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【完結】ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~  作者: コル
第14章 思い出の味

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第106話

 屋敷に入ると、メイドさんが俺たちにぺこりと頭を下げた。


「ようこそ。では、私に付いてきてください」


 そう言うと、メイドさんが廊下を歩き始めた。

 俺たちは、その後についていく。

 それにしても、中も広いな……迷子になってしまいそうだ。


「……ねぇゴブ、まいごになりそうなくらいひろいね」


「……そう だな……」


 ミュラも俺と同じことを思っていたか。

 なんかそれはそれで恥ずかしい。


 しばらく歩くと、メイドさんが大きめの扉の前で立ち止まった。


「ここが厨房になります」


 メイドさんは扉を開け、中へと俺たちを誘った。

 中に入ると、これまた広くきれいな厨房が目に入ってきた。


『広っ……――っ!』


 俺は思わず素の時の声を上げてしまい、慌てて口を塞いだ。

 しまった……今の、聞かれてないよな。

 恐る恐るメイドさんの方を向くと、メイドさんはにこやかに笑っていた。


「ふふふ、変な声を上げてしまいますよね。私も、初めて見た時は裏返った声が出てしまいましたよ」


 そして、懐かしそうに厨房を見てから、メイドさんは扉を閉めた。

 良かった、ただ変な声を上げただけだと思ってくれたようだ。


「うわ~! すっごくひろい! うちのしょくどう、なんこぶんだろ?」


「うぐっ! ……な、何個っスかね~……アハハハ……」


 ミュラの悪意のない言葉に、コヨミは矢を受けたように胸を押さえつつ口角をヒクヒクさせる。

 こればかりは言い返せるわけがない。

 何せ、現実が目の前にあるのだからな。


「ご自由にお使いください。ただ、あまり乱暴に扱ったり、汚さないようご注意くださいね……メイド長、そういうのが厳しくて、怒るとすごく怖いんです……」


 メイドさんがメイド長の話題を出した瞬間、声が震え視線を逸らした。

 その反応を見ればよくわかる。

 多分、角が生えるんだろうな……そして、お客とか関係なく俺も叱られるだろう。


「はい、わかり ました……気を つけます」


 別の意味でプレッシャーがかかるな。


 俺は台の材料を置き、上着を脱いで、裾をまくった。


「さあ 始める」


 まずは小さい器に水を入れる。

 そこに、スライムの粉末を入れて軽くかき混ぜる。


「これで よし」


「へっ? それだけっスか?」


 コヨミが首を傾げるのを横に、俺は器をそのまま横に置き次の作業へと入った。


「んー……とりあえず、オレンジに するか」


 オレンジジュースの容器を取り出し、鍋の中へと入れる。

 そして、砂糖を加えるんだが……その量は、ジュースの味次第だから慎重にしないといけない。

 スプーンでジュースを少しすくい、味見をする。


「…………んー、これ だと 大さじ2 くらい かな?」


 ジュースの中に砂糖を入れ、もう1度味見だ。


「……うん、こんな もんか」


 鍋を火にかけ、沸騰しない様に加熱をして砂糖を完全に溶かす。

 溶け切ったら火から外す。

 そして、スライムの入った器を引き寄せて中を覗いた。

 よしよし、うまくいっているぞ。

 スライムの粉末が水を含んで膨らみ、プルンプルンになっている。

 そう現世界でいうところの、ゼラチンになるってわけだ。


 そのままスライムを鍋に入れて、底からすくうようにして混ぜて全体になじませる。

 完全に混ざったところで、小さな器を並べてジュースをゆっくり流し込んでいく。


「……これで いいな」


 さて、後は……。

 俺はミュラの方へ視線を向けた。


「ミュラ、これ 冷やす。ゆっくり と」


「これを? うん、まかせて」


 ミュラが両手を器の前に出す。

 すると、器の表面に薄い氷の幕が張り始めた。


 時間が経つにつれて、ジュースの表面が固まっていく。

 頃合いを見て、俺は洗った指で軽く表面に触れた。


「……うん、固まった」


「これで、かんせい?」


「ああ」


 俺は頷き、器を持ち上げて小皿の上で逆さまにしておいた。

 そして、器を軽く振り中身を小皿の上に落とした。


「オレンジ ゼリー 完成」


 これが俺の思いついた甘く、スプーンで食べ、口の中でくずれ、ぷるっとしていてスライムみたいな食感の食べ物だ。


「おお! プルンプルンしてる!」


 ミュラがゼリーを指でつつくと、ゼリーがプルプルと揺れた。

 おいおい、食べ物を

むやみにつつくんじゃないよ。


「ミュラ、それ 食う。みんな、味見 お願い。メイドさんも どう です?」


 俺はゼリーの小皿とスプーンをメイドさんに差し出した。


「え? 私もいいんですか?」


「はい、たくさん ありますし、これ 男爵に 出しても 問題ないか 判断 してほしい」


「……な、なるほど……確かに……では、いただきます……」


 メイドさんは小皿を受け取り、スプーンを手に持つ。

 そして、ゼリーをスプーンですくい、口へ運んだ。


「はむ……もぐもぐ……んっ! これ、オレンジの酸っぱさはありますけど、甘くておいしいです!」


「このプニプニしたかんしょくいいね~」


「これは間違いなく、依頼の物じゃないっスか?」


「そうですね、甘く、スプーンで食べ、口の中でくずれ、ぷるっとしていてスライムみたいな食感の食べ物……まさにこれですよ!」


「メイドさん、これ どう?」


「あ、はい。これならご主人様も喜ぶと思います」


 よし、それなら大丈夫そうだ。

 残りも一気に作ってしまおう。

 オレンジ同様に、りんごとブドウも砂糖で味付けしてスライムを入れて固める。


「出来た。いつでも 持って いける」


「わかりました。確認してきますので、少しお待ちください」


 メイドさんがペコリと頭を下げ、厨房から出て行った。

 さて……どうなるかな。



 しばらくすると、メイドさんが戻ってきて運んでも大丈夫とのこと。

 ゼリーをトレイに乗せて、落とさないように気を付けながら部屋へと向かった。


 廊下を進み、案内された部屋の前で足を止めてから扉が開くのを待つ。


「中に入ってくれたまえ」


 中から男性の声がし、メイドさんが扉を開ける。

 部屋の中に入ると、中央に座る初老の男が俺たちに視線を向け、その目がトレイの上に止まった。


「……ほう、また色鮮やかな物が来たな」


 この人がセドリック男爵か。

 確かにダンディーで、絵に描いたようなザ・男爵って感じだ。

 俺は恐る恐る男爵に近づき、テーブルの上にゼリーを置いた。


「……では、いただくとしよう……」


 セドリック男爵がスプーンを手にして、ゼリーをすくって口に入れた。


「……」


 セドリック男爵は味を確かめるかのように、何度も口を動かした。

 うおおお……この間が長く感じる。


「……うん……うまい……だが……」


 セドリック男爵は残念そうに頭を振った。


「これではないな」


 ……違うか。

 くそ、これだと思ったのに。


「しかしだ、今まで食べた中でこれが一番近い…………君たち、これ以外にも作れるかね?」


 作れるかねと聞かれても……情報が無さすぎるんだよな。

 よし、こうなったら。


「では、他 何か、思い出した 事 ない ですか?」


 意地でも何か思い出してもらう。

 じゃないと、これ以外に作れんからな。


「ん? 他にかね……そうだな……こんなにフルーツの味はしなかったし、もう少し柔らかかったな……あと、味が濃厚だった」


 なるほど……となると、今後はフルーツ系は完全に排除だな。

 そして、濃厚で、もう少しやわらかかったとなると……味付けはミルクだろうか。

 なら、次はアレを作ってみるか。

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