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セトウチに灯る光  作者: Leon Black Angel


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第46話:聖者の約束――静寂なる新世界


神々の狂乱、深淵の獣、そして救世主の降臨。瀬戸内の地を襲った未曾有の危機は、一筋の光によって幕を閉じました。レニとジラ、そして仲間たちが手にしたのは、勝利ではなく「真理」への目覚めでした。イエスが見守る中、傷ついた魂たちが立ち上がり、新たな誓いを立てます。そして、止まっていた世界の歯車が再び動き出す時、奇跡の光景が瀬戸内の島々に広がります。

白銀の光が収束し、瀬戸内の空には穏やかな静寂が戻っていた。

呪縛から解き放たれ、自身の足で立ち上がったレニは、震える膝をつき、目の前に立つ主の前に深く跪いた。その瞳には、かつての憎悪や絶望の欠片もなく、ただ純粋な感謝と敬畏だけが宿っていた。

「……私の王よ。私は、命の本当の価値を何も分かっていませんでした。今日、ようやく理解しました。あなたなしでは、この世界に真実の生は存在しないということを」

レニの声は、波の音のように静かに、しかし力強く響く。

「神々に憑りつかれていた間、私は見てしまいました。あいつらが数世紀にわたって撒き散らしてきた苦しみと、それに対抗し、私たちを導こうとしてきたあなたの計り知れない努力を……。私たちは、何が本当の正義なのか、ずっと盲目だったのです。道のりは遠く、果てしない仕事が待っているでしょう。ですが、今の私には迷いはありません。主よ、私をここにお遣わしください。準備はできています」

その誓いを聞き、イエスは慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。

隣では、ジラもまた涙を流しながら、主の足元に跪いていた。

「……主よ、あいつらが私を器に選んだのは、彼らにとって最大の誤算でした。あいつらの意識と繋がっていたおかげで、彼らの醜い計画のすべてが視えました。これからさらに過酷な戦いが来るでしょう。でも、あなたと共に歩めるのなら、どんな闇も私たちを止めることはできません」

ジラの言葉に、イエスは優しく手を伸ばし、彼女の頭にそっと触れた。

「ジラ、安心しなさい。ラガールは今、私の元にいます。彼は自らの役割を全うし、気高くその生を終えました。今のあなたは、霊的な次元において以前とは比べものにならないほど高い場所へと至っています。多くの迷える魂が、あなたの光を必要としているのです。行きなさい、平和と共に」

ジラは堪えきれずに嗚咽した。悲しみではなく、魂の奥底から救われた安堵の涙だった。次にイエスはレニへと視線を向けた。

「レニ、あなたは特別な存在です。これからも最善を尽くしなさい。私があなたを選んだのは、決して偶然ではありません。ここに集まった皆には、私が数世紀にわたって探し求めてきた、ある共通の『宝』があります。……それは、あなたたちが『愛する』ということを知っているからです」

仲間たちは互いに顔を見合わせた。レオン、ララ、ナンド、リュウ、ジュン。彼らがこれまで何度も命を懸けて繋いできた絆こそが、神の求めていた唯一の力だったのだ。

「あとのことは、あなたたちに託します。ですが、忘れないでください。常に私を求めなさい。そうすれば、私は想像もつかないほどの恵みを、あなたたちに与え続けるでしょう……」

その言葉を最後に、イエスの姿は光の粒子となって空へと溶けていった。

同時に、世界を覆っていた「静止した時間」の封印が解かれる。

カチッ。

時計の針が動き出すような音が、瀬戸内全域に響き渡った。

次の瞬間、驚くべき光景が広がった。

数分前まで濁流に飲み込まれ、建物が崩壊し、壊滅状態だったはずの瀬戸内の街が、何事もなかったかのように「元の姿」へと復元されていたのだ。主が時間を止めていたため、物理的な破壊さえもが因果を遡って修正されたのである。

しまなみ海道の巨大な吊り橋。そこを走る車や自転車に乗る人々は、一瞬の眩しさに目を細めただけで、自分たちが世界の終焉の瀬戸際にいたことなど露ほども知らない。

向島、因島、生口島……連なる島々の人々は、穏やかな潮風を感じながら、再び日常の歩みを始めた。

坂の街、尾道。

古き良き石段の上では、観光客たちが立ち止まり、寺院の静寂を楽しんでいる。

先ほどまでレオンとクラトスが激突していたはずの千光寺の境内も、一点の傷もなく、美しい木造建築が夕日に照らされていた。道ゆく人々は、足元を流れる水など一度も見たことがないかのように、笑顔で会話を交わしている。

「……嘘みたいだ。全部、元通りになってる」

ナンドが空を見上げて呟いた。海は鏡のように静まり返り、黄金の光が水面に反射している。

橋を渡る列車の音、路地裏から聞こえる猫の鳴き声、商店街の喧騒。

それらすべてが、当たり前のようでいて、これ以上ない奇跡のように感じられた。

レオンはララの手を強く握り、静かに息を吐いた。

「……終わったんだね。いや、ここから始まるんだ」

誰一人として気づかない、瀬戸内の静かな夜明け。

しかし、選ばれた若者たちの胸には、主との約束と、新しい時代への覚悟が刻まれていた。

第46話をお読みいただき、ありがとうございます!

イエスの慈愛によって、瀬戸内の地は物理的な傷跡一つ残さず修復されました。人々は何が起きたかを知らずに日常を再開しましたが、レオンたちの魂は以前とは決定的に異なっています。

レニとジラの覚醒、そして「愛」という鍵を手にした仲間たち。

しかし、ジラが予見した「重い計画」とは一体何なのか。

神々の支配は終わったわけではなく、より狡猾な手段で世界を狙っています。

次回、新章突入。

「見えざる敵の胎動」。

彼らの次なる戦いの場は――。

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