第110話
「うわ~……おいしそう……ねぇ! たべたい! プリン、たべたい!」
ミュラがプリンを目の前に、大きな声を上げた。
まぁ数もあるし、しっかりと出来を確認しないといけないから……。
「みんな 味見 する」
俺は1つのプリンを、台の上に置いた。
「私たちもいいのですか?」
ノルンの言葉に頷く。
「この 1つ だけどな」
俺はスプーンをそれぞれに手渡していく。
「メイドさんも また 確認 お願い」
「え? あ、ありがとうございます!」
俺もスプーンを持ち、みんなでそっとプリンにスプーンを入れた。
感触は、柔らかめではなく昔ながらの固めのプリンだ。
『はむっ……もぐもぐ……くううううう! これこれ、この味だよ!!』
この口に広がるプリン独特の卵と砂糖の甘さ。
そして、ほんのりと苦いカラメルがアクセントになって、よりプリンの甘みが増す。
これこそ、ザ・プリンだよ。
「んっ! あまくて、おいしい~!」
ミュラが両手で自分の頬を押さえながら、声を弾ませる。
「これが……セドリック様が求めていた物……確かに甘く、スプーンで食べ、口の中でくずれ、ぷるっとしていてスライムみたいな食感ですね」
「ん~……確かにそうっスけど……ウチからしたら、スライム感はあんまりないっスかねぇ……」
「その 場合も できる。とりあえず、これで いく」
その場合、牛乳の量を増やして、火の入れ具合が重要だ。
面倒だから、これで気に入ってもらえることを祈るだけだな。
「ん~……おいひいれふ~……」
メイドさんが幸せそうな顔をしている。
あの顔を見ていると、全く問題は無さそうだ。
「さっ、もって 行く」
俺はプリンをトレイに乗せ、厨房を出た。
客室へ向かうこの廊下を歩くのも4回目……。
客室前の扉の前でメイドさんが立ち止まった。
「旦那様、連れてまいりました」
「おお、待っていたぞ。入ってくれ」
メイドさんが扉を開け、俺たちは客室の中へと入った。
中央の椅子でセドリック男爵が身を乗り出していた。
「完成したか、楽しみにしていた」
ノルンがトレイを受け取り、テーブルへと近づく。
そして、皿をテーブルの上に置いた。
「……ほう、今度は黄色な……さて、味はどうかな……?」
セドリック男爵がスプーンを手に取り、ゆっくりとプリンに差し入れた。
そして、一口分をすくい上げて口へと運んだ。
「はむ……もぐもぐ…………っ!!」
次の瞬間、セドリック男爵が目を見開き、動きが止まった。
そして、手に持っていたスプーンが床へ落ち、金属音が部屋に響く。
この反応……もしかして……。
「……こ、これだ……これだ! これだよ……私が求めていたのは、これだ!!」
『よしっ!』
セドリック男爵の言葉に、俺は思わずガッツポーズを取った。
「よ、よかった……」
ノルンが安心したように肩の力を抜く。
そんなノルンにコヨミが笑顔で、その肩に手を置いた。
「やったね!」
その横で、ミュラが飛び跳ねる。
「おお……懐かしい……実に、懐かしい……もぐもぐ」
セドリック男爵は止まらずに食べ進め、プリンがあっという間になくなった。
そして、満足そうな笑みを浮かべてスプーンを皿の上に置いた。
「素晴らしい……すぐにでも、料理長にこれの作り方を教えてやってくれないか」
セドリック男爵の言葉に、ノルンが慌てて背筋を伸ばす。
「は、はい! 承知しました!」
すると、客室の扉からノック音が聞こえてきた。
「セドリック様、今よろしいでしょうか」
扉の外から男性の声がする。
「……ん? 何だ?」
「今、王国騎士の方がお見えになっております。いかがいたしましょう?」
「王国騎士が?」
その言葉を聞いた瞬間、ノルンがセドリック男爵の方へと向く。
「では、私たちはこれで……」
「ああ、今日は本当に感謝する……用件は済んだ、入ってもらいなさい」
「はっ!」
客室の扉が開き、セドリック男爵の兵士が先に入って一礼すると、その後ろから王国騎士が入って来た。
「失礼いたします」
「「「『……ん?』」」」
その騎士の声が聞こえた瞬間、俺、ミュラ、コヨミ、ノルンが同時に騎士の方へ向いた。
「…………ヒヅキ!?」
「へっ? えっ!? 姉さん!? それに、皆さんも!」
そこにいたのは、コヨミ……もとい、コヨミの双子の妹ヒヅキだった。
「どうして、姉さんたちがここにいるの?」
ヒヅキが眉を寄せながら質問をする。
コヨミも同じように眉を寄せながら答えた。
「セドリック様の依頼で来てるっスよ。こっちこそ、なんでここにいるっスか?」
「なるほど、依頼か。私の方は――」
「……ちょ、ちょっ待て!」
突然セドリック男爵が身を乗り出し、大声を上げた。
「同じ人間が……2人だと!? どういう事だ!?」
セドリック男爵の視線が、コヨミとヒヅキを行き来する。
その様子に、コヨミ、ヒヅキ、ノルンが呆れたような顔をした。
「はあ……まだ私の顔を覚えてくださっていないとは……今回で6度目ですよ……?」
ヒヅキがため息をつきつつ、こめかみに指をあて、顔を左右に振る。
「仕方ないですよ、私の顔を覚えるのに1ヵ月はかかりましたからね……」
ノルンが呆れた様子で続けた。
なるほど……セドリック男爵は人の顔を覚えられないタイプか。
しかも、ノルンの話を聞くにかなり重症のようだ。
普通、コヨミを見たらヒヅキじゃないかと聞くよな。
「セドリック様、ウチたちは双子っス。ふ~た~ご~」
「ふ、双子……? ああ、それで同じ顔をしているのか……すまない、確かに会ったのだろうが……日が経ちすぎてな……あはははは!」
笑ってごまかしてるよ……。
「ははは…………んんっ! ゴホン!!」
セドリック男爵がワザとらしく咳をし、真面目な顔をして背筋を伸ばした。
「君が来たという事は……『例の件』だね?」
「はい、そうです」
ヒヅキが頷くと同時に、チラリと俺たち……ミュラの方を見た。
ヒヅキ……例の件……そして、ミュラ……もしかして……。
「では、今度こそ私たちはこれで」
ノルンの言葉に、俺たちは改めて頭を下げた。
「ああ、後のことはよろしく頼む」
扉へ向かって歩き出すと同時に、ヒヅキがコヨミに声をかけた。
「……姉さん。セドリック様との話のあと、食堂に寄るから」
「……わかったっス」
短く会話を済ませ、俺たちは廊下へと出た。
食堂に寄る……か……これは、ほぼ間違いないだろう。
「では、料理長の部屋へと案内いたしますね」
「あ、はい。よろしくお願いいたします」
「は~い!」
メイドさんが歩き出し、その後をミュラとノルンがついていく。
俺とコヨミは、少し遅れて歩き出した。
「……コヨミさん……もしかして……」
横を歩いていたコヨミが俺の方を見る。
「……どうやら、進展があったみたいっスね」
「いい 知らせ……かな?」
「……だと……いいっスけど……」
俺たちは、それ以上言葉を出さず、笑いながら歩くミュラの後ろ姿を見ていた。




