋にいたのか。
「……そう、だった のか。ありがとう……」
「いえいえ……ただ、アレ……どうするっスか?」
そう言って、コヨミは親指で厨房の方を指した。
「……アレ?」
何のことかと思い、指した方向を見る。
「……あ……」
そこには、山のように積まれた麺の塊があった。
崩れたもの、固まったもの、乾いたもの。
形もバラバラな麺の失敗作。
「さすがに……捨てるの、もったいないっスよね……」
コヨミが困った顔で言う。
確かにそうだよな。
「でも、これ……たべられるの?」
ミュラの言葉に、俺は小さく頷いた。
「……食べ れる」
ただ、食べられることは食べられるが、このままではちょっとな。
ついでに、これを調理して腹の足しにしよう。
俺はそのまま食料庫へ向かった。
「えーと……」
今食料庫にあるのは玉ねぎ、キャベツ、ネギ、ジャガイモか。
なら一番単純な汁物から作るか。
玉ねぎ、キャベツ、ネギ、ジャガイモを手に持ち、厨房へと向かった。
まずは、ささっと野菜を一口サイズに切り分ける。
野菜を切り分けたら鍋の中に入れて、水を注ぐ。
そして、かまどの上に置いて、しばらく煮る。
野菜に火が通って柔らかくなったら、失敗麺を細かくちぎる。
さらに指で潰して、鍋に入れて混ぜれば……。
「わあ! スープがとろとろになっていく!」
鍋を覗き込んだミュラが驚いたように声を出す。
汁にとろみがついたら、後は塩で味付けして、ネギを散らせば完成だ。
『さて、汁物だけじゃ寂しいから……もう1種類の方も作るか』
俺は別の塊を手に取った。
まず失敗麺を集めて、強く握る。
フライパンを加熱して、その上に油を少し流してなじませる。
そして、握った麺をフライパンに押し付けて焼く。
表面が焼けたら、ひっくり返して裏面も焼く。
裏面を焼いている間に塩を振って味付け。
裏面も同様に焼けたら塩を振る。
両面をしっかり焼いて、こんがりと色がついたら完成だ。
「おお……焼けたいい匂いがするっス」
『……味見しておくか。はむっ』
外はカリッと、中は少しだけもちもち食感。
まぁ悪くはないが……。
『……ちょっと味気ないな……』
とはいえ、今出来るのはこれが限界か。
それにしても、現世界での失敗がここでも生きるとは思わなかった。
伸びてしまったインスタントラーメンの麺……。
それはそれで好きな人はいるだろうが、俺はあのふにゃふにゃした麺がどうしても好きになれない。
それで、調べて作ったのがこの2種類ってわけだ。
「ねぇねぇ! それ、ちょうだい!」
ミュラが手を伸ばしてきた。
「ああ、ほら」
俺は焼いた失敗麺をミュラに手渡した。
「わ~い! はむっ……んっ! そとのカリカリがおいしい!」
「もうミュラちゃんってば、さっきおやつ食べたばかりなのに……」
「だって、おいしそうだったんだもん!」
「……へ? ……おやつ?」
2人のやり取りに俺は首を捻った。
その言葉にコヨミが頷く。
「そうっスよ。もうすぐ夕方になるっス」
「…………ええっ!?」
俺、そんなに寝ていたのかよ。
窓の方を見ると、コヨミの言う通り辺りが赤く染まり始めていた。
『マジかよ……』
「しかし、ゴブくん。残りはどうするっスか?」
さっきで消費できたのはほんの一部。
まだまだ、失敗麺は残っている。
こういう場合は……。
「ミュラ、お願い ある」
「ん? なに?」
「この麺 カチコチ 凍らす」
冷凍保存して、徐々に使っていく。
もうこれしかない。
「え? これを?」
「……そう、また 使う」
失敗麺を小さい器に押し込み、ミュラの魔法でどんどん凍らせていった。
『……当分は……』
俺は積み重なっていく器を細目で見つめた。
『……あの汁と、麺焼きがメインだな……』
2人も協力してくれればいいが。
とはいえ、一応納得のする麺は出来た。
次の作業に入っても問題ないな。
「コヨミさん」
「なんっス?」
「寸胴鍋 ある?」
スープ作りは、やっぱり寸胴鍋だ。
しかし、厨房には見当たらなかった。
ただ、ここは食堂だからない方が不自然なんだよな。
「寸胴鍋? ああ、おばあちゃんが使ってたやつならあるっスよ。ウチは使わないから、物置にしまってあるっス」
おお、よかった。
「物置 どこ?」
「こっちっス」
俺はコヨミの後について行った。
「ここっス」
食堂の奥にある扉。
何の部屋だろうとは思っていたが、物置だったのか。
「よっと」
コヨミが扉を開けると、ほこりの匂いが広がった。
「けほっ……久しぶりに入ったっス……」
中に入ると、足に埃が付いた。
確かに、開かずの間状態だったみたいだな。
そんな物置の中をかき分けていく。
そして……。
『……あった!』
大きな金属の鍋。
まさにラーメン屋で見る寸胴鍋だ。
表面を軽く払い、穴が開いていないか調べた。
『………………うん、問題なし。これなら、スープが作れるぞ』
俺は寸胴鍋を持ち上げ、コヨミに声をかけた。
「買い物 行く!」
「……買い物……?」
「そう! スープ 必要な 材料!」
「もう夕方っスよ?」
「……あっ……」
その言葉に俺は止まる。
「今から買いに行っても……ほとんど残ってないと思うっス」
確かに。
「……」
持ち上げた寸胴鍋が、さっきより重く感じて、その場におろした。
「……明日 行く……」




