オルワール領軍司令官のあせり
オルワール領軍指令所にて、司令官の男は混乱していた。
「たかが街の制圧だぞ!何をやっておる!」
「化け物のような奴らが最前線で暴れております!」
戦闘開始から3時間も経っていない状況で、既に最前線に投入した傭兵部隊が敗走を始めている。
元盗賊等のクズの集まりだったが、やっぱりクズはクズだ!ここに来る前までは「略奪だ!金だ!女だ!」と散々言っていたが戦況が不利だとわかると逃げ始める奴らが出始める。
こちらの戦力は5000、たかが街の制圧に5000だぞ、最初はウチの領主も老いたなと思ったが、この戦力を見せつけても微動だにしない遺跡街の奴ら、あんな化け物を隠し持っていたとは報告に聞いていない。
遺跡街まで数キロ程離れているこの場所で、望遠鏡越しに傭兵共がはじけ飛んでいるのが見え馬車にひき殺される小動物のように蹂躙されているのだ。
「たった4人だぞ!あいつらは何をやっているのだ!!」
遺跡街の地形的に開けた所がほとんど無い。
数千の傭兵を配置しても、一気に攻め込めるようなスペースが無い為、開墾された畑などに陣取っていた前線部隊は4人の化け物に次々と倒されて行き、森の中に一時退避すると、気配の無い敵兵にやられてしまうパターンでどんどん数を減らしていく。
「黒いフルプレートの敵兵も異常に強いので苦戦しております!」
この黒いフルプレートの兵士は鑑定士の報告によるとLV30、しかも疲れを知らないのか既に3時間は連続で戦い続けているとの話だ。
「クソが!もっと簡単に制圧できるハズだったはずだ!!!!」
「前線に出ている魔法士から報告です!遺跡街の防御壁に対して爆破の魔法を施行。全く効果なし」
俺は手に持っている酒瓶を叩き割る
前線に出している魔法士はLV25前後と聞いている。
その魔法士の爆破魔法が効果無だと!?ありえないだろう!こんな時用に行軍させた村人を魔素タンク代わりにして利用し、強力な爆破魔法を実行しているハズなのだ!
「司令!、現在消耗率20%、最前線に投入した傭兵部隊はほぼ使い物になりません!、正規兵の魔法士の数も徐々に減りつつあります!」
司令の男は軍の消耗率、敗北の可能性、敗北時の責任問題とメンツの問題。
大昔、勇者と言われた英雄時代の神話のような話に一騎当千という言葉があった。
文字通り一人で1000人の兵を倒すという冗談のような言い伝えだが、目の前で起きている事実はまさにそれであり、司令の頭の中には敗北の文字が強く浮かび始める。
ここで、司令の男は一つの決断を出す事になる。
「仕方ない、遺跡街なんぞどうになってもかまわん」
部下の男達は司令官の呟きに、疑問の表情を浮かべる。
大義は元オルワール領の遺跡街の奪還であるが「どうなってかまわない」との発言は異常なのである。
「そう言えばメテオフォールという禁止級の魔法があったな」
上級魔法士には知識としての認識のある古代魔法。
禁止項目の戦略級魔法も存在し、敵魔法士が発動させた際の見極めの方法として知識上伝えられている古代魔法が多々ある。
もちろん使用する事が無い古代魔法であるが、上級魔法士達はその知識を習得しなければ上級魔法士と名乗る事は出来ない。
その中のメテオフォール。
この司令の男の頭の中では、あまりにも強大な破壊力を持つとされる魔法の一つとされ実際の使用も国家間で禁止されている魔法の一つだった程度の知識しか無い。
「メテオフォールをやれ!」
損害を出して敗走するよりも、要はダンジョンさえ手に入れば街等後からでもどうにでもなるという結論にたどり着く。
「しかしそれでは、前線に投入中の我が部隊にも被害が及びますぞ!」
部下の男達にもメテオフォールがなぜ使用禁止魔法になっているかの知識位はあるので、司令官に対し提言を行うのだが。
「かまわぬ、こんなところで敗北していたら私のメンツが立たんわ!」
短時間で戦況が刻々と悪化していく中、上位幹部達は焦りの中で正常な判断が出来なくなっていく。
「司令・・・了解しました」
最後列に配置されているオルワール領軍、最高峰の魔法士達が一斉に呪文を唱え始める。
メテオフォール
はるか上空から巨大な岩石を落下させ、あらゆる物を破壊する戦略級魔法だ。現在魔法とは違う系統の魔法の為施行には時間がかかり、わが部隊の魔法士達を使っても1000人近い魔法士と大量の魔素が必要となる。
不足の魔素は魔素タンク代わりに徴兵した村人を使う。
通常魔素は空気中からしか取り出せない、魔法士はこれらを利用して自分の魔力と混合し魔法強力な魔法を施行する。
しかし、これでは自分のLV以上に強力な魔法を実行する事は出来ない。
そこでポーションを使用して魔力量の底上げをするか、別の人間にポーションを服用させ魔力を無理やり蓄えさせる。
これが魔力タンクや魔素タンクと言われる方法だ。
かつては人間魔素爆弾と呼ばれた戦術もあった。
限界まで魔素を取り込ませた人間に自爆の魔法をかけ遠隔魔法で敵陣に突っ込ませ爆発させるという手段だ。
「司令!、報告です。後方の魔法士が遺跡街の何かによって攻撃されています!」
ここから遺跡街まで数キロは離れている。通常はありえない
「時間はかかるが魔法防御壁を展開させつつ、そのまま大魔法施行の準備を続けよ!」
「了解しました!!!」
「報告!敵兵1名が猛スピードでこちらに突っ込んできます!!!」
今度は何なのだ!と言うような表情で苛立つ司令の男
「たかが一人だろ!そんな物報告するな!!!」
「ほ!!!報告!!!!!」
とち狂ったかのような声を上げる別の伝達員
「今度はどうしたのだ!!!」
「敵兵が中衛部分に侵入!主に魔法士を次々と無効化しています!このままだと大魔法に影響が出ます!!」
「進捗状況はどうなっておるのだ!!」
「現在大魔法術式完成まで50%」
「最低出力でも構わん!完全に無効化される前に放て!!!」
「魔法術式を最低限で構成させます!、破壊力、命中精度等予測不能になります!」
伝令係がせわしなく指令所の出入りを繰り返している
「魔法士指揮官からの通達、術式完成まであと20%!」
この決断は後々大惨事を引き起こす事となるが、その事実をオルワール領軍が知る由も無かった。




