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【完結】ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~  作者: コル
第14章 思い出の味

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第109話

 ババロアをトレイに乗せ、俺たちはセドリック男爵のいる客室まで向かった。

 メイドさんが扉の前で立ち止まる。


「参りました」


「お、もう出来たのか!? 入ってくれ」


 メイドさんが扉を開け、俺たちは部屋の中へと入った。

 先ほどと同じように、中央の椅子にはセドリック男爵が腰掛けていた。


「まさかこんなに早くできるとは、思わなかったよ」


 ノルンはぺこりと頭を下げ、テーブルへ歩み寄り、ババロアを上に置いた。


「ふむ……見た目はさっきと同じように見えるな」


「味 全然 違う」


「……ほう、それは楽しみだ」


 俺の言葉にセドリック男爵は笑顔を浮かべ、スプーンを手に持つ。

 そして、ババロアをすくい上げて口へ運んだ。


「…………うむ、確かにさっきのとは別物でだな。これはこれで、うまい……」


 セドリック男爵がスプーンを皿の上に置き、視線を俺たちの方へと向けた。


「かなり近い……だが、これではないな」


「そ……そうですか……」


 ノルンが残念そうに言葉を出し、頭を軽く振った。

 ミュラやコヨミも、またダメだったね……そう言いたげに俺の方を見る。

 安心しろ、今のセドリック男爵の言葉で答えはほぼほぼ見えた。

 次の質問で、完全にわかる。


「確認。卵の味、もっと 強かった?」


「む? ……そうだな……」


 セドリック男爵は目を瞑り眉間にしわを寄せた。


「……うん……確かに、そうだ。食感はこれに近く、もっと卵の風味がしたな」


 わかったぞ。

 セドリック男爵の思い出の味が。


「作れる! セドリック様の 思い出の 味!」


 俺の言葉に、ノルンが横で慌てて身を乗り出した。


「ほ、本当ですか?」


「卵、バター 買えば、今すぐ 作れる」


「え? 卵とバターだけっスか?」


「ああ、後 材料 ある」


 くそ、さっき卵を多めに買っておくべきだった。

 ババロア分しか買わなかったのが裏目に出た……後悔後に立たずだな。


「卵とバターが必要なのかい? おい、うちに両方あるか?」


 セドリック男爵がメイドさんの方に視線を向ける。

 するとメイドさんは小さく頷いた。


「はい、ございます」


「そうか。なら、それを使ってもいいぞ」


「え? よ、よろしいんですか……?」


 セドリック男爵が、そんな事言うとは思っていなかったのか、ノルンが目をぱちくりとさせた。


「いいとも、存分に使ってくれ」


「ありがとう ございます!」


 俺はセドリック男爵に頭を下げた。


「「「ありがとうございます!」」」


 ミュラ、コヨミ、ノルンが少し遅れて、頭を下げた。

 にこやかなセドリック男爵を部屋に残し、俺たちは厨房へと戻った。




「卵と、バターはこちらです」


 メイドさんが厨房の端にあった床の扉を開けた。

 するとそこには階段があった。


「冷えた空気が流れてくるっスね……」


 これってもしかして、氷室じゃないだろうか。

 そう思いつつ階段を降りると、氷が詰まれた食糧庫があった。


『やっぱり……氷室だ……』


 こんな土中の冷蔵、普通の家にはない。

 やっぱり金持ちは違うな……そんな事を考えつつ、必要な卵とバターを手に持ち、厨房へと戻った俺は早速調理に取り掛かった。


「始める」


 まずは小さい陶器を4つ用意する。

 その陶器の内側にバターを全体にまんべんなく塗り広げる。


「ミュラ、陶器 冷やす」


「え? まだなかに、なにもはいってないよ?」


「事前に 冷やして おく」


「なるほど、わかった」


 陶器を差し出すとミュラが両手をかざし、器を冷やし始める。

 俺はその間に、鍋を手にしてかまどの上に置いた。


 砂糖を30g入れ、水を大さじ1加える。

 サッとかき混ぜて、中火で砂糖の色が変化するまで熱する。

 砂糖が焦げ、厨房に甘い匂いが広がっていく。


「……ん? すんすん……すごくあまいにおいがする!」


 早速ミュラが反応し、鍋の中を覗き込んだ。


「ねぇねぇ、あじみしてもいい?」


「……ダメ」


「え~……けち~!」


「ケチ じゃない。この状態 まだ 砂糖の 甘さ だけ」


 何せ、これはただ砂糖を焦がしているだけだからな……。


 砂糖が薄い茶色になったら火からおろし、お湯を大さじ2加えて全体をなじませる。

 なじませたら、陶器の底に流し込む。


「ミュラ、もう一回 冷やす」


「は~い」


 鍋を洗って、次は牛乳を400ml、砂糖80gを入れて、かまどの上に置く。

 混ぜながら中火で熱して、鍋まわりに小さな泡が立ってきたら火からおろす。


 粗熱を取っている間に、大きな器を用意して卵を4つ割り入れる。

 そして、泡立て器で混ぜる。


 全体的に卵が混ざったら、先ほど作った牛乳を流し込んでいく。

 これもババロアの時と同じように、牛乳を少しずつ加えて、その都度混ぜていく。


 こしきを陶器の上に置き、卵液をゆっくり流していく。

 ある程度入れたら、陶器を軽く打ちつけて気泡を浮かせる。

 完璧な物を作るためには、この作業が欠かせない。

 めんどくさがると、出来た時の見た目が酷い事になるからな。


「さ、最後の 工程」


 また鍋を洗って、鍋底から2〜3cmほどの高さまで水を入れる。

 水を入れたら鍋底に布を敷いて、その上に陶器を均等に並べる。

 この布はかなり重要だ。

 布を挟むことで直火ではなくなり、熱がやわらかく伝わり、気泡の穴が出にくくなる。

 さらに、温度を安定して全体がじんわりと均一に火が入る。


 そして、これまた大事な作業。

 俺は蓋を布で巻き始めた。


「ん? ゴブくん、なんで蓋に布を巻いてるっスか?」


「水滴 落ちない ように する」


「へ? 水滴を?」


「ああ、水滴、天敵」


 このやり方だと、水滴が落ちて穴が開いてしまう。

 そんな事になったら目も当てられない。

 蓋を閉め、かまどの上に置いて中火で加熱していく。


 蓋の隙間から、蒸気が出始めるのが見えたところで弱火にして、約15分から25分蒸す。




「そろそろ いい かな?」


 俺は蓋を少しだけ持ち上げて、中の陶器を少しだけ揺すった。

 卵液の表面は十分固まっている。

 これなら、後は余熱で中まで温めればいいな。


 火からおろして1~2分ほど待ってから陶器を取り出して、台の上に並べた。


「お~……これでかんせい?」


 ミュラの質問に俺は首を振った。


「完成は ミュラ、頼んだ。これ、冷やす」


「ミュラがさいご!? うん! やるやる!」


 ミュラが嬉しそうに手をかざして、陶器を冷やしていく。

 十分冷えたら、陶器の底を軽く湯に当てて温めて……その上に、皿を乗せて、そのままひっくり返して静かに持ち上げる。

 すると黄色い中身が落ち、皿の上でプルっとしたプリンが顔を出した。

 カラメルもいい具合に溶け、プリンの側をゆっくりと流れる。


「出来た! プリン だ」


 これが、セドリック男爵が求めていた……甘く、スプーンで食べ、口の中でくずれ、ぷるっとしていてスライムみたいな食感の物だ。


『……多分だけど……』

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