第114話
「ミュラ! ミュラ! くそっ!」
俺は必死に足元に絡みついた氷を外そうと、足に力を込めるがびくともしない。
こんなところで足止めされている場合じゃないんだ。
外に飛び出したミュラの後ろ姿がどんどんと食堂から離れて行っている。
「ミュラああああああ!!」
俺は声を張り上げるが、ミュラは止まらずそのまま姿を消してしまった。
「ミュラちゃん!! ――このっ!」
コヨミが腕を振りかぶり、凍った足元に拳を叩き付けた。
「――っ!」
ヒヅキも同じように拳を氷に叩きつける。
すると、氷に亀裂が広がり破砕音とともに2人の足元の氷塊が弾けとんだ。
そして、氷から脱出したコヨミが俺の方へと走って来た。
「ゴブくん、抜け出せそうっスか!?」
「無理!」
この状態を見ればわかるだろうに。
抜け出せるならとっくに抜け出しているっての。
「じゃあ、動かないでっス。動くと足の骨が砕けるっスよ!」
「えっ!? は、はいいい!」
俺は息まで止めて、体を硬直させた。
こんなところで足の骨を砕かれてたまるかっての。
「――っ!」
コヨミの拳が俺の足元付近へと振り下ろされた。
そして、破砕音と振動とともに足元の氷塊が弾けとんだ。
『…………ぷはっ! こえぇ……』
俺は恐る恐る足を上げ、無傷かどうか確認をした。
……痛みはなし、ちゃんと動く……よかった。
「2人とも、動けるようなら早くミュラちゃんを!」
おっと、そうだ。
足を心配してるより、ミュラの方が重要だ。
俺たち3人は、急いで食堂から飛び出した。
「3人で手分けして探すっス! ウチは上から探すっス!」
「ああ、わか……上?」
俺の言葉を最後まで聞かず、コヨミは壁を蹴って屋根に登った。
上からってそういう事ね。
「じゃあ、先に行くっスね!」
そう叫ぶと、コヨミは屋根の上を走っていった。
「ヒヅキさん 登らない?」
「この鎧姿では、流石に無理ですね……私たちは、走って探しましょう!」
ヒヅキがそう言うと走り出した。
なら、脱げばいいのではと思ったが……そんな時間ももったいない。
それに上からだと、裏路地といった陰になっている部分を見落としがちになるだろう。
2人でそういうところを重点に探した方がいいな。
「ヒヅキさん!」
「なんですか?」
「大通り等 コヨミさん まかす。俺たち 路地裏 中心 探そう!」
「そうですね、分かりました! では、私はこっちから行きます!」
ヒヅキは頷くと、右の路地へと入っていった。
『なら、俺は左の路地だな』
俺は走り出し、通りを抜けて路地を左へと曲がった。
辺りを見渡しながら、俺は必死に走る。
物陰、ゴミ箱の中、側溝、ありとあらゆる場所に目を向けたが、ミュラの姿は見当たらない。
祭りでミュラが迷子になってしまった時の事を不意に思い出した。
あの時も、こんな感じで必死に探したな……またノルンが見つけて保護してくれてればいいんだけど……そう甘くはないだろう。
『くそっ! はぁ……はぁ……』
流石に体力の限界になり、俺はその場で足を止めて息を整えた。
『はぁ……一体……どこ行った……んだ……はぁ……はぁ…………ん?』
「今度はちゃんと蹴れよ!」
「わかっているよ!」
「頑張るの~!」
俺の耳に3人の子供たちの声が聞こえてきた。
この声は間違いない。ターン、カル、ナナだ。
『いつも遊んでいる空き地にいるのか……? あっ! もしかしたら、ミュラの姿を見ているかもしれない!』
そう思い、俺は大急ぎで空き地へと向かった。
路地を曲がり、空き地へと出ると、予想通りターンたち3人がボール遊びをしていた。
「はぁ……はぁ……いた! おーい!」
「ん?」
俺が声を上げると、ターンが振り向く。
「あっ! ゴブじゃないか! おーい、カル、ナナ、ゴブが来たぞー!」
ターンの呼びかけに2人も俺の方を見る。
「本当だ!」
「ゴブ君なの!」
3人はボール遊びを中断して、俺の傍に寄って来た。
「お、おい、もう大丈夫なのかよ?」
「はぁ……はぁ……え? 大丈夫?」
「遊ぼうと思って食堂に行ったら……ミュラちゃん、泣いてたの……」
気が付かなかった。
あの時、3人とも来ていたのか。
「それで声掛けづらくて……僕たちで遊んでたんだけど……」
となると、3人ともミュラを見ていないことが確定したな。
泣いているところを見て、ミュラが1人でいるところを見たら3人が放っておくわけがない。
「理由 後で 話す! ミュラ 食堂 飛び出した! 今、探してる!」
「「「えっ!?」」」
3人が驚きの声をあげる。
「すまない! 手伝って ほしい!」
「手伝うに決まってるんだろ! 俺はあっちを探す! カルはそっち、ナナはこっちを頼む!」
ターンが路地に指をさし、カルとナナが頷く。
「うん!」
「わかったの!」
「みんな 頼む」
俺の言葉に3人は力強く頷いて駆け出した。
『……こっちに来てないとなると……反対側を探すか……』
俺は来た道を戻った。
どれくらい走り回っただろう。
何回同じ道を走っただろう。
それでも、ミュラの姿を見つけることは出来なかった。
『はぁ……はぁ……いったい、どこにいるんだ!?』
「ゴブくん!」
大通りに出ると、頭上からコヨミの声が聞こえてきた。
立ち止まり、頭をあげると、屋根の上にコヨミの姿があった。
そして、コヨミは飛び降りて俺の横に着地をした。
「見つ かった?」
「いや、まだっス……けど、ノルンを見つけて事情を話したら、一緒に探してくれる事になったっス」
「そうか。こっち ターン、カル、ナナ 探して くれてる」
「それでも見つからないなんて……一体どこに…………まさか! 組織の残党に!」
コヨミの言葉に鳥肌が立った。
もし、本当にそうなら一大事だ。
「はぁ……はぁ……それは……ないよ……はぁ……はぁ……」
背後を振り向くと、肩で息をするヒヅキの姿があった。
「……ふぅ……確かに、組織の人間は全て捕まえられてはいないけど、そいつらは逃げる事に必死。だから、そんな事をしている暇なんてないわ」
「そ、そうっスか……だとしたら……あっ! 人に紛れて、船に乗ったかもしれないっス!」
「あっ!」
そうだ、ここは港町。
その可能性は十分ある。
くそっ、なんでそれをもっと早く思いつかなかったんだ。
「だとしたら、馬車に乗った可能性もあるね……姉さんは、今日出た船の行き先を確認して! 私は入り口にある検問の記録を当たるわ!」
「わかったっス! ゴブくんは?」
「俺 町 もう一度 周る」
「了解っス!」
コヨミは港へ、ヒヅキは門の方へと走っていった。
船か馬車……どちらにも乗っていないことを祈るだけだな。
『どこに行ったんだよ……ミュラ……』
俺は顔を上げ途方に暮れた……その時、ふと高台が俺の視界に入った。
『……高台……あっ!』
この港町に来る前。
俺とミュラは、あの高台にある小屋で一晩を過ごした。
『……もしかしたら……』
俺はわずかな望みを胸に、高台にある小屋へと向かった。




