第105話
俺はノルンを引き剥がして、出かける準備に入った。
「じゃあ、早速 買い物 行く」
「へ? あれだけで何かわかったっスか!?」
コヨミが驚きながら床に叩きつけた依頼書を拾い上げた。
「合ってるか 分からない けど……」
「ほ、本当ですか!?」
ノルンが一歩踏み込んできて、俺は思わず半歩下がってしまう。
また抱きつかれるのはごめんだ。
「ああ、だから 材料 買いに 行く」
さて、一番必要な物は……あそこに売っていたよな。
「ゴブくん……料理に使う材料を買いに来たっスよね?」
買い物に出かけ、ある店に入ろうとするとコヨミが困惑したように聞いてきた。
「そう だ」
「えと……本当に、ここでいいんです……か……?」
隣にいたノルンも眉をひそめる。
「ああ、ここだ」
「ゴブ、おくすりひつようなの?」
そう、俺は薬屋に入ろうとしていた。
現世界ではありえない、しかしこの世界においては、ここで売っているものが必要だ。
「まぁ……近い」
薬屋の中に入ると、俺は棚に並ぶ薬を無視して、とある粉をの入った袋を手に取った。
あったあった、これが今回で一番重要な物だ。
「ん? それって、スライムの体液を乾燥させた粉っスよね?」
「ああ、これ 買う」
「それって、止血用の粉ですよね?」
本来の使い道はそうなる。
普段は止血や傷の保護に使うための粉だ。
けど、料理にも使えるんだな、これが。
「問題 ない。買ったら 次 行く」
次に向かったのは、果実しぼりの屋台だ。
プレスで果実を潰して、果汁のジュースを売ってくれる。
「ミュラ」
「ん?」
「好きなの 3つ 選ぶ」
「え! いいの!? えっとね、えっとね……」
ミュラは目を輝かせて台の上にある果物を見渡して指をさした。
「じゃあオレンジに……りんご……それと~……ぶどう!」
「あいよ、ちょっと待ってな」
屋台の親父が果物をプレス機の台に置き、蓋を閉めて力をこめる。
すると、小さな穴からチョロチョロと果汁が容器の中にたまっていく。
混じりけなし、まさに100%のジュースだ。
「はいよ。お待ちどう」
「わ~い!」
ミュラは差し出された容器を受け取って、すぐに口をつけようとした。
「ストップ!」
俺は慌ててミュラの腕をつかんで、それを阻止した。
危ない危ない……飲んでしまったら意味がないからな。
「へっ?」
「ジュース 料理に 使う」
「えぇ~……のめないの~?」
ミュラは不満そうに口を尖らせ、頬を膨らませた。
そんな顔をしても無理なものは無理だ。
「諦める。氷で 囲って、冷やす」
「む~……わかったよ……」
「これで そろった。食堂 戻る」
俺は食堂の方へと足を向けた。
「あ、待ってください!」
直後、ノルンに引き止められてしまう。
「それなんですが……セドリック男爵の屋敷で、作ってくれませんか?」
「……屋敷?」
なんで屋敷で作らないといけないんだ。
「はい……その……セドリック男爵様を、わざわざ港町にお呼びすることはできませんので……」
あー、そういう事か。
お貴族様を煩わせるなって事ね。
はぁ……こっちの世界も階級が高い人の相手って面倒だな。
「……出来れば 行きたく ない……何せ 俺は……」
ゴブリンだからな。
貴族の屋敷にゴブリンが入るなんてそんな恐ろしい事出来ないっての。
見つかった瞬間、俺の頭と胴体が離れ離れになるのが目に見えている。
「そ、それは……に関しては、大丈夫です! 私が責任をもってバレない様にしますから! ですから、お願いします!」
必死に頭を下げるノルン。
はぁ仕方ないな。
こんなに頭を下げられては断れない。
「……わかった。行く」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます! じゃあ、早速服屋に行きましょう!」
「「「…………?」」」
ノルンの言葉に、俺たちの頭上にハテナマークが飛び出した。
……なんで、屋敷ではなく……服屋に行かないといけないんだろうか。
「えと、ノルン? それはどういうことっスか?」
「貴族の屋敷に行くので……その恰好ではちょっと……」
ノルンの言葉に、俺たちはそれぞれの服装を見合った。
確かに、どこをどう見ても庶民、一般人って感じだな。
この姿ではよくないのはノルンの言う通りだ。
「なので、ギルド直属の服屋がありますので、そちらで着替えてもらいます」
「仕方ないっスね……行くっスか……」
「そう だな……」
「わ~い! おきがえおきがえ~!」
俺たちはノルンの言う服屋へと向かった。
だが、その服屋で俺は公開することとなる。
ミュラはかわいいドレス、コヨミは美しいドレス。
そして、俺はというと……
「きゃはははは! ゴブ、すごく似合うよ!」
「っ……ぷぷっ……うん、すごく……似合うっス……ぷははははは!」
「そう……かよ……」
子供用のタキシード。
俺に合うサイズはこれしかないからと言って、このタキシードはどうなんだ。
今から七五三に行くんじゃないんだぞ。
『はぁ……やっぱり、行くのやめようかな……』
港町から少し離れた山の上。
周りの景色を見下ろすかのように大きな屋敷が建っていた。
結局、俺たちは男爵の屋敷まで足を運んだ。
「……でかい な」
「ですっスね……」
「わ~! おおきいいえだ!」
「それじゃあ、ちょっと待っていてくださいね」
ノルンが門番に声をかけると、重厚な鉄格子の門が開かれる。
「どうぞ、お入りを」
門番を横目に、俺たちは屋敷内の敷地へと入っていった。
屋敷もそうだだが、庭もだだっ広い。
食堂の裏庭とは大違いだ。
「あれ? なんか、ひとがいっぱいよいる」
ミュラがの言葉に、屋敷の入り口の方を見た。
そこには10人ほどの男たちが並んでいた。
顔は明らかに荒くれ者って感じだが、服装はタキシードやスーツで明らかに異質な光景。
その連中の手元に目を向けると、それぞれお菓子や果物らしきものを持っている……ああ、ギルドに所属している冒険者たちか。
当然、俺たち同様に着替えなくちゃいけないわな。
「ふーむ……ノルンさん、ちょっと いい?」
「なんでしょうか?」
「連中、出来た物 持っている。なら、俺たちは 厨房 借りたい」
「ああ、確かに……ちょっと確認してきますね」
ノルンが頷き、男どもをかき分けて屋敷内へと入っていった。
そして5分ほどで戻って来た。
「お待たせしました。厨房、借りれますよ」
「よし。それじゃあ 作ろう」
俺たちはノルンの後についていき、屋敷の中へと入っていった。




