リックとキャノの訓練
ポット師匠に肉眼で魔素を見られるようにしてもらった後に、俺自身でも魔素が見られる体質に変化したのだが今度は魔素を肉眼だけはなく体で感じられるように訓練を開始する。
何でも有りだな・・俺の体。特異体質か?
目で敵を追っているだけでは複数に攻撃されたとき、特に俺本人でなくて、仲間に危害が加わりそうになったの時に対応できるようにする為だ。
そんなもの感じられるのか疑問に思ったけど、混んでいる便所で人を待たせている時の扉の向こうの人達の感覚とか、夜シャンプー中に何か気配が有ったりとか、何となくの人の気配を感じられるように意識を集中する訓練が続いた。
ちなみにこの訓練はキャノも同様に行っている。
お寺なんかでやる座禅みたいな感じかな、あっちは無を追及して煩悩を払うんだっけな、でもこっちは出来るだけ周りの気配を感じるように意識を集中させる感じ。
始めた頃は師匠達に補助や助言を貰いつつ感覚を覚えていく。
日が経つにつれてキャノとの距離やキャノの大きさのような物が魔素を通じ目を閉じている状態でも把握できるようになる。
更に慣れてくると・・・まぁ、それしかやる事が無いので他の人の呼吸音や心臓の鼓動までも聞こえるような感じで魔素の動きから感じられる様になってきた。
これが聴覚以外の他の感覚、肌で感じられる感覚へと変化して行く。
俗にいう霊感を感じるとか、緊張状態で鳥肌が立つとかそんな感じなのだろうか?
徐々に慣れてくると魔素のイメージの解像度が上がって来る。ピントがボケていた映像が段々とシャープになっていく感じになり本当にそこに何かが有るような感じに変化する。
例えると起きているのに夢を見ている?目は瞑っているのに何かが見える変な感覚だ。
「魔素の映像化か・・・今まで考えた事も無かったな」
と俺が呟くと、キャノがピクっと動く。
「キャノの魔素世界がどうに見えているの分らないけど、キャノも見えているんだろ?」
「結構見える物なんですわね」
キャノは何故か恥ずかしそうに反応する
「ミリアはもしかしたら、もっときれいに見えている・・と言うのか感じているのでしょうか」
「わからないよ。俺だって頭の中で魔素が感じられるようになって、そんなに経ってないし、エリアなんかは人と言うか精霊のような物も見えるらしいけどな」
俺とキャノは二人だけで道場の中でお互い魔素の感じ方について会話をしている。
あれはこうに感じるとか、人と物では違うとかそんな感じにお互いの思った事を話して感じ方の改善をしていく。
「リック今のうち話しておいた方がお互いの為だと思いますわ」
キャノが妙な事を言い出す。
「私一人だけで修業をしていた時はボヤけたイメージでしか捉えられなかった魔素のイメージがリックと一緒に修業するようになったら、急にリックの事を意識するようになって・・・魔素イメージがどんどん鮮明に見えるようになりましたの」
「?」
「リッ、リックのはっ裸のシルエットイメージが見えてしまってますの」
おい!そんなに見えているのか!!!
俺は急に恥ずかしくなり、なんか隠してしまう。
「大丈夫でで、ですわ、、座っているから、み、見てないですわ」
キャノの説明よると影人間のように見えているらしいが、ただ見えているのは俺だけに対してみたいで、他の人に対しては雲を纏ったようなイメージしか捉えられないとか。
俺もそこまでは見えてない、サーモグラフィ画像をピンボケにしたような感じでしか見えていないのでキャノだけがが特殊なのかと思った。
後日この事をポットさんに相談してみると、相手の魔素の事を強くイメージするようになるとそうに見える事が判明する。今回はキャノが俺の事に好意を持っているからそんな結果になったのかもしれないと説明された。
ちなみにミリアには怖くて聞けない。
いや聞いておいた方が良いのか?
魔法のエキスパートであるミリアはどんな世界を見ているのか一応聞いておく事にした。
「安心せい、普段は魔素可視化はやっとらんぞ、あんなものは少しだけ感じられる程度で良いのじゃ、戦闘になるようなら見る事もあるがの」
という事で一安心かと思われた。
「ちなみに魔素可視化で見る時はどんな感じで見えるんだ?」
「普段と変わらんぞ、構成する魔素分布を変更すれば、裸の姿で見る事も可能じゃ」
「えぇ!」
ミリアの話だとこの世界では、あらゆる物に魔素が関わっているので識別できるようになれば肉眼と変わらない状態で感じる事が出来るのだと言う
結果として聞かない方が良かったかもしれない
俺はやっぱり、隠してしまう。
「風呂に一緒にも入った仲じゃろ、何を今更恥ずかしがっておるのじゃ」
「いや、やっぱりねぇ、見られているんじゃないかと思うと恥ずかしいよ」
「馬鹿者、今は見とらん。安心せい、こっちまで恥ずかしくなるわ」
魔素イメージを捉える事ができるようなった俺とキャノはリーザさんと一緒に再び、ケトル師匠に組手をお願いしている。
実際に視覚でのイメージに脳内の魔素イメージが混合される
情報量の多いゲーム画面のように、頭の中の処理が追い付いてない
ケトル師匠が攻撃をしかけてくると、空気中の魔素を分断して近づいてくるケトル師匠が持つ魔素と実態で現れ、霧までは行かないが濃霧の中から急に車のヘッドライトが点灯した車が現れるようなイメージなってしまっている。
「リック君は魔素が感覚的に見えるようになったら、今度は分別だ。情報量が多いのは良い事だが、不要な情報が多すぎると体が動かなくなる」
要は慣れろなのか、スマホ等で撮影した動画を後で見ると実際見て感じた物と違うように、人間の脳は不要な情報を省いていると聞いた事があり一流になると本来不要な情報も場合によっては必要・不要で認識出来るようになるのだとか、どこかで聞いた事がある。
俺的には道のりはまだ長い気もする
キャノは魔素イメージを即座に格闘に応用している
「キャノ君は・・大丈夫みたいだな。凄い戦闘センスだ。さすがこの辺はオーガ族なのか、リーザと同等に戦えると思うぞ」
俺とキャノが修業していた間に、リーザさんはケトル師匠に個別講習を受けている。彼女はこっちにいた頃とはレベルも違うし戦闘経験に合わせた特別メニューに切り替わっている。
60日目が過ぎた時点でケトル師匠とポット師匠が合流して総合訓練に切り替わる。
ただし、エリアとアリシアさんは戦闘型では無いのでポット師匠がそのまま担当
リーザさんはケトル師匠とポット師匠が合同で見ていて俺とキャノはまた特別メニュー。
ちなみにミリアには教えられる事が無いようでウロウロしている。
彼女も戦闘特化型ではないのでウロウロしつつもエリアとアリシアさんの様子を伺ったり、時々指導もしてくれるようになった。
ちょっと前の彼女からは想像も出来ない変化だ。
ケトル・ポット師匠は俺とキャノに対して特別メニューとして話を始める。
リーザさんは種族的に習得済みの話であって、エリアとアリシアさんにはまだ教える時期では無いのだとか。俺の能力やキャノの飲み込みの速さを考慮しての事なんだとか。
「さてリック君とキャノ君。私達獣人族は魔素以外にも嗅覚も戦い等に利用するんだ」
とケトル師匠が説明を始めた。
「そりゃ盗賊とか臭いですし、魔獣等は風上・風下に敏感ですよね」
まぁ臭いも使う事は一般冒険者なら常識の範囲である。
「ちょっと違うかな、普段抑えられない臭いが有るんだ。わかりやすいのは”死の臭い”かな、生き物が死ぬと虫やハエがすぐに集まるだろう?」
こっちの世界では普通に生き死にがあるので特に気にする事も少なくなった現象だけど、確かに普段見ないサイズのハエや虫が何処からともなくやってくる
「生き物は死ぬと特別な臭いを発生するんだ。死臭というのはその後の腐敗等の始まった時の臭いだが、死の臭いとは違う」
「あー、へぇーー」って聞いていると
ケトル師匠が突然殺気のような物を放つ
俺は補正が効いてしまったのか何も感じなかったのだが、キャノがビクッ!と怯んだのが確認できた。
「リック君はこれでも何ともないのか・・・キャノ君の反応は良かったよ」
笑顔のケトル師匠だが、発汗が止まらないキャノ。
「キャノ君怖がらせてごめんね」
ケトル師匠はキャノに汗拭き用のタオルを手渡して謝罪していた。
「ケトル師匠、別に怖いという感じでは無いですわ」
「私達獣人族には解るんだよ。恐怖の臭いが。他にもいろんな感情の時に生き物はそれぞれの体臭を放つ、私達獣人はそれを細かに理解してコミュニケーションにも利用しているんだ」
「私もパパ程じゃないけどぉ、少しなら出来るからぁ、あなた達も出来ると思うわぁ。直接会話をしなくてもぉ相手の事がある程度解るようになると便利よぉ」
ポット師匠がキャノからタオルを受け取りながら会話に混ざる。
「ハハッ、ママは特別だよ。普通の人間族がママレベルになるのは難しいと思うぞ」
「そうかしらねぇ、でも意識すると人間族も敏感になるわよぉ」
「まぁ話はそれたが、恐怖の感情による臭いは戦いの時にとても有効に使える」
「特殊な訓練をされてなければぁ、止めようと思っても止められないものねぇ」
「まぁ生きている限りは無理だろうな」
ケトル師匠の話だと体臭の変化は感情の制御である程度抑え込む事は出来るけど、生き物である限りそれを完全に抑え込む事は不可能と説明される。
「ママ、そのタオルで大丈夫か?」
「新しぃから大丈夫よぉ」
えっ何を始めるの?この流れだとなんかマズイ感じがするんだけど
「はーい、リックくん。これがキャノちゃんが怖いと思った時の匂いねぇ」
「ちょ!ちょっと!ポット師匠!それは困りますわ!!!」
これの臭いを嗅ぐの?本人の前で?
「リック!恥ずかしいからやめて下さいますわ」
「キャノちゃん、これもリックくんの為だと思って、きょうりょくぅ!」
「二人共年頃だから恥ずかしいかもしれないが、完全に知らない人よりは良いだろう?」
いや、知ってるから余計嫌だよ!
その後、二人の師匠に説得されて結局タオルの匂いを確認する作業が開始される
ん・・・無臭だよな
俺はキャノから発せられるいつものキャノの臭いがするのかと思ったら、思っていた状態と違い、ほとんど無臭のタオルだった。
「師匠、臭いなんかしませんよ」
「うーん、初めてじゃ無理よねぇ」
「でも集中して微細な匂いを増幅するような感じかなぁ」
キャノは真っ赤になってしまい、恥ずかしそうにこっちを見ている。
俺はタオルに対して嗅覚を集中させる。かつてアパート暮らしの時に異臭の発生源を突き止めるかのように集中する
最初はタオル、そのものの匂いに強く反応した。
タオルなのでタオルその物の匂しか感じられなかった。
木綿だがそんなもの。
俺が集中すると急に嗅覚が一気に敏感に反応するようになる。
今までの空気中の臭いが一気に増幅されたのかむせ返してしまった。
「ゲホォ!!!ウォェェエ!!!」
「ど、どうしたのぉ!リックくん!」
「わわ、わからないです、急に臭いに敏感になってしまって、世界が凄く臭います」
「リック!大丈夫ですの?」
「キャノ!今は俺の近くに来ないでくれ!」
キャノの好意的な匂い?俺が心地よく感じる匂いを強烈に感じてしまい、俺自身がどうにかなってしまいそうな状態になっている
あ、これが心配されるとか好意的に思われている匂いなのか・・・心地よい。
「すまん!もしかしたら自身にブーストがかかったのか!」
ミリアに異常ブースト体質かもしれないと聞かされていたケトルは即座にそれに気が付き、ポットは無臭化の魔法を使う。
「ごめんねぇ、ブースト持ちでもここまで極端な人は初めてよぉ」
突然嗅覚が何千倍にもなってしまった俺は、自分の能力なのかスキルなのかわからないが、自分の力で自爆出来る事が証明された瞬間となる
こんな感じで本格的な魔素視覚化と嗅覚による複合化した状況察知の訓練が開始された。
キャノの場合はオーガ種なので人間種よりは嗅覚が敏感だったらしく、この辺は本能的に今まで体験していたようだ。嗅覚は人それぞれ気が付く人付かない人のように個人差があるので嗅覚という物は鍛えればそれなりに発達し感知できるようだ。
俺自身も嗅覚の倍増割合を自由に調整できるようになったので、時々はむせ返すけどうまくコントロールできるようになったと思う。
コントロール出来ないと多分窒息死コース。
この世界はすげぇ強烈な臭いの複合で出来ているから。
休憩時間に街中に出ると、種族毎に体臭も違う。
今までも臭う人は臭っていたけど、気にかけるようになると色々と気が付く事も多い
この辺は絶対的なサンプル数が少ないので色んな種族に会って覚えていくしかない。
恐怖等の危機的状況の臭いに付いては種族が違っても大体同じで、こんな事が理解出来るようになったので、街の中でチンピラ風の人々には前もって近づかなくて済むようになった。
ああ、この人イライラしているとか外見では判断付かなくても、憂さ晴らしがしたい臭いのオーラみたいなのが出てるからね。
修業中は全神経を集中させているけど、それ以外は通常まで感覚を落としている。
仲間内でも色んな感情がわかるようになると、何かと問題がありそうだし。
修業も最終ステージに入る
武術特訓みたいなステージに入るのだが、俺みたいな一般人なんて学生の頃に授業や部活で柔道とか空手とかそんなのやる程度でしょう。
部活に入っていれば剣道とか弓道とか特殊な物をやる人も居たかもしれないけど、俺は学校で柔道を習った程度。
ああ、剣道や弓道を出したのはこの世界なら弓矢とか剣術とか実践的な物が有るので。
「リック君はミリアさんとの模擬戦を見せてもらった時もそうなんだが、武術はほとんどやった事が無いよね。絶対的なスピードで動いているだけだ」
「ええ、俺は武術としての経験はほとんどないです。冒険者になってからリーザ師匠に教え込まれた動きのみですね」
「師匠がリーザだったな。それにしては動きが変だな」
「父さん、それはリックがスピードとパワーに頼り過ぎているし、今まではそれでも問題無かった」
ケトル師匠はそれでは勿体ないと言う事で、俺の場合は格闘の基礎的な動きを徹底的に叩き込まれる事になった。
映画「ベストガキンチョ」みたいに普段の暮らしの中の動作を武術の動作に割り当てて、家の壁磨きとか、床磨きとか、掃除とか、水くみとか、雑巾搾りまで普通の方法じゃないやり方で武術的な基本動作を体に覚え込まされる。
普段の移動なんかも足さばきに注意して移動とか、「ケトル・ポット流」を徹底的に。
昼の修業が終わってからも夜になるとリーザさんとキャノも修業に付き合ってくれる。
きちんと基本動作を行わないとダメみたいに怒られる事も多々あったが、上手に続けられるようになると彼女達の匂いの変化で「これは上手に出来ているんだな!」って認識も出来るようになり俺自身嬉しかった。
こんなこともありながら修業の3か月の日々が終わる。
「みんなぁ良く頑張ったわぁ」
地獄の日々のようなラスト数週間だったが、無事に修業期間が終了した。
元々はリーザ師匠と嫁取合戦に参加する関係で始めた修業だったが、俺達のステップアップとしてとても有効な日々を過ごさせてもらった。
各メンバーを見ると二回り位成長したのではないかと思うほど表情や体格も変化していた。
今は全員修業着の恰好で、女子全員はリーザさんみたいなヘソ出しのシャツなのだが、エリアやアリシアさんまで腹筋が割れてしまっている。
どんな鍛えられ方をしたのか、「ランザップ」かよ!と突っ込みを入れたくなる
修業の終わりと各人の状況で合戦出場メンバーを発表する打ち合わせになっていたので、この場で出場者が選ばれる。
「さて修業の結果を考慮して、嫁取合戦に参加してもらうメンバーを選ばせてもらった」
師匠達がメンバーの特徴等を考慮したチームを発表する
順当に行けば リーザさん・ミリア・キャノかエリアかな。と思う。
格闘の他にも魔法も重視されるのでこの辺が選定基準になると思う。
「この試合は自分の武器の使用も認められるが殺す事は禁止だ。一応各人の武器も見せて貰って決めたつもりだ」
「まず、リーザお前は確定だ。本人が出ない事には話にならないしな」
まぁこの辺は同意である。
「次に、リック君」
えっ?なぜ俺?
「一人は男を出さなければならないルールなんだ、今の君なら大丈夫だろう」
「そして最後はキャノ君だ」
キャノはエッという顔をしている。このメンバー構成では攻撃魔法が無いに等しい。リーザさんもキャノも魔法は自分の為等の補助程度にしか使えず、攻撃魔法に関しては絶望的だからだ。
「師匠、攻撃魔法を考慮してミリアを選ぶ事は?」
「ミリアさんはダメだ。リック君は彼女の正体を知っているだろう。巧妙に偽装されているようだが」
「そうなのよぉ、最初は解らなかったけどねぇ解っちゃったからマズイのぉ」
「妾の偽装を見破れるとはのぉ、さすが高レベル者は違うのぉ」
「本当わぁあの事が無ければ解らなかったわよぉ」
ミリア、エルダーリッチはダメ。
「アリシアちゃんは、武器の使い方が対人戦向けじゃないのよぉ。そのへんのチンピラなら十分通用すると思うけど、絶対的なスピードはぁキャノちゃんよりも劣るから前衛として出すには少し力不足かなぁ」
「最後にエリアちゃんとキャノちゃんで迷ったわねぇでも、実戦経験はどう見てもキャノちゃんなの。エリアちゃんは優しすぎる所もあるから、動作に迷いがあるのよねぇだからかなぁ」
あとはレベルの問題があるらしく、人間族と獣人族では同レベルでも獣人族の方が有利なのだと言う。
今回は対人戦になるので余計に、アリシアさんやエリアでは荷が重いとの判断なんだと思われる。
試合の形式は1日目は個人戦、2日目が3人のチーム戦。
簡単なルール説明を受けて嫁取合戦当日を迎える事となる。
25000PV,4000ユニークを超える事が出来ました。
少しでも読んで頂けるだけでも読者様に感謝です。
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。




