第102話
「ふぃ~……おいしかった~」
ミュラが満足そうに自分のお腹をさすった。
メインがまだなのに満足してもらっては困るんだがな……。
しかも、次からはミュラの仕事もあるからちゃんとしてくれよ。
俺たちは食べた食器を洗い、再び厨房の前に立った。
「サラダ 作る」
俺はそう言いつつ、鍋を台の上に置いた。
すると、ミュラが首を傾げた。
「サラダなのに、にるの?」
「サラダ じゃなく、使う物 だな」
まず、牛乳1lを鍋に入れる。
鍋を火にかけて、沸騰させない程度に火加減をして温める。
温まったら、火からおろして、酢を大さじ3入れる。
そして、ゆっくりとかき回していけば……。
「……うわ! なんか固まってきたっス」
よし、うまく分裂してくれたな。
「固形物は カード……チーズ もと。液体 ホエイ だ」
「え? これがチーズになるっスか? へぇ~……」
分裂したら、布の上に流し込んで濾す。
布を絞って、出来る限り水分をカードから取り出す。
使うのはもちろん、固形物のカードの方だ。
ホエイも栄養があるから利用したいが、今回の料理には加えにくい。
肉に付け込んで柔らかくすることもできるが、それだと1日漬け込みになってしまって予定が狂ってしまう。
後でハチミツを入れて飲んでしまうか。
鍋を洗ってから水を入れ、かまどの上においてお湯にする。
その間にカードを器に入れて、ある程度ひとまとめにしておく。
ひとまとめに出来たら、かまどから鍋を下ろして、お湯の中にカードをドボン。
後はヘラを使ってお湯の中でカードを練っていく。
「くっ……この……ヘラだとこねるのが難しいっス……これ、手だと駄目っスか?」
「駄目 じゃない、けど 熱い……」
「いいっスか、なら簡単っス」
コヨミは躊躇せずにお湯の中に手を入れて、カードを練り始めた。
すげぇ……鼻歌交じりで全然熱く感じていないよ、この人。
餅のように綺麗にまとまれば、モッツァレラチーズの完成だ。
この世界の牛乳は、加工や超高温殺菌せず直接牛から絞った乳を売っている。
そのおかげで、作りやすいのがありがたい。
トマトを5mmほどの厚さにスライスする。
モッツァレラチーズも同じように切る。
切ったトマトとモッツァレラを交互に皿に並べていって、オリーブオイルを回しかける。
そして塩、粗挽きこしょうを全体に振りかければ……。
「完成 だ」
「……完成って……え? これだけっスか? というか、これがサラダ?」
まぁそう言いたくなるのもわかる。
だが、これもれっきとしたサラダなんだよな。
「そう 完成 だし、サラダ だ。次 作る」
「ええ……わ、分かったっス……」
コヨミは少し眉をひそめつつも、包丁を持った。
使うのはサーモンの切り身と玉ねぎを半分。
サーモンは薄いそぎ切りにして、玉ねぎは薄切りにする。
器にオリーブオイル大さじ1.5、レモン汁小さじ1、塩ひとつまみ、粗挽きこしょうを少々入れて混ぜる。
混ざったら、そこに玉ねぎを入れて絡める。
サーモンを皿に重ならないように広げ、その上に玉ねぎを全部乗せ、残った液も回しかければサーモンと玉ねぎのカルパッチョの完成だ。
「これで 完成」
「……え? ええっ!? これだけっスか!?」
「そう だ……さて、ミュラ」
俺はミュラの声を掛けながら、頭に手を置いた。
「ん? なに?」
「出番 だ。協力 して ほしい」
「でばん……きょうりょく……うん! ミュラ、がんばる!」
ミュラは両手を握りしめ、目をキラキラさせながら鼻息を荒くニカリと笑った。
ミュラがいるからこそ、ソルベとアイスが作りやすくなる。
まずはソルベから。
鍋に水200mlと砂糖50gを入れて火にかける。
砂糖の溶け残りがないように混ぜ、溶け切ったら火から外す。
「ミュラ 液 冷やす」
「うん!」
差し出した鍋に向かって、ミュラが両手をかざした。
すると液体がドンドンと冷えていく。
「……うん、この くらい でいい」
冷えたら液体にレモン汁大さじ2、塩ひとつまみ加えて混ぜる。
混ぜたら底が深めの皿に液体を流し込む。
「ミュラ、完全 凍結 しないで 半凍結 して ほしい」
「え? う、うんっ! やってみる……むむむ……」
ミュラが両手を皿にかざすと、液体がみるみる凍っていく。
「…………ストップ! ストップ!」
危ない危ない、これ以上すると完全に凍ってしまうぞ。
半凍結になったらフォークで液体に空気を含ませるようにして崩していく。
崩したら、もう一度全体を軽く凍らせれば完成だ。
「これで よし。ミュラ、食べて みる」
俺はスプーンでソルベをすくい、ミュラの口元へと持って行った。
「いいの!? あ~むっ……ん~! あまずっぱくでおいひぃ~!」
ミュラが満足しているから、ソルベはいい感じのようだな。
よし、続いてアイスだ。
鍋に牛乳200ml、生クリーム100ml。
そして、バニラの匂いがする葉っぱを2枚入れて沸騰させないように温める。
その間に器に砂糖50g、卵黄を2個入れて混ぜる。
そこに温めた牛乳を卵が固まらない様に、少しずつ器に加えながら混ぜていく。
混ぜきったら、液体を鍋に戻して弱火でとろみがつくまで加熱する。
とろみがついたら火から外す。
「ミュラ、もう一度 頼む」
「うん!」
ミュラは差し出した鍋に向かって両手をかざした。
ソルベ同様に液体がドンドンと冷えていく。
けど、ソルベとは違い、こっちはこのままヘラで混ぜて全体を冷やし固めていく。
固まって形を整えればバニラアイスの完成だ。
「全部……完成 だ!」
俺はずっと煮込んでいた牛肉の鍋を手にした。
さぁ、メインを食べるとするか。
牛肉をトングで取り出し、皿へと乗せていく。
『んんー……いい匂いがするぜ……』
煮込み汁を牛肉にかけると、よりいい匂いが食堂に広がった。
「うわ~……においだけで、おなかがすいていくよ~ジュルリ……」
さっきお腹をさすっていたくせに、現金な奴だな。
牛肉をのせた皿と、カルパッチョとトマトとモッツァレラチーズのサラダを席へと持っていき、俺たちは椅子に座った。
「さあ……食べ よう」
「まってました~!」
俺の言葉に、ミュラがすぐさまフォークを手に取り牛肉に刺した。
「あ~んっ! もぐもぐ……ん~~~っ! やわらかくて! おいひいよおお!」
ミュラは頬を押さえて体をクネクネと動かした。
「ウチはこれが気になってたっスよ」
コヨミがモッツァレラチーズをフォークで刺し、口に入れた。
そして、少し咀嚼したのち首を捻った。
「……あれ? これ、味がほとんどしないっスよ?」
ああ、ド定番の疑問だな。
「トマト 一緒に 食べる」
「トマトと?」
コヨミはトマトとモッツァレラチーズを一緒に刺し、口へと運ぶ。
そして目を見開いた。
「……えっ!? さっきと全然ちがうっス! おいしいっスよ、これ!」
そういうと、すぐさまもう一口持って行った。
よしよし、どっちも完璧のようだ。
『俺は……カルパッチョだな』
この世界に来てから、生サーモンを全然食べていなかったからな。
久々の生サーモンを堪能させてもらおう。
俺はサーモンで玉ねぎを巻き、口へと運んだ。
『モグモグ……んんっ! これこれ!』
サーモンの脂に、さっぱりとした玉ねぎの味と食感、レモンの酸っぱさが味を引き立てる。
シンプルだけど、だからこその旨味があるのがカルパッチョだよな。
「……うん……これなら……きっと……」
コヨミがテーブル全体を見渡してから小さく頷いた。
「……明日……おばあちゃんと話をするっス。そして……絶対に、このフルコースを食べてもらうっスよ!」




