第64話 白騎士服
かつての英雄、アロフィス・ソルゾラスが晒されている教会前広場。
人々の熱狂は醒めやらない。
「おらあ! 喰らえっ!」
石が、すでに意識のないアロフィスの顔面を打ち、鼻血が吹き出した。
警備兵が声を上げる。
「殺してはならん! 血も流させるな! うつるぞ!」
悲鳴があがり、人々が晒し台から距離をとった。
狂乱の広場を少し前に離れた馬車は、大通りを走っている。
揺れはほとんどなく、座面は柔らかい。
リリアは記憶をたぐる。
メイと乗った、あの馬車。
「これ、メイさんの馬車と似てる……」
書類に目を通していたセシリアが、顔を上げた。
「よく気づいたわね。これもリオルの設計なのよ」
「揺れの少なさは、ドワーフ職人の技術のおかげだ」
ペンで書き物をしながら、リオルがつぶやく。
リリアは、そっと窓の外を見た。
「あっ、あの子だ!」
「英雄の娘さんだよ!」
気づいた人々が、馬車に向かって歓声をあげる。手を振る者、帽子を振る者。
リリアは、小さく手を振り返すと、窓掛けを僅かに引いた。
セシリアが、書類を閉じた。
「宿に着いたら、ノエルに授乳しないと。リオル、オムツ替えよろしくね」
「任せておけ。……リリアは着替え終えたら、俺の工房室で待っていてくれ」
「は、はい」
◇
工房室に入ると、まず、乳母車とガラガラが目に入った。
乳母車は艶のある黒塗りで、日除けが蝙蝠の翼のように広がっている。ガラガラの先には、大きな目玉の飾り。
「これは、ノエルちゃんのかな?」
部屋の中央に据えられているのは、輝くばかりの光沢を持つ、真っ白な衣装。
「えっと……ウェディングドレス? 誰のだろう?」
近づいてみると、腰には二振りの短剣。
胸元には、魔力を帯びた宝石。襟の内側から、編み込まれた細かい鎖帷子がのぞいている。
袖口には、白銀の竜の紋章と、「7」の数字。
「騎士服? なんだろう、すごく、綺麗」
「気に入ってくれたようだな」
ノエルを抱いたリオルが入ってきた。
黒ずくめの腕の中で、金色のふわふわした髪が揺れている。母親譲りの、青い瞳。
ノエルは乳母車のガラガラを見つけると、懸命に手を伸ばす。リオルが拾い上げて持たせると、きゃっきゃっと振りはじめた。
振るたびに、目玉の飾りから小さな光の粒がこぼれる。
「か、かわいい」
「ああ、同感だ」
ひとしきりノエルに和んだあと、リリアは口を開いた。
「えっと、この白い服は?」
「最新の魔法工学を盛り込んだ、白騎士服だ。格好いいだろう」
「はい! リオルさん、あの白騎士の装備も作ってるんですね」
白騎士。
魔王乱立のいま、何体もの魔王を討ち取ってきた、大陸最強の騎士団。
「ああ。ひとまず、標準兵装は短剣二刀流にしておいた」
「え、はい。そういえば、腰に二本、帯びていますね」
「サイズが合わなくなったら調整する。内部は超軽量で伸縮する鎖帷子だから、よほど体型が変わらない限りはそのまま着られる」
「すごいですね……。あ、袖口の『7』は、なにかの番号ですか?」
「白騎士団の席順だ。団長が『1』で、あとは空いているところから、好きな数字を選べる」
「奇遇です。わたしも7が好きなんです。お母様と、誕生月が同じ七月なので」
「なるほど、だから『7』か。メイが発注のとき、そう指定してきたからな」
「ええ? メイさんの装備なんですか? たしかに、あれだけ強ければ白騎士でもおかしくない……」
「……なにか、話が噛み合わないな。これは、リリアのだぞ」
「へっ?」
リオルが、白騎士服の襟元をめくった。
裏地に、金糸の刺繍。
『リリアーヌ・ソルゾラス』
「君が、新たな白騎士だ」
「えええーーー!?」




