第六十二話 厄介だわぁ
次の階層は王道の中の王道とも言える、石レンガの迷宮であった。この階層から罠が、出始めていることからも分かる。当然斥候が必要な訳で、勿論八咫とサーチャーだ。索敵技能以外にも、罠探知や解除が必要になってくる。八咫は罠と遠距離攻撃の専門馬鹿であるため心配は少ないが、サーチャーはバージョンを上げなければならないであろう。
道が複雑化しているため、通ったところ限定だがサーチャーのマッピング能力が役に立つ。虱潰しに探すことになるかもしれないが、同じ道を何度も行き来するよりはましになる。
敵に遭遇せず単調な行動が続く。だが、出会いは突然にとばかりに襲い掛かってくる。単調であったが気は緩んでおらず、すぐに対処された。棍棒装備のゴブリンが四匹程度が現れただけで、脅威でも何でも無いからである。あの草原の合成獣より圧倒的に弱いからでもある。ただ数で攻められたら、今の一行の実力では対処が難しくなるだろう。
進むにつれ脇道も増え、探索箇所が増大する感覚に陥る。しかし、脇道には偶に宝箱らしきものが置いてあるため、疎かには出来ない。
宝箱には傷薬やパン等の食料が入っていた。下級回復薬と言った魔導学的な薬や武具は、残念ながら入ってはいなかった。
最初は驚きや願望が入り混じっていた宝箱だが、良いものが出てこないと言う結果に、無味乾燥染みた感情と、ある種の絶望と諦観があった。しかし、止める事が出来ない性や業を持つ者が居る。それはアレクだ。
彼は以前からガチャ要素を含んだものをしたことがなく、初めての経験にギャンブルに似た興奮を得たため、止められない止められない状態だ。これには、周りの影響も少なからず有ったと言えるだろう。ガチャに似ているから希少級や固有級の物品が出てくるだろうと。そんな小話を呟いた奴が居たからだ。だがそれも雑談の範疇であり、普段はそこまで気にする範囲の話題ではない。加えて階層を進めていくと、若干効果や味が高まってゆくのも拍車をかけた。
「中々良いもんは出ませんねぇ。もう少し階層を進めてからにしんねぇ?これじゃ疲れちまうよ」
「スキルアップになるから」
「そうですけどねぇ?ここいらの宝箱に仕掛けてある難易度じゃ、肩慣らしにもなりゃしませんよ」
「そうなのかい?」
「ほらほらアレク。ローリターンしゃなくて、ハイリターンを得ようよ。ね?」
「あ、いえ。すみません、何せ初めてに近い経験でしたから」
雑談している最中でも、難易度の調整が行われている迷宮では、殺されない。ここの階層では前回の階層とは違い、難易度がある意味で通常だ。だんだんと慣らしてゆくと言う意味でだが。
手に入れられる物に限りをつけ、先を急ぐ一行。次の階層、その次の階層と階を重ねていく内に物品の質や量が向上して行く。難易度も勿論上昇しているが、草原区域での急激な上昇と比べれば、微々たるものだ。
「これは良いモノですかね?」
「ええ、良質な品ですね。ただ、我々が用意した物に比べれば、素材としての価値しか有りませんが」
「そうなんですかい」
今までの中では良いモノだが、今までの期待を再起するには値しなかった。
「はい。あ、皆さん!回復薬の補給をするので、腕輪貸してください」
彼らが腕に付けているのは、回復腕輪と言う装着型の回復薬だ。これは、HPが一定の値に達すると、自動的に薬を注入する優れもので、事前に用意しておけば戦闘が楽になる代物だ。これのおかげで戦闘後に、負傷を治す手間が省けている。
「どれも正常ですね。ふう、予備を出さなくて良かった」
どれも異常や損傷が無い、ないし軽微のようだ。勿論その場で簡単な修理が出来るとはいえ、数には限りが有る。なるべく予備を残しておきたいのが、人情であろう。さあ、次の階層へ!と行こうとしたところで邪魔が入る。それはホブゴブリンの群れだ、相手は未だ気づいて無いようだが注意は必要になる。この階層から少しづつ増えてきた輩で、ゴブリンより多少強い位だが厄介である。
「フッ!」
先制攻撃で八咫が何本か撃つも、一体だけ減らしただけでそこまで効果は無かった。気づいたそれらが襲い掛かってくる。数人は横に並べるが、狭い通路での戦闘は苦戦を強いられた。が、快勝とは言わないでも、勝利して終わる。呆気ないようにも感じるが、派手な攻撃が出来ない所では何時もと変わらない。
先の戦闘音で感づかれたのか、もう一つの集団が襲う。今回は鴉狐の影触手で事なきを得た。また新手が寄る。先の厄介性だが、この気づかれたら数が増えていく点である。周囲のホブを殲滅が出来たのなら簡単だが、連鎖式に増えて行くので意味はあまり少ない。それに戦闘後の旨味も少ないため、非常に気が滅入るものだ。
このため、辛勝で次の階にやっと進めた。次の階層の同じ構造の様で、気は抜けない。本格的な野営が展開しにくい構造の為、しっかりとした休憩が出来ずにいる。




