領都 オルワールへ
俺達の通っていた道は旧道だったらしく、ニカドさんに案内された道は比較的普通に整備されていた。
旧道の方にも冒険者や商人が通るので宿場村のような場所が有ったが全体的に寂れていたのはその為だったのかと思う。
ニカドさんはロボ荷馬車の速度に驚いていたが、1日もすればそれにも慣れる。
「この馬は休憩しないンダナ?」
あえて何も説明しない。
しかも夜も移動を続けられるのでニカドさんの中で常識が飛んでしまい、余計な事を考える事を放棄したようだ。
集落から3日程走ると領都オルワールが見えて来た。
確実にパーマの街よりも大きい。比較対象に出来そうな王都に行った事が無いので分からないが、俺が見たことある街の中では最大級とも言える。
「改めて見ると凄い大きな街だな。防御壁なんかパーマの街よりも立派に見える」
「私もここまでは来た事が無いから色んな意味で新鮮だな」
リーザさんは初めてここまで来るそうだが、俺は犯罪奴隷としてこの街に来た事があり、当時は荷馬車に監禁状態で入都したので、外観や街の様子等は全く知らない。
「エリア、アリシアさん大丈夫ですか?」
エリアとアリシアさんともここで出会っている。
まだ一年経ってないけど、いろいろな出来事があって遠い昔の話のように感じるが、エリアとアリシアさんから見れば良い場所ではない。
「リックと一緒だから平気だよ!」
同じようにアリシアさんも同意しているので、とりあえず大丈夫そうだ。
領都入口まで来て普通の街の入口とは違う事に気が付く。普通なら入口で審査等をされるのだが、この街ではほとんどノーチェックのように見える。
実際にニカドさんが運転席に座って馬車を操作していたが、衛兵の前で一度止まると
「おう、ニカドか、今日は何だ?」
「ヘイ。こちらの冒険者の方々の案内デスダ」
「よし、通っていいぞ」
と、これだけ。
俺達のチェックは何もされなかった。
ニカドさんの話によると、この領都は自由と自己責任の街になっているようで、犯罪者達の出入りも自由。だからと言って治安が極端に悪い訳でもなく「悪は悪なりのルールが出来上がっている」という事のようだ。
「これから俺達が勝手に行動しますので、ニカドさんは今夜の宿を探してもらえませんか?」
一度ニカドさんとは別行動をして、集合場所を決めておく事にした。
領都を見てみると、全体は石造りの家が多く見え、石は正確に切り出された物を使用しているのでとても綺麗な街並みが広がっている。パッと見た感じは金がかかっているなと感じられる。領都の入口付近は商業街や宿屋等の宿場が並んでいるので、この辺りの街の造りは何処も同じような感じだ。
今の時間では宿屋や飲み屋は準備中の所が多い。
案内版を見ながら領都のマップをメモ書きして記録する。
「奴隷組合は・・・と。ここか」
何のトラブルが待っているのか分からないので、俺とリーザさんで奴隷組合に話をしに行く事に決まった。
リーザさんと二人で歩いているので時々ガラの悪い奴に声をかけられたりもするが、日中な事もあり、そう大きなトラブルにもならない。リーザさん自身が初めての街という事もあり少しだけ気を張っているので、そんな雰囲気が彼女自身から出ている事を俺も感じられるからだ。
この辺はLV41の強者特有の雰囲気をガラの悪い奴らも感じているのだろう。
手元の地図を見ながら歩いて行くとパーマの街の奴隷組合よりもはるかに大きく立派な建物が見えてくる。
「奴隷公認の世界だとこんなにも儲かる物なのか・・・」
俺は呟いてしまうが、リーザさんは聞かない振りをしていた。
リーザさん自身は俺の事を不思議な人と認識しているようなので俺の過去や経緯等を聞かれた事はほとんどない。
そんなことを考えている間にリーザさんは奴隷組合の扉を開き、建物の中に入っていく。
やっぱり奴隷組合の中の人達は相変わらずガラが悪い。
雰囲気が悪いというか空気も悪い。
規模が大きいので総合受付のような場所があり、リーザさんが話をする。
今回は強者であるリーザさん主導で行った方が都合が良いと思ったからだ。
夜の飲み屋のお姉ちゃんのような受付嬢に話しかける。
「ひっ!?・・キョ今日はどのような御用でしょうか?」
いくら何でもビビリすぎな受付嬢だが、今のリーザさんは俺が見ても怖い。
「捜索依頼系の受付は何処だ?」
「そっ捜索受付でしたら、あっあちらの階段から地下いっいっ1階になります。」
「ありがとう」
「あっあと、組合内での喧嘩や戦闘行為はいっ一切禁止されています。違反された場合は相応のペっペナルティが有りますのでごごご注意下さい」
受付の姉ちゃん、多分LV5~7とかその辺だと思う。この世界の標準的成人のレベル。LV41のオーラに当てられたらそりゃ怖いよなと思うよ。
建物の中に居る連中もかなりガラが悪いが、先ほど受付嬢も説明していた通り一応ルールなのだろう。喧嘩やトラブルは奴隷組合の中では起こらない感じだった。
そして俺達は地下の階段を下りて行く。
受付嬢が話し出す
「私も夜の街で色んな修羅場を経験してきたけど、あんな雰囲気の女は見たことが無いわよ」
すると周りにいた連中も一気にコソコソと話し出した。
「あの二人が入って来た瞬間に、気温が一気に下がった気がしたぜ」
「すげぇ美人だったが、ありゃ化け物か悪魔か何かだ」
「俺は怖くて振り向けもしなかったぞ」
「俺もこの仕事は長いが、あんなに殺気を振りまいている奴は初めてだ」
「地下行ったからやっぱりそういう女なのか?」
俺達が居なくなった後にこんな会話がされている事は全く知らない事である。
階段を下りて行くと捜索系の依頼専門の広間が有った。中には冒険者?同業者とは思いたくないような連中が沢山いる。どうやら入口はここだけではなく、専門の裏口のような物があるようだ。
パーマの街の奴隷組合と同じ感じにロープで繋がれた奴隷や布袋を下げている殺戮マシーンのような男達がカウンターで話をしていたり、依頼表を見ている。
奴らも俺達が部屋の扉を開けて入った時は、一瞬だけこっちを見たが、それだけだった。
俺も前回の経験から警戒レベルを上げてこの部屋に入っている。
リーザさんと一緒に依頼書を確認すると、アリシアさんとエリアと多分俺の捜索依頼書の存在を確認できた。
本来はルール違反なのだが、リーザさんはその依頼書を引きはがし、直接受付カウンターに向かう。
何度も修羅場をくぐって来たかのような老年の男性がそこにいる。
「ひっ!、あんたもうちょっとその殺気のような物を鎮めてくれないか」
リーザさんと俺は警戒中であり、俺が警戒中なのでリーザさん自体に強化ブーストが働いていたようだ。リーザさん自体、警戒はしていたが殺すレベルほどの警戒はしていなかったが、俺が強化ブーストしていたので必殺レベルの殺気に増幅されていた感じ。
「あんたが高レベルな人だとはすぐにわかる。何に怒っているのか知らんがまともに話も出来ないから頼むから落ち着いてくれ」
俺は警戒レベルと落とす。受付の爺さんも若干落ち着き出した。
話が出来そうな状態になったので、リーザさんは依頼表を付き出した。
「この依頼内容について話したい事がある」
「依頼書を剥がす事はルール違反なのだが」
リーザざんはカウンターを叩きつけ、轟音が室内に響き渡る。
ざわついていた部屋の中は一瞬にして凍り付いたかのように静かになり、一瞬だけこちらを見られたがすぐに元の通りにざわつきだす。
「この依頼が何なのでしょう?良くある捜索依頼だと思うのですが」
「この依頼を出したのは誰だ?」
ん?という表情の爺さんだったが、依頼書を確認するとオルワール奴隷組合になっているのを見ると、表情が少し変わった。通常は奴隷契約主や奴隷販売業者の印とされる偽名のような物が多いのだが、依頼主が組合名になっている場合は表に出したくない依頼主の場合が多い為だ。
「少し待っててくれ」
しばらくすると爺さんから、元冒険者風の屈強なオッサンに代わった。
「組合長のダイディだ。この依頼について聞きたいと言うのはお前らだな」
いきなりすげぇ上から目線な奴だなと思ったので警戒レベルをまた上げる。
ダイディの顔から脂汗が流れ始めているが、舐められた終わりの世界なので、ダイディも相当我慢していると見える。
「組合のルールで依頼主の素性を明かす事は出来ないが、この依頼について何が聞きたいのだ?」
俺とリーザさんは事前に打ち合わせをしていた通りに話を進める事にする。
「このアリシアとエリアという女性を我々は保護している。私の雇い主は彼女達が奴隷だった事を知らなかったので、この依頼書を発見した時に非常に心を痛められている。簡単に言うとこの依頼を取り下げて欲しいと依頼されて我々は来た」
「そういう話であれば俺の一存では決められない。依頼者に相談するので明日もう一度ここに来てくれ」
そのあとに出来るだけ穏便に事を済ませたいと脅しを入れてダイディに後の話を任せる事にした。
場所は変わりオルワール領主の屋敷内
「オルワール様奴隷組合のダイディから緊急と連絡が入りました」
「何かあったのか?」
「ラベールの女を保護しているという冒険者が表れたそうです」
「本当に生きていたのだな。なんだ?金銭の増額要請か?」
「いえ、依頼を取り消して欲しいとの事です」
「サイクロプスの話はまだ表向きにはなっていないな」
「冒険者組合からもそのような報告はありません」
「あの女たちに下手に証言されても困るからな、所在が分かれば取り消して、それから殺し屋でも送れ」
「承知しました」
翌日俺とリーザさんは再び奴隷組合を訪れ、再びダイディを呼び出す。
「依頼主との話で、アリシア・ラベールとエリアの所在を確認できれば依頼を取り消してもかまわないという約束をしてきたが、その二人は何処に居るのだ?」
俺達は二人に危害を加えない事、これから一切干渉しない事を約束出来るのならば、二人を中央公園まで連れてくる段取りをすると説明する。
「わかった。俺と鑑定士を同行させて明日、昼の鐘が鳴る時に中央公園オルワール像の前で
確認させてくれ」
話が嫌に簡単に進んだ事に俺は少しだけ疑いを感じたがその場を後にした。
「オルワール様、奴隷組合のダイディが直接の面会を求めています」
「珍しいな。通せ」
「オルワール様、ご無沙汰しております。この度は・・・・」
「挨拶は良い何の用だ」
「例のラベールの女の捜索依頼の件で訪れた冒険者の件なのですが」
「なんだ、何かトラブルか?」
「申し上げにくいのですが、ラベールの女の話を持ってきた女冒険者が化け物クラスで我々には対処できません」
「お前の所の鑑定士は何と言っているのだ?」
「はい。女冒険者がLV41、同行していた男がLV3。うちの鑑定士によると男の方もLV偽装の疑いがあると震えながら話しておりました」
「LV41だと?何かの間違いでは無いのか?」
「いいえ、うちの鑑定士もその道のエキスパートです。間違い無いと思います」
明日、中央公園で交渉する事を伝えるとダイディは退室していく。
オルワールはしばらく考えると
「ナイトデッドの奴らとは連絡が付くのか?」
「はい、可能ですが、あの輩に仕事を依頼すると後々面倒かと」
「LV41クラスを相手に出来る可能性があるのはあいつらだけだろう」
「ナイトデッド」対人目的の暗殺集団である。平均レベル30ではあるが暗殺業務に特化している為、上位レベルの暗殺も行っている。
サイクロプス討伐もナイトデッドにやらせれば良いと思われそうだが、ナイトデッドのメンバーは対人戦しか行わない裏稼業専門の集団なのだ。
奴隷組合との取引の前に、俺達は事前準備を行う事にした。
今のアリシアさんとエリアの容姿では確実にゴネられそうだからである。初めて会った時の二人はボロボロな状態だったが、今は誰もが認めそうな美女・美少女に変化している。
「リーザさんどうしようか?このままだと奴隷組合の奴らが絶対に何か言って来るよね」
ミリアに幻影魔法とかで何とかならないか聞いてみた
「幻術は幻術だからの、触られたりするとバレるぞ」
「ミリアは触れるじゃないか」
「本人は別じゃ、妾の召喚するスケルトンに同じ事をすれば人のように見えるのじゃが、やらんのは色々制約があるからじゃ」
「まぁ個人レベルではなく、集団レベルの幻術にすればバレんぞ。幻術というより催眠の方が楽じゃの」
要は公園なら公園全体に幻術と催眠を施して、来た人間全員に魔法をかけてしまえば、本物偽物の判断なんかは出来なくなってしまうらしい
「それは後々問題になりそうだからやめてくれ」
「まぁそうじゃろうな(笑)」
その後、女性陣達があれやこれや相談して、あれやこれや買い出しに出かける。
翌日、変装したアリシアさんとエリアが登場
「なぜメイド服?」
俺は町娘風の目立たない普通の恰好をしてくるのかと思っていたが、まさかのメイド服。
「一応、私とリックは”とあるお方”に雇われて、アリシアとエリアの捜索依頼解除の話をしに行った事になっているからな」
メイド服の二人を良く見ると、ノーメイクのようなメイクをしていて、整った顔立ちはしているが美人でもない。磨けば光るんだろうなみたいな感じで残念ながらそのチャンスが無かったという感じのメイクなのか?。
気になっていた体形の方も、この時代には補正下着みたいなのは無いのに、良くゴマかしていると言った体形に変化していた。
「リックぅ・・凄くこの変装大変だよ・・」
色々潰して無理やり変形させているので大変なんだろうけど、少し我慢してもらう。
髪の毛等はミリアの幻術でくすんだ感じに変更されているので、印象もかなり違う仕上がりになっている。
各メンバーに今日の仕事の割り振りをして、いざ中央公園に出発だ。




