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…………何?

【キャラクター紹介その7 〜過去編〜】

名前: 緑山 桃子 性別: 女

年齢: 11 身長: 152

学年: 小学生5年生

性格: 天真爛漫、人懐っこい

本人談『背が…………伸びてない』

「お先に失礼します」

 この日、営業職5年目の緑山(みどりやま)桃子(ももこ)は課長の目を掻い潜り、卒なく定時退社を果たした。

 いくら無駄に愛想を持ち合わせていない桃子といえども、入社して間もないうちは定時であがれない社員たちにもう少し気を遣って退社していたように思うが、どうにも歴が長くなると定時退社するときに気配を消すスキルが身についてしまう。

「…………早くて19時到着」

 桃子は腕時計で時刻を素早く確認し、オフィスを出て足早に会社のエントランスへ向かう。

 入社5年目にもなって今さら周りの残業組に対する罪悪感など微塵もないが、今から向かう先で残業中の同僚が待っているかもしれないと思うと、桃子の気持ちも多少は(はや)る。

 今日の昼休憩に、桃子は同僚兼幼馴染の蓮川(はすかわ)(とおる)と待ち合わせの約束をした。新しくできた施設、鳴美谷(なるみや)市民センター視察の付き添いを頼まれた訳だが、桃子は一日に二度も会社に踏み入りたくなかったので退勤してから向かうことにしたのだった。

 桃子は自分の車に乗り込み、先日も設定した目的地周辺のスーパーマーケットをナビに打ち込みエンジンを掛ける。

「まったく……謝るために呼び出して、謝ってすぐにその場で頼み事なんて」

 これまで桃子の中から透への貸しが無くなった(ためし)がない。桃子がそう感じているくらいだから、借入側の透はそれ以上に負い目を感じるはずだが、それを過剰に気にしないあたりが透の長所なのだろう。

 一方、桃子は桃子で貸しがある相手に返済を求めないし、借りも作らない。こちらは寛容であるというよりは虚栄心を拗らせているに過ぎない。それはそれで(たち)が悪い。

「グラちゃんより早く着いたら寝てようかな」

 今朝、早くに夢から呼び起こされ充分に寝れていなかったことを桃子は思い出す。寝不足を意識すると途端に背後に睡魔が忍び寄ってくる。そのまま睡魔に襲われないうちに、桃子はアクセルを踏んで目的地へと向かったのだった。


「グラちゃんは……やっぱりまだ来てないか」

 桃子は待ち合わせの約束をした鳴美谷市民交流センターに到着した。ウィンドウ越しに駐車場内を確認するも、透の所有車は見当たらない。桃子はそのまま交流センター入口に一番近い駐車スペースに車を停め、エンジンを切る。

 透は新卒2年目という経歴にしては、かなりいい車を所有している。真っ赤な塗装の6人乗り、いわばファミリーカーに乗っているので、車が停まっているとすぐ分かる。透の趣味なのだろうが、育った環境の差もあり経済的劣等感を抱きがちな桃子からすると悪趣味に見えて仕方がない。透は、自分が()()蓮川家の長男だからできることだと自覚しているのだろうか。

「よっこらしょっ、と」

 予定通り睡眠を図ろうと、桃子はリクライニングレバーを引き、運転席のシートを倒した。ガタガタと安っぽい音を立ててシートが水平になる。そのまま桃子は両手を頭の後ろで組み、ルーフライニングの一点を見つめる。

「…………ぁ」

 視界の端、フロントガラスの向こうからは、一本桜が顔を覗かせていた。昨日に比べて緑が目立っており、より葉桜に近づいていた。

「春ももう終わりか…………」

 微睡(まどろ)みの中で呟くうちに、桃子の意識は睡魔に急激に支配されていった。


※※※


「みっくす…………ってなぁに? ソフトクリーム?」

 季節は夏。桃子が小学生の頃に通っていたテニススクール。テニスコート外のベンチで休憩しながら桃子は一枚のチラシを睨みつけていた。周りを見ると、コーチ陣が順々に休憩中の生徒にチラシを配っているようだ。

「違うわよぉ。ミックスっていうのはね、男の子と女の子でペアになって、ダブルスで試合するのよ。再来月に大会があるらしいわね」

 すぐ横で、他所(よそ)の父兄と談笑していた桃子の母は、娘の質問に笑顔で応じる。どうやら父兄側は事前に知らされていたらしい。

「へ〜、男の子と……」

 母から返答を受けた桃子はほんの数秒、何かを考えるようにチラシを片手に口に指を当てる。

「お母さん、あたし決めた! 透とこれに出る!」

「えっ、透くんと?」

「ねぇー! 透とおるとおるとおるー!」

 思い立った桃子は母の返答も待たず、テニスコートを挟んだ反対側でひとり休憩を取っていた透の元に駆けて行ってしまう。

「ぶあっ! 急になんだよお前!」

 チラシを突きつけられながら桃子に迫られ、思わず透は飲んでいたスポーツドリンクを吹き出しそうになる。

「これ! あたしとみっくす出よう!」

「あぁさっきコーチからもらったやつか……みっくすってなに?」

 桃子は母から受けた説明を、そっくりそのままオーバーアクションで透に伝える。その様子を、母は離れた位置から呆れたような笑顔で眺めていた。

「桃子ったら仕方ないわねぇ……。あのやんちゃぶりだもの。きっと女の子相手じゃ物足りないのね。ねぇパパ、どう思う?」

 母は困ったふりをしながら、父兄一同から一歩引いた位置に立つ旦那の顔色を窺う。その間も、桃子は遠くから見ても分かるくらい、透に積極的にアプローチを続けていた。

「……好きにさせたらいいじゃないか……蓮川さんには挨拶しておかないとな」

 父は夏の暑さに茹だるように返事をする。父は日差しが苦手なためか日陰から出てこようとしない。

「またそんな他人事みたいに……」

 そのまま、夫婦で一人娘について今後の進学やら何やら談義を交わしていると、透と話がついたのかテニスコートの向こう側から桃子が戻ってくるのが見えた。桃子はしてやったりの笑顔で父母の前まで駆け寄ってくる。

「お母さん! 透、出てもいいって! にひひ」

「あら、よかったわね!」

 母は娘に同調するように喜んだ。しかし、何せこのお転婆娘のことである。母は笑顔の裏に微かな不安を隠しきれない。

「でもいくら桃子が上手でも、男の子のテニスは違うんだからね? 気をつけてやらないとダメよ?」

「わかってるって、へーきへーき! 練習だっていつも同じコートでやってるじゃん!」

 母の心配を他所(よそ)に、桃子は白い歯を見せて得意気に答える。父はもう慣れているのか、少し離れた日陰から眺めているだけだった。

「よし! 大会に向けてトックンしないとだ! いつなら透と一緒に打てるかな? ちょっと聞いてくる!」

「あっ、ちょっと、桃子待ちなさ……」

 母が言葉を選んでる間に、桃子は透の元に向かって走って行ってしまった。もう第1コーナーに差し掛かっている。一度襲来があってまだ意識をしていたのか、近づいてくる桃子に対し、透が心許なさげに警戒して変な格好をしていた。

「……仲が良くて何よりだな」

 父は鼓膜が取り零しそうなほど低い声で呟いた。近くでセミの一匹でも鳴いていれば誰の耳にも届いていなかったことだろう。

「それはいいけど、小学生だからできることよ? 男女の差なんて、これからどんどん……」

「……今が楽しいならそれでいいじゃないか」

 母の不安に、旦那はいつもの調子で返す。

 事実、テニスに打ち込む桃子は毎日楽しそうだ。透を始めとする友達もでき、テニスに運動以上のやり甲斐を感じているように母は思う。

「きっと一人娘が心配なだけね、私は」

 母親はテニスコートのフェンス越し、広大に広がる空を見上げる。そこには大きな雲が目立ち、吹き抜ける風には仄かな湿気が混じっていた。

「もうすぐ梅雨(つゆ)ね……」

 母親の消え入りそうな呟きに父親はまた何か返したようだったが、今度こそ彼の声は誰の耳に届くこともなかった。


※※※


ーーーカンッ、カンカンッ

「…………ぅぅ」

 金属板を何回か軽く突くような音に、桃子は目を覚ました。仮眠後の独特の時間感覚に襲われながらも、桃子の脳は現実に適応しようと覚醒を続ける。

「そうだ、グラちゃん……」

 桃子は飛び跳ねるように上体を起こす。その矢先、運転席側のウィンドウから透がノックをしながらこちらを覗いているのに気付き、桃子はまた一つ驚いて飛び跳ねた。


「……私どれくらい寝てた?」

 透と二人、交流センター入口に向かう途中、桃子はやや申し訳なさそうに透に尋ねる。透は仕事用の鞄を肩に担ぎながら桃子に視線を送る。

「いや、俺も今来たとこ。だからお前が何時にここに着いたかによるな」

 透の返答を聞いて桃子は内心で胸を撫で下ろす。具体的な睡眠時間を知りたいというよりは透の待ち時間に対しての後ろめたさから出た質問ではあったが、念のため桃子は腕時計を確認する。2本の針はそれぞれ19時30分の位置を指し示していた。

「30分も寝てたんだ、私」

「内勤詰めで疲れてんだろ。付き合ってもらってる上に起こして悪かったな」

「いやいや、グラちゃんまだ仕事中でしょ? 大変だね。昼に謝ってた件はもう落ち着いたの?」

「え? あぁ、まぁ、そうだな。俺のほうは……別に……大したアレじゃないよ」

「???」

 昼間と同じく、また透の発言が渋滞する。確かに社内で回収できる程度のミスだし、大した問題でなかったのは桃子も同感である。

「それじゃ、さっさと終わらせて帰ろっか」

 言いながら、桃子は並行して歩いている透を追い越してゆく。仮眠を挟みながらも、仕事モードの抜けない桃子の足取りは早かった。


 交流センターの玄関に入る二人。靴を脱ぎ受付を見るとこの前と同じ男性が座っていた。

「お世話になっております。ナルミの緑や……」

「違う、桃子こっちだこっち。こんばんはー、おじさん」

「えっ、ちょっ」

 桃子が律儀に挨拶をしようと受付に向かい合う寸前、透が桃子の腕を引っ張って見当違いの方向へ連れていく。透からフランクな挨拶を受けた受付の男性は、笑顔で軽い会釈を送ってくる。

「グラちゃんダメでしょ! 取引先では礼儀正しくって先輩から言われなかった!?」

 桃子は引きずられ混乱しながらも、なんとか先輩面を取り繕う。なんとか抵抗するも体格差がそれを許さない。

「いーんだよ、今回は利用者側なんだから。最低限でいーだろ」

「利用者側って……あんた仕事中じゃ……」

 桃子は引きずられながら、その連行されている先を見やる。向かっている先は多目的ホールだった。

「おーい雨里(あめり)。連れてきたぞ。これでいいのか?」

 透は多目的ホールに入るや否や、そこにいた運動着姿の人物に桃子を突きつけたのだった。

「お、トオルー! 遅かったじゃん! なになに道に迷った? 相変わらずおっちょこちょいなの?」

 桃子は事情も知らず連れて来られた挙句、まったく面識のない女性を目の前にして、もはや抵抗することも忘れてしまった。点になった目で透と女性を交互に見つめる。

「…………何? …………誰?」

 錯乱中の桃子にも分かることといえば、目の前の女性がテニスラケットのようなものを手で弄んでいるということだけだった。

【キャラクター紹介その8 〜過去編〜】

名前: 蓮川 透 性別: 男

年齢: 12 身長: 155

学年: 小学生6年生

性格: ドジ、情熱的

友人M談『中身はそのまま。背だけ伸びた感じよね。嘆かわしい。(爪を噛む音)』

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