閑話 夢か幻か、将又現実の境界か
何かが強烈で鈍い打撃される音が響く。それは断続的であるが、一定のテンポで行われているようだ。
『何をしているのですか?』
「ん?ああ、転生トラックの出動とか、うっかり植木鉢の発注をしているんだ」
『ん?何ですか?それは』
「最近の世事には疎いんだったか。折角だし、移動も流行りに乗ろうかと思ってね。それに、こちら側としても偏ってたら詰まらないじゃない?」
お道化た様子で喋る奇妙な男は、作業を再開した。興味がなくなったのか、喋りかけていた虚ろな目の女性は部屋を出ていく。彼女が出て行ったのも束の間、荒々しく歩く音が聞こえる。
「ねえ、ちょっと!五月蠅いんだけど?」
背部から神々しい光を放つ女性が入ってきた。ただ、彼は顔を気づかれないように、少しだけ顰めたようだ。
「これはこれは、かの太陽神様が何用で?」
「今貴方、顔を顰めたし対応が雑よね?まぁ良いわ、その事は。要件はね五月蠅いのよ!音を少しは鎮めなさい!」
「はて、何のことやら?これは仕事ですからねぇ」
肩を竦めながら煽って煽って馬鹿にしよる。これには彼女もニッコリ、ようは激おこだ。額に青筋を出し、中々に恐ろしい。
「仕事でも、周りに迷惑を掛けてはいけないって、教えられなかった?ねぇ?どうなのよ」
「…チッ」
「今、舌打ちをしたわよね。あ、逃げるな!」
彼は逃走を計り、見事成功した。彼女も後を追い、部屋から出ていく。部屋には誰も居ないようで、確かに誰かが居るのを感じる。
「姉さんも困ったものよね。あの馬鹿もだけど」
「ふふ、面白くて仲の良い家族で良いじゃない。これといった戦争が無いしね」
「貴女達に比べればそうでしょうけれど。それにしても、何をやろうとしていたのか」
「彼?彼なら区間内での例の仕事よ。他と同じく、嗜好を凝らしているみたいね」
二人の人影、片方は月を模した髪飾りと黒髪の女性で、もう片方は濃密な死の気配―――死に際が見えてしまうほど―――を纏い、鏡に映る肌は青黒い女性である。
「ああ、あれね。それにしても、姉が迷惑をかけたから、少しは手伝いたいのだけれど…」
目の前の機械を少しいじり、止めた。と言うより、手が止まってしまう。
「駄目ね、殆ど自動化されてるわね。下手にいじって良いものじゃないか。これを作れるなんて、流石司っているだけあるわ」
「そうなの?疎いから分からないわねぇ」
美人が可愛らし気に傾げるのは、良いものである。と言っても、這い寄る死が如何ともし難いが。そこさえなければ、良き風景だ。
「少しはどう?楽になるし。それに娯楽も楽しめる」
「無理ねぇ。今までの物の方が慣れてて楽よ。直ぐに適応出来る方が少数よ?」
そんなものかしら。と呟き一緒になって出ていく。少しした後、入れ替わりに奇妙な男が帰って来た。息を切らしてとても倦怠感溢れ出ている。
「はあ、はあ。何てしつこいんだ。たく楽しもうと思ったのにさ!よっこらせっと」
椅子に座り画面に目を向けた瞬間、突如笑いだした。それも大きな声で嗤いも嘲笑も込めに混め、蔑みだけで腹が捩れそうになっている。
「いやー才能は有っても、馬鹿しか居なかったか~。見込み違いが過ぎたか。この世界はやはり駄目だったか」
笑いが収まったかと思うと、落胆の声音で見る者に心胆を寒からしめる雰囲気を纏う。そして何かしらの手続きをし、骨董品風の受話器で連絡を取る。
「頼まれていた事はしたが、検討外れもいいとこだぞ」
『息抜きには良いだろう?少しは楽しめたと思うがねぇ』
「そのせいで、余計な事柄増えたんだが?」
『カーッ!分からねぇもんかねぇ?手際が良けりゃ良い話だぞ』
「まっそうなんだがな。いや、今回の転生者共は慎重な者が、全くと言っても良い程居なかったんだが?」
『何だ、今回は不正能力を与えなかったんだな?』
彼は受話器を肩に挟み、タイピングを始める。何かしらのプログラムを書き込んでるようだ。速度はかなりのもので残像が見える、がそれに耐えうるキーボードも可笑しいのでは。
「一辺倒じゃ楽しめないだろう?時間は有るんだしな」
『それもそうだな。注意事項は話したんだろう?』
「まあ、な。婉曲過ぎたやも知れんがな」
『それも試練ってか?そんじゃ、後はやっとくぜ。管理局からも連絡が来たことだしな』
「ああ、それじゃあ宜しくな」
溜息が聞こえ、視界が闇に閉ざされる。再び光が見えたかと思うと、違う景色だ。そこには巨大な木の根が地面から、虚空の裂け目から、視界の至る所で生えている。ふと気を緩めたら、天地が分からなくなってしまいそうだ。
宙を飛んでいる感覚に陥いる錯覚を感じ、目を閉ざす。次に目を開けると視界を埋め尽くしていた根が、綺麗さっぱりに消え去っていた。そこには何も無かったかのように。幻想が夢と現実の境界を揺らがせたとき、確かに起こるのだろう。
世界の終焉にして結末とは、存外淡白に感じてしまう。リセットボタンは無いにしても、デリート行為はあるのだから。
箸休めならぬ筆休めとして。




