【前日談】アリシアがリックと出会うまで(中)
前後編の予定でしたが、中を作りました。
ツーブロック伯爵家とのやり取りはラベール商会法務部の方で円滑に処理が行われアリシアの件は落ち着いたかと思われたが、ロングヘイヤからの出来事から数か月の時が流れ、再びラベール商会の情報部に不穏な情報が入る。
「ラベール会長、以前問題のあったツーブロック伯爵家の事で動きがありました」
良く無い話である事は明らかなのだが、事の内容がまだアリシア絡みだと解るとアリシアの父は絶句する。
ラベール商会情報部の調査によるとアリシアをどうしても手に入れたいクリッパは手段を選ばずにカーパッツ国内の裏組織にアリシアの誘拐を依頼をしたようだ。
表向きにバレてしまうとリーゼント国の伯爵家がカーパッツ国内裏組織に介入した事になるので、大問題になりかねない情報でもあるので、巧妙にカムフラージュされていたがラベール商会情報部はそれを察知したのだ。
「残念ですが、ここまで来るとアリシア様を守る手段は限られるかと」
商会の力では、この事実の証拠を集めるには時間が掛かり過ぎる、カーパッツ国に対し何かしら対策を講じてもらうには時間が全く足りなかったのだ。
「アリシアを呼んでくれ・・」
「わかりました」
しばらくするとラベールの私室にアリシアがやって来る。
「お父様、お呼びでしょうか?」
「ああ、実は・・」
ラベールはアリシアに対して事の経緯を話す事にする。
今からツーブロック伯爵家に対して婚姻の申し出をしても間に合わないだろうと言う事。
数日以内にラベールの屋敷が襲撃を受けるなり、移動途中に襲われるなりの事が起こるだろうと。
「アリシアよ、お前をあらゆる方法で守りたいのだが、単独になった時為の保険の意味でこの呪いを教える。安全が確保できるまでこの呪いを解く事は許さん」
ラベールが話をした呪いとは、エルフ族に伝わる呪いである。
一部のエルフ族は人間社会に溶け込んで生活している者も居るのだが、歳を取る速度が人間のそれとは全く違うので、エルフ族とわかりにくいように自身にこの呪いをかける者達が居る。
”不美の呪い”である。
この呪いは容姿等を人間で例えると40歳位に固定し、魔力量に応じて容姿を変化させる、ただそれだけの物だ。
呪いなのでポーション等では呪いを解く事もできず、鑑定魔法には呪われている状態として認識される。
エルフ族に伝わる呪いなので、人間族では”不美の呪い”を解く方法は無い。
ただの偽装系の呪いなので高レベル者には見破られてしまう可能性もあるが、リーゼント国内で見破られる可能性は極めて低い。
何故なら不美の呪い自体が人間族には、ほとんど認知されていないからである。
「不美の呪いは自分自身にかける呪いだ。アリシア自身が呪いをかけ、解くときも自分の意思で解く事が出来る。もしクリッパの一味に捕まるような事があったら、この呪いを自分自身にかけなさい」
アリシアはラベール本人から呪いの仕組み等を教わると、自分自身に呪いをかける
若くして修羅場を潜り抜けて来たような殺伐とした表情の女の姿に変わるアリシアがそこに居たのである。
もちろん、呪いをかけるとき、解く時も大量の魔力を持って行かれるが、魔力量を多くすることでより醜い容姿に変わる事が確認できた。
ラベール本人からこの呪いの事を教えられたので、父自身もエルフの可能性がある。
アリシア自身、疑問を感じ、父がエルフ族なのだろうと思ったが、今は”不美の呪い”の制御について速く確実に習得できるように専念する事にしたのである。
その後数日間は何の動きも無かった。
アリシアは商会への襲撃を恐れ、秘密裏に田舎へ隠れ逃げる事を選択する。
この選択は良いとも悪いとも言えなかった。
アリシア自身が襲撃され攫われる事は回避できない事だったからである。
◆◆◆◆◆
「とある金持ちがラベール家の娘が欲しいから、攫えってよ!」
「すげぇ報酬が良いらしいぜ!」
「金持ちは女一人にこんなに金を出すなんてな!笑いが止まらねぇよ!」
会話しているのはカーパッツ国内でも問題なっている窃盗誘拐団である。とある金持ちというのはツーブロック伯爵家クリッパの事であるが、この事は表向きにはなっていない。
代理人と呼ばれる男がすべての指示を出している。
「明朝、ラベール家から3台の馬車が出発する。その中の1台にラベール家の娘が乗っているはずだ、無傷で攫え。あとの者は殺してもかまわん」
「OKボス。情報だと護衛を雇っているようだが、その辺の盗賊対策と同じなら俺らから見たら、温い仕事だぜ!」
「ああ、女は絶対に殺すなよ。俺達の首が飛ぶぞ」
「了解!」
◆◆◆◆◆
アリシアを乗せた馬車が屋敷を出発すると、すでに数人の男達に情報が伝達されていた。
馬車の人員構成については事前にラベールの使用人を脅し把握済みであった。
アリシアを乗せた馬車が郊外に入ると窃盗団を乗せた馬が高速で接近してくる。
異変に気が付いた護衛達は即座に対応を行うが、窃盗団たちのレベルが高すぎた為、一人、一人と
倒されて行ってしまう。殺す必要はない。落馬させればこの場からは消えるのである。
窃盗団たちは落馬させる方法を良く知っていた。
素早く馬車ごと奪って逃げる計画なのである。
外の異変により、アリシア本人は覚悟を決める事にした。
これから先自分自身にどんな困難が待ち構えようとも再び父の元に帰る為、決心する。
アリシアは”不美の呪い”を自分自身にかけるのだった。
◆◆◆◆
窃盗団たちはアリシアの乗った馬車を止め、馬車の内部を確認する。
「本当にこれが絶世の美女なのか?」
「まぁ馬車の中の女を捕まえて来いって、依頼人の希望だからな」
「こんな年増の女じゃあそこも立たねぇよ。俺ならゴメンだ」
「まぁ美人なんて物は、その野郎の中で脳内変換される物だから個人的趣味に関しては何も言わんけどな」
「ハッハッハ!違いねぇ!」
金になる大切な女なので、窃盗団たちはアリシアの事を丁重に扱い、代理人と名乗る男の所に連れて行く
「これがラベールの娘か・・鑑定魔法によるとアリシア・ラベール本人だな」
事前情報で聞かされてた身長や髪の毛の色、特徴等は大体一致しているが、どうみても40歳位の女であった。
この代理人の男はツーブロック伯爵家の裏側の人間で主にカーパッツ国内での活動を任されている男の一人である。
この女をクリッパ様が欲しがっていると・・あのお方は若い美女好きで有名だったのだが、何かの間違いなのでは無いか?
代理人の鑑定結果に間違いは無かったので、窃盗団に報酬を渡し、アリシアを引き取ると代理人はアリシアを一時的に預かる事となる。
その後ツーブロック伯爵家から使いの者が到着し、アリシアの事を入念に調べていく。
記録上の歳は16歳のはずなのに、どうみても40歳前後で絶世の美少女と言われた面影はない。
ただ40歳にしては美しい方になるのではないかと言った感じである。
その後も知識や教養等を調べていくと、それらが一級品で高度な教育を受けている者だとわかる。
気になる事としては状態が「呪い」になっている事
使いの者と代理人は二人で相談する事にした。
引き渡しまで時間も無いので呪いを解く事に時間的余裕が無いし、裏側の呪解士に依頼すると金もかかるし他の組織に知られるリスクも発生する。
カーパッツ国内でのラベール商会の影響力はそれほど大きいのだ
「この女をクリッパ様にそのまま引き渡すのは勿体ないぞ」
「ああ、あの方ではこんな年増では即座に殺してしまうだろう。しかも呪われている」
「この女の知識は使える。俺達でひと稼ぎ出来るんじゃないのか」
「俺もそう思っている。一芝居打つか」
「一応この件は、俺の上司に真実は話すけどな」
「ああ、あの人にバレたら俺達は確実に殺される」
◆◆◆
リーゼント国ツーブロック伯爵家にて
「ラベールの娘はまだ来ないのか!俺を何時まで待たせる気なんだ!」
クリッパの苛立ちは日に日に強くなって行った。
「別の女を抱いても全然面白くない!、あの女が俺の物になる日は何時なんだ!」
苛立ちを見せているクリッパに近づくような人間は居ないが、クリッパの執事だけは違っていた。
この男に対しては絶大なる信頼を寄せているクリッパであり、こんな状況でも話しかける事ができるのは、この執事と数名の人間だけである。
執事はクリッパの私室のドアをノックし何事も無かったかのように冷静な姿でクリッパの私室に入ると事の報告を淡々と始める。
「クリッパ様、ラベールの娘の件ですが、誘拐に失敗し死んでしまったそうです」
「なっ!なんだって!!!!!!!」
「私の信用する者からの情報ですので間違いはないかと」
執事の男はカーパッツ国に送った部下から正確な報告を受けていた。
執事はクリッパの拉致計画を快く思っていなかったのと、カーパッツ国内に影響力のある商会の女を拉致したとなると後々面倒な事になるかもしれないと考えての事である。
クリッパがアリシアを気に入っても拉致している以上表に出せない
飽きるなどして処分するにしても、ツーブロック家内でアリシアを目撃・接触した人物に対し何かしらの根回しをしないとならなくなる。どちらにしろ表に出せない面倒な女になる。
執事の男は、アシリアの始末を部下に任せる事にしたのだ。
クリッパ自身もこの報告について多少の不満はあった物の絶対の信用をしている執事の話でもあったので、この報告を受け入れる選択をした
その後クリッパは苛立ちを発散させるかの如く、囲っている女達を集め深夜まで欲にまみれるのであった。
本編投稿再開まで少々お待ちください。




