第116話
港町の入口まで戻ると、コヨミとヒヅキが話し合っているのが見えた。
その姿を見た瞬間、ミュラが立ち止まり握っていた手が強くなった。
うーむ……流石に負い目を感じているようだな。
どうしたモノかと考えていると、コヨミが俺たちの方に顔を向けた。
「――っ!」
その瞬間、コヨミが腕を振り上げて俺たちに向かって走って来た。
「あうっ!」
コヨミの姿を見たミュラが、俺の背中へと回りこんでしまった。
肩越しに振り返ると、ミュラは顔を隠すように俺の背中にくっつけている。
『やれやれ……仕方ないな……』
俺は小さく息を吐き、身体を半回転させた。
そして、ミュラの背へ手を回して軽く押し出した。
「わっ!」
「ミュラちゃんっ!」
ミュラの素っ頓狂な声と同時にコヨミが飛び込むように腕を広げて、ミュラに抱きついた。
「よかっ……ほんとに……よかったっス……!」
コヨミが震える声でミュラを強く抱きしめる。
呆気にとられていたミュラが、ゆっくりと手を持ち上げてコヨミの背中へと回した。
「……ごめ……なさい……っ」
ミュラが涙を流しながら謝る。
そんなミュラを、コヨミは何度も頷いた。
「いいっス……いいっスから……っ」
「見つかってよかったね……」
ヒヅキが安堵した表情を浮かべつつ、コヨミの背後に近づき、コヨミの背中を軽く撫でた。
「はぁ……はぁ……ん? ああっ! い、いたのか!?」
声がした方を見ると、肩で息をしているターンの姿があった。
「ああ! 見つ けた!」
俺の言葉に、ターンが大きなため息をついてから傍へと駆け寄って来た。
「……どうやら、無事だったみたいだな……よかったぜ。よし、オレは他のみんなに知らせてくるよ」
「あ、ノルンも探してくれているからお願いするっス。後、集合場所は食堂に!」
「わかった!」
ターンは頷き、走り出した。
「さっ、食堂に帰るっスよ」
「うん!」
コヨミは袖で目元を拭いながら笑う。
ミュラも同じように笑いながら頷いた。
「よっ、よっと」
コヨミはミュラの体を持ち上げ、抱え上げた。
「わっ」
「走り回って疲れているだろうから、ウチが運んであげるっスね」
「え? でも……」
「いいから……いいから……」
コヨミはそれ以上言わず、食堂に向かって歩き出した。
走り回って疲れているのは、コヨミも同じだろうに……そう思ったが、その言葉を口にするほど俺は野暮じゃない。
ヒヅキも俺と同じことを思ったのか、口角を少し上げつつ黙って歩き出した。
「ミュラちゃああああああああああん! よかったのおおおおおおおお!」
食堂の扉を開けるなり、ナナが一直線にミュラに向かって駆けてくる。
そして、飛びつくように抱きつき、両腕で強く引き寄せて顔を押し付けた。
「心配したのおおおおおお!! うわあああああん!!」
「……ごめんね……ごめ……ううう……」
ミュラとナナが泣き出した。
今日だけで、ミュラは相当泣いているな……もはや涙腺が枯れ果てるんじゃないだろうか。
……いや、まだ枯れてもらったら困るな。
その時まで……ちゃんと、残しておいてもらわないと。
「見つかってよかったです」
「だね」
「まっオレは心配してなかったけどな!」
遅れてノルン、カル、ターンが食堂へと入って来た。
するとコヨミが真剣な表情で口を開いた。
「……みんな……椅子に座ってもらってほしいっス」
「「「「?」」」」
ノルン、ターン、カルが不思議そうな顔をして、ノルンはその場の床に座り込んだ。
そして、ターンとカルが傍の椅子に腰を掛けた。
ナナも涙拭きつつミュラから離れ、近くの椅子に腰を掛ける。
「ミュラちゃん、ウチから事情を話していいっスか?」
「うん……」
コヨミの言葉に、ミュラがうつむきながら頷いた。
みんなが食堂に来る前、ミュラが帰る決意をした事をコヨミとヒヅキに伝えた。
それを聞いて、コヨミは辛そうな顔をしたもののすぐに笑顔で送り出してくれると言ってくれた。
今、その事をみんなに話すのだろう……。
「事情って……ミュラちゃんが、家出をしたことなの?」
「……そうっス……ミュラちゃんは……家に帰る事になったっス」
「……は? 帰るって、ここが家じゃん」
ターンが首を傾げた。
カルとナナも不思議そうな顔をする。
「1から、ちゃんと話すっスね……」
コヨミが一歩前へ出て、1つ1つ丁寧に説明をしていった。
ミュラが親戚の子ではなく人攫いに遭ってここへ来た事、ミュラの両親が見つかった事、そしてミュラは故郷へ戻る為に、この港町へはもう帰ってこれない事を……。
「…………だから、みんなとは、おわかれしなくちゃいけないの……」
全て聞き終えた後、ナナは首を横に振った。
「やだ! そんなの! やだ!」
「そうだよ! 僕も嫌だ!」
「……俺もだ!」
ナナ、カル、ターンが次々に口を開く。
いきなりこんなとこを話されて、納得できるわけがないのもわかる。
しかし……。
「……ごめん……ミュラ……パパと……ママに……あいたい……」
「……っ」
そのミュラの言葉に、ナナの喉が詰まりうつむいてしまう。
ターンは視線を逸らし、カルも大きく息を吐いて力なく肩を落とした。
そのまま誰も言葉を出せず、ただ重くなった空気だけが食堂の中を包んだ。
そんな空気の中、少し離れた位置に座っていたノルンが口を開いた。
「……いつ、帰るのですか?」
ノルンの質問にヒヅキが答える。
「私の任務の都合で申し訳ないのですが、滞在できるのは3日です」
「……3日……たったそれだけなの?」
ナナがつぶやき、そして顔を上げた。
「……だったら、お別れ会……したいの!」
「おわかれ……かい?」
「うん! ミュラちゃんとの楽しい思い出を作っておきたいの!」
「……そうだね……僕もそれに賛成! お別れ会をしたい!」
「もちろん、オレも参加するぜ」
「みんな……あの……コヨミおねえちゃん……どうかな?」
ミュラが不安そうにコヨミの方を見る。
コヨミは片目を閉じて、笑顔で親指を立てた。
「もちろん! やるなら盛大にやるっスよ!」
「「「「わああああああああああ!!」」」」
コヨミの言葉に、子供たちの歓喜の声が食堂に響いた。
お別れ会か……なら、俺はしてやれるのは1つだな。
「ミュラ……なに 食べたい?」
「え?」
「お別れ会、ミュラ 食べたいの 作る」
ミュラの好きな物を作る事だ。
「たべたいもの……んと……」
ミュラは少し考え、笑顔で答えた。
「……じゃあ、ゴブのスープ、やきざかな……あとシャーベット!」
「どうして それ? もっと 豪華 でも……」
「ううん……これがいいの……だって、はじめてゴブにつくってもらったものだか……それが、たべたい」
そうか……そういう事か。
確かに、ミュラの為に作ったのはそれらだったな。
ミュラにとっては、思い出の味になっていたのか……。
「……わかった。けど、更に おいしく 作る からな!」
「うん! たのしみにしてるね!」




