第120話
まずは水を入れた鍋をかまどに置いて、沸騰させる。
その間に俺はソラマメのように大きいサヤエンドウを手に取り、さやの端に爪を引っかけて筋を引っ張り、そのままさやをぱかっと開いて中の実を取り出した。
さやは大きいが、実はサヤエンドウとほぼ同じ大きさ……明らかに釣り合ってないんだよな、これ。
取り出した実を器へと入れ、上から軽く塩を振って指先で優しくもみ込む。
『よし、こんなもんかな。湯の方は……いい感じだな』
沸騰している湯に塩を小さじ1入れて、サヤエンドウの実を入れて3分ほど茹でる。
茹で終えたらかまどから鍋を下ろして、そのまま冷ましておく。
次に、玉ねぎとニンジンを包丁でみじん切りにする。
文字通り三角コーンの形をしたコーンは粒の並んだ部分に包丁を当てて、刃を下へ滑らせるようにして実を削ぎ落としておく。
ベーコンを1枚ずつ重ね、幅を揃えながら1cm角切りにしておく。
切り終わったら、器に卵を2個割り入れてかき混ぜる。
全体的に混ざったら、牛乳を大さじ1加えて更に混ぜる。
『……これで……よしっと』
これで下準備は済んだ、最後の工程だ。
俺はフライパンをかまどの上に置き、みじん切りにしたニンジンと大さじ2杯の水を入れて蓋をしめた。
中火で蒸し焼きにして、水気がほとんど飛んでニンジンが少ししんなりしていれば準備完了。
そのままフライパンに油を足して玉ねぎ、コーン、サヤエンドウ、ベーコンを入れて炒めていく。
玉ねぎがしんなりしたところで、炊いておいたごはんを加えて、木べらで固まった部分を崩しながら具が全体に混ざるよう混ぜる。
混ざったら、ケチャップを大さじ2加えて、塩とコショウを少しだけ振って炒め合わせる。
ごはん全体が赤く染まればケチャップライスの完成だ。
出来たケチャップライスをかまどから下ろして、皿の中央へ山になるよう形を整える。
これで中身は完成、次は外側だ。
俺はフライパンをさっと拭き、かまどの上へと戻した。
そこにバターを一欠けら落として、熱で溶けたところにさっき溶いておいた卵を流し入れる。
卵が固まり始めたら、木べらで大きくかき混ぜながら加熱していく。
表面がふわりして半熟状になったら、フライパンを火から下ろす。
フライパンを皿へ寄せて傾け、卵を滑らせるようにしてケチャップライスの上へ乗せる。
『そして、最後にケチャップを卵の上にかければ……オムライスの完成だ!』
俺がこの世界に転生する前……現世界の母さんが好きだった家庭のオムライス。
流行りの食べる前に包丁を入れて、とろりと半熟の卵を広げるタイプもあるが、俺にとってオムライスといえば昔からこれだ。
「魚、焼けたっスよ~」
人数分のオムライスが完成すると、裏庭の入り口からコヨミと子供たちが入って来た。
手には焼けた魚を持ち、そのいい匂いが食堂に広まった。
「わぁ~いいにおい~! じゅるり」
涎を垂らすミュラを横目に、俺はおたまでスープをすくい、それぞれの器へと注いでから刻んでおいたネギを散らした。
デザートのシャーベットは食べる直前に作るから、これで料理はすべて完成だ。
「さっ、食べる」
オムライスの皿とスープの器を中央の席に置き、コヨミも焼き魚を皿に並べた。
テーブルの上には色紙や花が綺麗に飾られて、いつもの食堂とは違う光景になっていた。
「わぁ……」
ミュラは目を輝かせながら自分の席へと座る。
俺たちはそれを見て席につき、自然と全員がミュラの方へ目を向ける。
「ん? あっ……えと……」
その視線に気付いたミュラが、恥ずかしそうに顔を伏せた。
そして、意を決したように顔を上げる。
ミュラは笑顔で口を開いた。
「みんな、いろいろとありがとう! このまちですごせて、すごくたのしかった! ……ミュラがおとなになったら、ぜったいに……ぜったいにまたくるね!」
ミュラは笑ってそう言うと、ナナ達も笑顔でこたえた。
「うん! 待っているの!」
「だな」
「僕たち、いつまでも友達だよ!」
「ありがとう! それじゃあ……」
ミュラはスプーンを手に取り……。
「いただきます!」
大きな声をあげて、スプーンでオムライスをすくい、口へと運んだ。
ミュラは頬を膨らませたまま何度か噛み、飲み込んだところで目を大きくする。
「んん~! これ、おいしい!」
ミュラが嬉しそうに声を上げ、次から次へと口へ運ぶ。
よかった、オムライスは気に入ってもらえたようだ。
次にミュラはスープへ手を伸ばし、口に含んだ。
「……」
「ん?」
ミュラの反応がない。
まさか、失敗したか。
具を入れすぎたか……いや、鶏出汁が駄目だったのかもしれん。
「スープ まずい?」
俺が聞くと、ミュラは慌てた様子で首を横に振った。
「ううん! おいしいよ! すんごくおいしい! けど……」
「けど……?」
「よくわかんないけど、はじめてゴブにつくってもらったスープのほうが、おいしくかんじたんだ……」
これは思い出補正って奴だな。
だとすれば、このスープが貴族に出されるような超高級なものだったとしても、ミュラは初めてのスープの方がおいしいと言っただろう。
「……そうか……」
俺はそれ以上何も言わず、スープに口をつけた。
やがて食事も一段落し、ナナがターンとカルへ顔を向けた。
「そろそろ出すの」
「ああ、そうだな」
「うん」
3人が顔を見合わせて椅子から降り、ノルンが持って来て床に置いてあった箱へ向かっていった。
「どうしたの?」
ミュラが不思議そうに首を傾けた。
すると、箱から何かを取り出した3人がミュラに近づいてきた。
「じゃ~ん!」
ナナがウサギの人形をミュラへ差し出した。
「ミュラちゃんにあげるの! 私のお気に入りの子なの!」
「え? いいの?」
「うん! ミュラちゃんに持っていてほしいの!」
「……ありがとう! だいじにするね」
ミュラが両手で人形を受け取って胸へ抱き寄せる。
「僕からは、これ」
カルの手には花束が握られていた。
「わあ、おはなだ!」
受け取ったミュラが嬉しそうに鼻を花に近づける。
「ん~いいにおい~」
「……これ、やる」
ターンが少し乱暴気味にミュラの手のひらを開かせ、何かを乗せた。
「わぁ……きれい……」
それはキラキラと輝く、綺麗な石だった。
何かの宝石だろうか……それともただのガラス……いや、そんな詮索は良くないな。
大事なのは気持ちがこもっているかだものな。
「みんな、ありがとう! とってもうれしい!」
ミュラは鼻声になりつつ、受け取った物を大事そうに胸に抱える。
「……あっ! そうだ!」
かと思ったら、受け取った物をテーブルの上に置き、椅子から降りた。
そして、猛ダッシュで2階へと上がっていく。
「何だ?」
「何っスかね?」
時間をかけず、ミュラはすぐに1階へと下りてきた。
ミュラは何本ものリボンで結ばれた丸い紙の束を胸の前で抱えていた。
「これ、みんなに!」
ミュラはリボンの色を一つずつ確認しながら、紙の筒をそれぞれに渡していく。
「はい、ゴブの」
「あ、ああ……」
何だ、この紙は。
「これ、あけてもいいんっスか?」
コヨミが自分の紙を持ち上げて尋ねると、ミュラは何度も頷いた。
「うん、いいよ!」
俺はリボンをほどき、丸められていた紙をゆっくり開いた。
「あ……」
そこに描かれていたのは、俺の顔だった。
目は少し大きく、ところどころ線が飛び出していて、口の形も妙な具合に曲がっている……それでも、俺だとすぐに分かった。
辺りを見渡すと、みんなもミュラが描いた似顔絵を受け取っている。
そうか、ミュラが何かしていると思ったが、この絵を描いていたのか。
「……」
この似顔絵を見ると、胸の奥が熱くなって、自然と視界が歪んだ……。




