↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄ハーレム、崩壊記〜その娘が父の裏の顔を暴き、超えるまで〜  作者: 水戸直樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/71

第46話 お待ちしてましたぜ

 街道を外れて、しばらく。

 林の奥に、丸太の柵が巡らされていた。


 かつては牧場だったのだろう。柵の内側には、屋根の傾いた家畜小屋がいくつも並んでいる。

 そのどれからも、人の気配が漏れてくる。すすり泣き。咳。子供のぐずる声。


 奴隷の収容所だった。


 柵の前には、荷車が三台。今朝、沿岸区の門を出ていったもの。

 毛皮を肩にかけた男が、荷台の縁に腰かけて、指輪をひとつずつ磨いている。


「親分、来ましたぜ」


 見張りの男が、林道の先を指さした。

 木々の向こうに、騎馬の列が見えてくる。先頭に、茶色の髪の男。


「お、英雄様ご一行が到着だ。見張りを残して、出迎えに出るぞ」


 スラムの王が、荷台から腰を上げる。幹部たちを引き連れ、揉み手をしながら柵の外へ出ていく。


 騎馬の列からも、その姿は見えていた。

 傭兵がひとり、アロフィスの側に馬を寄せる。


「……どうします?」


「先手必勝だよ。ぎりぎりまで悟らせず、射程に入ったら射殺す」


 ゼフィーラが、怪訝な顔を向ける。


「……あいつら、あまりにも無警戒だけど。にやにやしてるし、様子が変だよ」


「あれが、あいつらの手口だよ。油断させて襲いかかってくる。だから、あいつらが何か言う前に仕留めないと」


「うん、わかった」


 アロフィスが、片手を軽く上げる。

 傭兵たちが、鞍に掛けた短弓を、目立たないように手に取った。


 距離が、詰まっていく。

 スラムの王が、両手を広げて声を張る。


「いやあ、お待ちしてましたぜ、英雄さ——」


 アロフィスの手が、振り下ろされた。


 馬上から、一斉に矢が放たれる。

 弦の音が重なり、男たちの胸に、喉に、矢が突き立つ。驚愕に目を見開いたまま、スラムの王が仰向けに倒れた。

 出迎えの男たちは、あっという間に地面に転がっていく。


 柵の内側で、悲鳴が上がる。

 残っていた見張りの男が、小屋から若い女を二人引きずり出してきた。首に腕を回し、刃物を突きつける。


「や、やめろ! 撃つな! こいつらも巻き添えになるぞ!」


 ゼフィーラが、夫を振り向く。


「どうする? あいつ、自暴自棄だ。やりそうだよ?」


「……婦女子の命は惜しいが、それより、君を危険にさらすことはできない。なんとか、隙間を狙って射る」


「……難しいけど、やるしかないね」


 アロフィスが、矢をつがえる。

 男は、人質の女二人に密着した。

 弦が、きりきりと引き絞られていく。


 次の瞬間、男の頭が、びくりと揺れた。

 刃物が手からこぼれ、男はそのまま、前のめりに崩れていく。


 女二人が、もつれあうようにして逃げ出す。


 アロフィスは、引き絞った弦をゆるめた。

 その横で、ゼフィーラが一瞬だけ、林のほうへ目をやる。


「よし! 人質が離れた! 攻め込むぞ! 一人も逃がすな!」


 アロフィスの号令で、騎馬傭兵たちが柵へなだれこんでいく。

 小屋から飛び出してきた男たちは、剣を抜く間もなく射倒され、馬に踏みつけられた。逃げようとした者の背にも、矢が追いついていく。


 制圧は、あっけなく終わった。


 アロフィスは馬を降り、家畜小屋の戸を引き開ける。


 薄暗がりに、目が並んでいた。

 女たちが、藁の上で身を寄せあっている。子供を抱いている者もいる。足首には、杭につながれた縄。

 隣の小屋も。その隣も。


(予想していたより、奴隷が多いな)


 アロフィスは、ひとつずつ小屋をのぞいて回る。


(いや、これほどの数を確保できるのは、グレンス商会の崩壊以来、初めてだろう)


 かなりの収益になる。いくらかを差し出せば、教会だって動かせる。

 それに、見目の美しい女がいれば、手元に置ける。


 口もとが、ゆるむ。


「アロフィス、こんなにたくさん、攫われた人たちが……」


 隣に並んだゼフィーラが、言葉を切る。


「……どうしたの? なんで笑ってるのさ」


 アロフィスは、自分の頬を軽く叩いた。


「いや、間に合ってよかった。これほどの人数を助けられるのは、正直、うれしいよ。……不謹慎だったかな」


「ううん。でも、油断しないで」


 ゼフィーラの目が、柵の外の林へ向く。


「……さっきの見張り、誰が仕留めた?」


 アロフィスが、傭兵たちを見回す。名乗り出る者はいない。


「矢は、刺さってなかった。あのとき、林のほうに妙な気配があったんだ」


 ゼフィーラが、つないでいた馬に飛び乗る。


「アロフィス! あたしはそっちに行く!」


「追跡で君にかなう者はいない。言い訳させずに倒してきてくれ。我々は、こちらを片付けておく」


 ゼフィーラの馬が、林へ駆けこんでいった。


 ◇


(また、やっちゃった……!)


 ナナは、木々のあいだを駆け抜けていく。


 林の高い枝の上から、すべて見ていた。

 両手を広げて出迎えた男たちが、ひと言も言い終えないうちに、矢を浴びて倒れていくのを。


(……騙し討ちだったみたい。これが、お父様のやり方……)


 偵察だけの、はずだったのに。

 女の人の喉もとに、刃物。その向こうで、弦を引き絞る父の姿。

 気づけば、指が動いていた。


 きっと父は、女の人もろとも、賊を始末するつもりだった。


 後ろから、蹄の音が近づいてくる。

 振り返ると、木々のあいだに、引き締まった小麦色の腕が見えた。


「ゼフィーラさん……」


 金等級冒険者にして、父の第三夫人。

 第四夫人の嫁入りを告げられたとき、大暴れして家を出て行った女傑。


(気づかれたかもしれない。早く、離れないと)


 背後の蹄の音は、離れずについてきていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。