第六十一話 は、速い!
そんな惨劇もとい、鏖殺がされた後は速やかに整備をし移動した。そう何度も襲撃に合っては堪らないからである。移動方は東雲で、中央には丘と次への入り口が見える!だが、前回の階層と同じく合成獣が現れる。今度のはただただ肉食獣をごった煮させただけではなく、特殊な能力と奇妙で奇怪な美しさを持ち合わせていた。
足には紫電を纏い牙からは酸性度の高い毒が滴り、手足からは何をも切り裂かんとする|剣《つるぎ》のような爪が伸びる。主な体のパーツはネコ科であるが、前回の層に出て来た合成獣の要素や前々回の層に登場した魔物の特徴が垣間見える。豹柄の体はよく見ればアルマジロの鱗甲であり、頭部にはヤギと水牛の強靭で鋭利な角が生えている。また、尻尾には棘付きの鎚状の物が付随しているようだ。
体全体から金属光沢が見えるので、鱗甲の防御力も推して知るべし、と言う奴である。そのため斬撃系の攻撃は効かない、ないし武器の方が壊れるであろうし、銃弾も弾種によってはまともな創傷を作れないだろう。
ルバリアさんが鎚で攻撃を加えるが、軽々と避けられてしまう。大きな体格や金属的な見た目に比べ、軽やかで舞に感じる動きで回避をされてしまうからだ。
「動きが早いんですけド!?旦那はどうですかい」
「これはいけないよ。調整が必要になるから、今は役立たずだね」
「ダメってことかい。そりゃないぜ」
機敏に動く生物の関節に当てるのは、八咫でも難しいようで手を出せていない。他の面々は猶の事で、サーチャーさえも照準が合っていない。
ネクロが岩壁を使い行動範囲を狭めようとしているが、酸性の毒で脆くされ尻尾で破壊されている。そのため成果は芳しくない。
「チッ作ったそばから崩れていくわね」
舌打ちで状況が変わる筈もなく、悪化はしていないが現状維持といったところだ。突如、鴉狐が声を上げる。
「は、閃いた!蒸し焼きはどうかな?当たらないと意味が無いけどネ!」
「発想が怖いわ。でも…面白そうね?今の状況よりかはマシね」
「だよね!即断即決でやる!灯火よ【召喚術・召喚:鬼火】!高熱高温の蒸し焼きにしてッ!俺の魔力を使ってもいいから!」
「少し遅いわよ」
『了解しましたー〝炎球〟。《鬼火》、《黄泉の炎》纏わり付かせ続けろ』
「誤差じゃないか!」
魔術やスキルで、それの内部外部問わずに燃やし、温度を上げ続ける。体全体が全身鎧を着ている状態では、堪らない。言葉では表現出来ないほどであろう、延焼により動きが鈍る。それを見逃す者は居なかった。
「フッ!それに、水よ!」
「囲えよ囲え 岩は囲いに〝クリエイト・ウォールフェンス〟!」
息を吐き、それが合図代わりであったのだろう。触手が現れ相手を黒い檻で囲い動き難くし、加えて壁で囲い補強し崩壊時間が延びる。熱に意識を向けている状態では、気づけていることさえ分からないのだが。
続けざまに熱された体に水を掛けた。冷却されたことにより、それの体全体に罅が入る。体が冷やされたことで、意識が外に向けられるが襲い。
ルバリアさんが檻の外から攻撃をし大打撃を与え、隙間から矢が入り絶叫が周囲に響く。赤黒い血が滾々と湧く、足掻き藻掻き暴れ死に対抗せん。意気込むが出血量が危険域に達そうとする。巻き込まれたのが居ないのは、程よい具合に出る傷を与えたら、一行はそれから離れ事態を見たためだ。
息遣いが荒くなり、動きが漫然と鈍り始め、やがて動かなくなる。死を偽装している訳ではないようで、やっとこさ息絶えた。
この大きさでは流石に、アイテムボックスには入れられないため解体作業を行う。警戒作業は八咫や召喚獣、整備済みのサーチャーと子機でする。暇な人員は警戒しつつも談笑に時間を当てた。
「おや、独り言ですか?」
「暇だからね。こんなことも考えるんだよ。若い時の苦労は買ってでもせよって言うけどさ、苦労は苦労でも良い苦労と悪い苦労が有る。それがこの歳に成って、やっと分かったんだよね」
「例えば、どんなものです?」
「んーそうだね、長時間の労働があるとする。この内の良い方は、技術的習得が出来て忍耐力や集中力もつけられる。悪い方は誰でも出来る単純作業を、延々と繰り返しする。同じく力は身に付けられるけど、少しだけ中身が違ってくるんだ」
「ふむ……エリートとワーキングプア、みたいなものですか?」
「まぁ、そうなるかな?この言葉はさ、苦労じゃなくて経験の方が良いと思うけどね。経験にも種類は有るけどさ」
「少なくとも、苦労よりは印象が違いますね。言葉の捉え方は人それぞれ、しかも自分の良い方に解釈しますから。意味は無いと思いますがね」
「ただの戯れ言、気にしては駄目だと思うよ」
「雑談ですからねぇ」
取り留めの無い会話を一頻り話をし、区切り良く解体作業が終了した。空いている者にそれをいれ、東雲による移動を続ける。次の階層の入り口が見え、入っていく。これでも二桁の階層に到達出来ていない。一部の噂では、百階層は有ると言われるイベント迷宮、果たして期間内に辿り着けるのであろうか。




