第47話 作り笑い
◆ソルゾラス家
【アロフィス・ソルゾラス】
自由都市の英雄。竜殺しの二つ名を持つ白金等級。竜が現れるたびにこれを討ち、教会がその功績を称えてきた。彼のもとには金と人、竜素材と奴隷が集まり、自由都市の経済の要となっている。
四人の妻と、数えきれない愛人、買い上げた女奴隷を屋敷に置く。金と奴隷を差し出すことで、教会を動かす。
沿岸区の関門では「人身売買の元締め」と呼ばれ、通過を拒まれた。その場で出会ったナナを、娘と気づかぬまま屋敷に誘い、断られている。
攫われ、騙されて売られた女たちの買い手だった、という噂が市街区にも広まりつつある。竜討伐も滞るなか、名声を取り戻すため、みずから「救出劇」に乗り出す。
「僕に恥をかかせた奴らには、思い知らせないといけない」
【フィデリア・ソルゾラス】
第一夫人。アロフィスの幼馴染で、かつては同じパーティーの冒険者だった。リリアの母。屋敷では、新しく来た女たちを馴染ませる役を任されている。娘が家を出た日のうちに、私財を投じて「娘の保護」を依頼した。
「ただ、無事だとだけ、時折教えてください」
【レナリル】
第二夫人。大陸三大娼婦と謳われ、アロフィスに身請けされた。司教と組み、奴隷たちを贄に竜を呼び出しては夫に討たせる「計画討伐」を回してきた。屋敷の女たちの入れ替えも、彼女が手配する。夫を「カリスマ」と持ち上げる。
「噂を消せないなら、それ以上の噂で上書きすればいいわ」
【ゼフィーラ】
第三夫人。金等級冒険者。大陸屈指の戦闘術ケラガ・ルヴ(略式)を修め、追跡にも長ける。第四夫人を迎えると聞いて家を出ていたが、夫の人助けの噂を聞き、指名依頼「新しい奴隷の護衛」を受けて同行した。林で謎の少女と互角に渡り合い、取り逃がす。
「言っておくけど、あんたの浮気、許したわけじゃないからね」
【第四夫人】
グレンス商会から嫁いできた、最年少の妻。兄たちを「お兄ちゃん」と呼ぶ。関門でナナから、テオの容体を聞かされた。実家が落ちぶれてから、夫に鞭で打たれている。
「みんなの英雄アロフィス様が、誘ってくれてるのに?」
【家令】
屋敷の内外の知らせを、アロフィスへ取り次ぐ。数少ない男性使用人。
「――今日、登録したばかりの、鉛等級の女だそうでございます」
【傭兵団】
金で雇われた者たち。腕にソルゾラス家の腕章を巻く。女を「連れてくる」チンピラや、用心棒、精鋭の騎馬傭兵など、人員構成は多岐にわたる。
「ま、どうせ顔隠してる女なんてブスに決まってる」
◆グレンス商会
塩・胡椒の専売権を抹消され、公爵家に差し押さえられた。沿岸区の店は、ドゥルセ商会の看板に変わっている。
【イーゴ・グレンス】
元次期当主。第四夫人の兄。公爵家との盟約を反故にした罪で、ナナに捕縛された。いまは牢の中。
「ここは俺の街だぞ! せっかくトップに立ったんだ! 俺は出ていかない!」
【テオ・グレンス】
イーゴの弟。兄の逆上を買い、殴られて重傷を負う。浮き家の宿で療養している。
「ウチが守ってきた信用を、兄貴はたった数ヶ月で潰したんだ」
【主人】
イーゴとテオの父。病に倒れてから、商会の表に出ていない。公爵家とは代々の付き合いだった。
◆教会
【マルドゥク】
司教。アロフィスの功績を称え、彼の一夫多妻を祝福する。郊外に召喚陣を隠し持ち、呼び出した竜を、アロフィスに討伐させてきた。
「贄さえ用意すれば、竜種を呼び出せます」
◆暗殺党
アロフィスの依頼で、ナナの誘拐を狙う。井戸への毒の投げ込みも、壁を越えての侵入も、ことごとく阻まれた。生きて戻ったのは、異常に慎重な男がひとりだけ。
「ナナの拉致は無理だ」
◆冒険者ギルド
冒険者に依頼を斡旋する組織。
等級は下から、鉛・鉄・銅・銀・金・白金。白金等級は、自由都市に二人しかいない。
【受付嬢】
ナナの登録を受け付けた。規則に忠実。英雄の裏取引を断っている。
「規則は、規則ですから」
【副ギルド長】
英雄の口利きで、その席に就いた。ナナの捕縛に金貨二枚を出し、英雄と教会へ使いを走らせようとした。負傷して教会に運び込まれる。
「君は責任をとれるのか?」
◆ドゥルセ商会
大陸一の大商会。グレンス商会の跡を引き継ぎ、スラムの住民に住まいと職を用意して、移住を進めている。港に屋根のついた船を並べ、その仮住居として手配する。
【セシリア・ドゥルセ】
ドゥルセ菓子店の主で、菓子職人。金髪。冷たいチーズケーキを、魔法で冷やして出す。
「うふふ、魔術師じゃないわ。この店の主で、菓子職人よ」
【イルマ】
一筋の乱れもなく髪を結い上げた、移住担当。スラム最後の一角の立ち退きを任され、ナナに潜入を依頼した。
「あいにくドゥルセは、人の売り買いはいたしませんので」
【黒装束の男】
ドゥルセ菓子店に、いつもいる客。角と額の目玉は、兜らしい。
◆スラム
【親分】
スラムの王を名乗る。最後の一角に居座り、女たちを「養っている」と称して売り物にしてきた。立ち退き料の釣り上げに応じてもらえず、残る女子供を収容所へ移し、アロフィスに売ろうとする。出迎えに出たところを、英雄一行に射られた。
「ここは、スラムの王である俺のシマだ」
【女の子】
一角で、幼い子たちの面倒を見ていた少女。「お菓子の妖精」に言われたとおり、門で助けを求め、子供たちとともに保護された。母親は、娘を置いて親分について行った。
「助けて! 連れてかれちゃう!」
◆沿岸区
元々は公爵家直轄領。都市を追われた者たちの浮き家が、そこに庇護されている。
高台の屋敷と港を除き、長らく自治はグレンス商会と住民たちに委ねられてきた。治安の破綻が明らかになり、公爵家の直接統治に戻された。関門の出入りは厳しくなり、スラムの解体が進む。今や夜も灯りが絶えない。
【リリアーヌ・ソルゾラス(リリア/ナナ)】
アロフィスとフィデリアの娘。十三歳。家を出て、高台の屋敷でメイドとして働く。ケラガ・ルヴの訓練による換骨奪胎で、大人の女性の背丈になった。冒険者としての登録名はナナ。銅等級。関門で父と向き合ったが、父は娘だと気づかなかった。
「……だから、そんなになっちゃったんですね」
【メイ】
白金等級の冒険者。姓は伏せている。沿岸区の依頼を多く受け、庶民の味方とも呼ばれる。人並外れてよく食べる。逃がした娘たちを連れて遠征に出ており、道中で新兵を鍛えながら野盗を狩っている。
「殺す気で来ないと、ノーチャンスよ」
【メイド長】
高台の屋敷を取り仕切る長身メイド。沿岸区の警備の要。リリアに、目隠しとニンニクで五感を封じる訓練を課した。
「笑っていません」
【ロッタ】
高台の屋敷のメイド。そばかす。リリアより年上。料理を教えた。怖い相手にも、言うべきことは言う。休むのが下手なリリアを、外へ連れ出す。
「せっかくの休みに気を張ってたら、もったいないよ」
【老婆】
海に浮かぶ宿の主。家から逃げてきた娘、売られかけた娘を泊めてきた。フィッシュフライが宿の名物。担ぎ込まれたテオを看ている。
「あたしはトゥーリじゃないよ。悪かったね、ババアで」
【公爵家の兵】
一兵卒に至るまで、並の冒険者とは比べものにならない。関門で英雄の通過を拒んだ。ナナの索敵を頼りにしている。
「人身売買の元締め、アロフィス・ソルゾラスだろう?」
【港の女たち/屋台の店主たち】
海鳥の羽や貝を納め、綿や蝋燭を受け取る。場所代を取っていた連中が消え、値札は元に戻った。
「値札、見てくれよ。前のに戻したんだ」
◆メイの遠征隊
【トゥーリ】
蝋燭工房の娘。グレンス商会の蔵に連れてこられ、逃がされた娘のひとり。いまは遠征隊で、料理や洗濯を手伝っている。
「……大丈夫でしょうか? みんなも、テオも。ひどい目にあってるんじゃないかって」
【初老の御者】
メイの馬車を走らせる。何があっても動じない。
「なかなか、いい掘り出し物ですな」
【新兵】
途中の村で加わった、農家の次男三男たち六人。真銀の鎖帷子と剣で、野盗を圧倒した。三男は、兄の仇を討った。
「……兄ちゃんの、仇だ」




