↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/4

アジフライ記念日

【キャラクター紹介その5】

名前: 緑山 桃子  性別: 女

年齢: 23  身長: 155

所属: 株式会社ナルミ 営業課

利き手: 左利き

母親H談『私の前で透くんの話しなくなったの……いつからかしら?』

「いやぁ本当に! 悪かった! ごめん!」

「……ふむ」

 株式会社ナルミの社員が各々午前の業務を終え、昼になるとその大半が行き着く社員食堂『Naru-Me』。その最奥の隅の壁際、2人用のテーブル席。緑山(みどりやま)桃子(ももこ)はオーダー用の呼び出しブザーを片手で弄びながら、膝を組んで青年と向かい合っていた。

「状況はだいたい分かったよ。要するにグラちゃんが私たち営業課に新しい施設の情報を共有し忘れたんでしょ?」

「だぁもう! だからごめんって! さっきから謝ってんじゃん! 俺が連絡を忘れてました! すいません! もうしません! 反省してます!」

 昨晩、桃子は自分の所属する営業課の課長に職務怠慢の濡れ衣を着せられ、先月オープンしたばかりの見ず知らずの施設に見積書の返事を受け取りに行くことになった。その出先、鳴美谷(なるみや)市民交流センターで会った受付の男性の様子から、役所からナルミへ施設オープンの連絡は来ていたのではないかと桃子は推測したのだった。

「まぁ総務課も大変だよね。電話にFAXにメール、ポータルサイト。役所からの情報なんて月に山ほど来るだろうに。それをグラちゃんが振り分けてるんでしょ?」

「そうなんだよぉ! 分かってくれる!? こんなん別に後でいいだろっていうのもあったりしてさ!」

 株式会社ナルミには事務方の統括としてまず事業部があり、その直下に総務課、営業課、経理課が設けられている。このうち総務課は役所からの情報を取り纏める窓口の立場にあり、各課やその他部署へ情報を仕分けして共有する役割を担っている。そして総務課の雑務担当といえば目の前のこの青年、蓮川(はすかわ)透(とおる)である。

「ウチの会社は総務課の他に、営業課に経理課に、技術系の部署もあるからね」

「ホントだよ! 毎月毎月社内走り回ってさ! こっちの身にもなってくれ! 資料は紙媒体が命とか言ってないで全社メール対応にしてくれよ! この時代にありえないって!」

 総務課下っ端の愚痴はヒートアップしていく。明らかに自分に向けられたものでない発言を、桃子は頷きながら無表情で聞き続ける。念のため隅の席を取っておいてよかった。

「おかげで営業に回したのに経理に回してないとか! 経理に回したのに営業に回してないとかもう散々よ!」

「はいはい、いつもご苦労様」

 昨日の桃子の残業理由でもあった取引先からの見積書の返事の回収。

 通常、見積書の作成は経理課が担当しており、今回の件において、桃子の見立てでは見積書は先月の期限内に経理課から提出されていた。つまり、経理課にはそれまでに情報が伝わっていたということだ。にも関わらず、営業課に伝わっていなかったということは、総務課雑務担当には情報は確実に伝わっており、同時に総務課雑務担当の伝達ミスにほかならない。

「いや……ホントにここの総務……訳わかんないんだって……頼むよ……」

「だから総務課も大変だねって言ってるじゃん。営業課もしんどいし分かるよ。こっちも課長がアレだし」

 すっかり魂の抜けた下っ端を横目に、桃子は2人の呼び出しブザーが鳴るのを確認する。一向に向かい側から立ち上がる気配を感じないので、桃子は2往復する覚悟で受取カウンターに向かった。


 Naru-Meの調理担当の腕はなかなかのものだと桃子は思う。『食わざる者働くべからず』を理念の一つする社長の存在もあり、ナルミの人事は社員食堂においても経験者採用を積極的に行っているようだ。

 このアジフライ定食一つとってもそうである。しっかり下処理をされた骨、白身魚の淡白な味に干渉しすぎないオリジナルソース、バランスの良い付け合わせの野菜、しかもアジフライ2枚のボリューム感。

「3食これでいい……」

「……お前、よく他人(ひと)の奢りでそこまで浸れるな……もう今日で何枚目だよ」

 透は自分の左手側、フロアの角の壁にもたれかかり、アジフライに夢中な桃子に毒づく。

 透は右利き、桃子は左利きのため、この二人が壁側席に座るときには自然と座る位置が固定される。合理的配慮の範囲で済むため、席の譲り合いなど余計な気遣いを嫌う桃子からすると非常にありがたい。

「いや、でも最初はグラちゃんから言ってきたんだよ? 7回か、8回前? 初めはいきなりそっちから謝ってきて、そのときは昼だったら都合いいかなって返事したけど」

 桃子はアジフライの尻尾を咥えながら返答する。

 去年、新卒で入社してから今まで、透は結構な数やらかしている。最初は桃子も、幼馴染の誼(よしみ)もあり久々に顔を見たいという理由で昼食を供にしたのだが。

「当時はこんなに迷惑かけるなんて思ってなかったんだよ!!!」

 どうやら自身の予想以上に仕事でミスが嵩み、最初に昼食を桃子に奢った手前、後に引けなくなったらしい。3回目までは透から連絡していたが、ここ最近は透のほうから言いだしづらくなってしまい、桃子から切り出している始末だ。

「というか、なんでお前そんなに鋭いの? 普通そんなに気づかなくない? 部署が違う人間のミスとか」

「そんなことないよ。考えれば分かるじゃん」

 桃子の洞察力と推察力に、透は会うたび舌を巻いている。箸を動かしつつ桃子は反射的に返事をしたが、今度は箸を咥えたままで少し考える。

「5年も人様相手に営業してるとね、目も肥えるし頭も冴えるのよ。最近は逆に引っかかることが多くて、たまにしんどくなったりもするけど」

「…………」

「グラちゃんは社会に慣れてきたら、趣味でもなんでも自分のやりたいこと優先してやったほうがいいよ。仕事なんてほどほどにしてさ」

 思考に囚われると口数が多くなるのは母方の遺伝だろうか。桃子は透に目も合わせず、どこか虚空を見つめながら呟き続ける。

「グラちゃんはあれからテニスだって続けてたでしょ? 経験は財産なんだから、続けないともったいないよ。じゃなきゃ私みたいにーーー」

「桃子っ!!!」

 勢いよくテーブルに手をついて立った透に、桃子は跳ねるように驚いてようやく透の顔に焦点を合わせる。角の席といえど、さすがに音が響いたのか周りの社員数名の視線が二人に集まる。

「な、何……?」

「あ……いや、その、なんでもないんだ、ははっ」

 透は居心地悪そうに、座席に座り直す。

「なぁ桃子。そういえば俺、例の新しい施設に用事があってさ。今日ちょっと一緒に来てくれないか?」

「え、なんで? 一人で行けば?」

 急な誘いに、桃子は至極まともな疑問で返した。

「ん、まぁなんだ、仕事の関係でな。桃子は一回行ってるんだろ? 顔が通ってる人間がいた方が何かとやりやすいじゃん」

 営業歴が長い桃子からすると1回目も2回目も変わらないのだが、この感覚の違いは互いの経験値による誤差かもしれないとも思う。

 桃子は腕時計を一瞬だけ見やる。

「別にいいけど、私今日は内勤だし、会社から出るならもう戻って来たくないから退勤後になるよ。それでもいい?」

「あぁ、そのほうがい……それで頼むわ。退勤後に悪いな。現地の駐車場で集合しよう」

「??? わかった」

 節々で歯切れの悪い透に違和感を覚えつつ承諾する桃子。そもそも総務課が新規の施設に行くことなどあるのだろうか。桃子もそこまでは分からず、思考を放棄し、食後のコーヒーを買うため自動販売機を求めて辺りを見回す。

「おっと、もうこんな時間か。俺も早く食わねぇと」

 味噌汁に軽く口をつけて以来、すっかり話に入り込んでいた透は定食のアジフライに箸を向け、止まった。

「俺のアジフライが……無い」

 桃子は知らない顔で自動販売機へ向かおうとさっさと席を立つ。

「お前……マジで今日で何枚目だぁあああ!!!」

 今日この日、桃子のアジフライ強奪記録は10枚を突破し、めでたい二人のアジフライ記念日となった。

【キャラクター紹介その6】

名前: 蓮川 透  性別: 男

年齢: 24  身長: 178

所属: 株式会社ナルミ 総務課

利き手: 右利き

他部署課長K談『いつもお父様にはお世話になってます……へへへ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。