第47話:波音の鎮魂歌(レクイエム)――愛する人への告白
瀬戸内の騒乱が嘘のように静まり返り、穏やかな日常が戻ってきました。戦士としての重責を一時脇に置き、レオンは一人の息子として、深い悲しみに沈む母と向き合います。語られなかった父の最期の言葉、そして隠し続けてきた自らの運命。夕暮れに染まるしまなみ海道の傍らで、家族の絆が再び結び直されていきます。
瀬戸内海を黄金色に染める夕日が、穏やかなさざ波を照らしている。
因島の高台にある展望台からは、点在する島々と、それらを繋ぐ巨大な橋が一望できた。レオンは、少し歩き疲れた様子の母の腕をそっと支えながら、ゆっくりと石段を下りていく。
「……ごめんね、母さん。せっかくの旅行なのに、急に連絡が取れなくなったりして」
レオンの声は、潮風に混じって小さく震えていた。母は優しく微笑み、息子の手を握り返した。
「いいのよ、レオン。あなたは日本での仕事が忙しいんでしょう? こうして一緒に綺麗な海を見られるだけで、お父さんも喜んでいるわ」
レオンの胸が締め付けられる。母は、息子が「天上の聖剣」を振るい、神々と死闘を繰り広げていたことなど露ほども知らない。ただの会社員として、異国の地で必死に働いていると信じているのだ。
「……母さん、謝りたかったんだ。父さんの最期に、間に合わなくて。ずっとそばにいてあげられなくて、ごめん。仕事だって言い訳して、大事な時にいなかった不甲斐ない息子で……」
レオンがうつむくと、母は立ち止まり、息子の顔をじっと見つめた。その瞳には、恨み言など一切なかった。
「レオン、そんな風に思わないで。お父さんはね、亡くなる直前まであなたのことばかり話していたわ。『あいつは俺たちの誇りだ』って。そしてね、意識が遠のく間際に、不思議なことを言ったの」
「……父さんが?」
「ええ。『イエスが彼を選んだ。だから、これからはあの子を自由にしてやりなさい。不在なのは、あの子が多くの人を守っている証拠なのだから』って。私には何のことかさっぱり分からなかったけれど……。でもね、今のあなたの顔を見て、少しだけ分かった気がするわ」
母はレオンの頬を撫でた。
「あなたは、お父さんの誇りである以上に、もっと大きな何かのために戦っているのね。私には、それを黙って見守ることしかできないけれど……怪我だけはしないでちょうだい」
レオンの瞳から、堪えていた涙が溢れ出した。父はすべてを知っていたのだ。自らの不在を責めるどころか、その孤独な戦いを祝福してくれていた。傍らで見守っていたララも、二人の姿に涙を流し、そっとレオンの背中に手を添えた。
その頃、瀬戸内の各地でも、仲間たちがそれぞれの時間を過ごしていた。
尾道の商店街では、リュウとジュンが並んで歩いていた。
「……今回の戦いで分かったよ。俺の『鎖』は、守るためにあるんだな」
リュウが真剣な表情で言うと、ジュンがいたずらっぽく笑いながら、彼の腕に抱きついた。
「そうだよ。だからこれからも、私を一番に守ってよね!」
最強の身体能力を持つ彼女も、今はただの恋する乙女として、夕暮れの街に溶け込んでいた。
生口島の白い砂浜では、レニがケルと幼い娘のヴィニを連れて、穏やかな波打ち際を散歩していた。
「パパ、見て! 綺麗な貝殻!」
ヴィニが駆け寄り、レニに小さな貝を差し出す。レニはそれを愛おしそうに受け取り、ケルの肩を抱き寄せた。
「……もう二度と、この幸せを離さない。神の力なんていらない。僕には、君たちがすべてだ」
ケルは黙って微笑み、レニの胸に顔を埋めた。
そして、多々羅大橋を望む公園のベンチでは、ナンドとジラが座っていた。
「なあ、ジラ。これからどうするんだよ。聖霊が宿ったとか、レベルが上がったとか言われてもよ」
ナンドがぶっきらぼうに尋ねると、ジラは遠くの島影を見つめながら、穏やかな表情で答えた。
「……分からない。でも、ラガールの意志は私の中にある。ナンド、あんたのそのバカげたスピード、これからも私を助けるために使いなさいよね」
「ケッ、調子いい女だな。まあ、付き合ってやるよ」
二人は恋人ではないが、死線を越えた戦友としての、言葉にできない絆で結ばれていた。
瀬戸内の夜がゆっくりと降りてくる。
人々は日常を謳歌し、英雄たちは傷を癒やし、再び訪れるであろう闇に備える。
レオンは母とララと共に、夜の海を見つめていた。父の愛を知った今、彼の心には、かつてないほど強く、迷いのない「光」が宿っていた。
第47話をお読みいただき、ありがとうございます!
戦いの後の休息、そして家族の愛。レオンの父が遺した「イエスが彼を選んだ」という言葉が、物語に深い意味を与えました。レオンはもう、孤独ではありません。母の理解、父の誇り、そして同じ志を持つ仲間たち。
それぞれの場所で愛を確かめ合うメンバーたちですが、ジラが視た「重い計画」の影は、刻一刻と近づいています。次章からは、舞台を再び世界へと広げ、さらなる強敵との戦いが始まります。
この感動の家族愛と、各カップルの日常に共感していただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】の評価やブックマークをお願いします!励みになります。
次回、第48話「次なる聖地――暗雲の予兆」。
物語は新たな局面へ!お楽しみに!




