第十八話『海が語る声』
嵐は、常に音を立てて訪れるわけではない。
本当に恐ろしいものは、
静けさの中で、すでに始まっている。
朝の光が、海を優しく照らしていた。
島と島を繋ぐ橋。
穏やかな風。
静かな波。
レオンたちは、しまなみ海道を歩いていた。
ナンドが伸びをする。
「……昨日が嘘みたいだな」
ララが小さく笑う。
「うん……少し落ち着くね」
レニは腕を組んだまま。
「嵐の前ってやつだろ」
ジラは何も言わない。
ただ、海を見ている。
レオンも同じだった。
「……まだ終わってない」
その時。
一人の男が、橋の上に立っていた。
普通の人間。
観光客のような服装。
だが――
どこか違う。
男がゆっくりと振り向く。
目が合う。
その瞬間。
空気が変わる。
風が止まる。
音が消える。
男が口を開く。
「……やっと会えたな」
声が重い。
人間のものではない。
ナンドが構える。
「誰だ、お前」
男は笑う。
だが、その笑いは冷たい。
「この体は借りているだけだ」
レニの炎が揺れる。
「……てめぇか」
男の目が深くなる。
「海の底にいる者」
静かに言う。
「ポセイドン」
沈黙。
ララが一歩下がる。
ジラの目が鋭くなる。
「……直接来た」
ポセイドンはレオンを見つめる。
「選ばれし者」
その声は低い。
「お前は邪魔だ」
レオンは動かない。
ただ、見返す。
「何が目的だ」
ポセイドンは少しだけ笑う。
「統一だ」
風が微かに揺れる。
「争いを終わらせる」
ナンドが吐き捨てる。
「そのために支配すんのかよ」
ポセイドンは首を傾ける。
「違う」
その目が光る。
「すべてを一つにする」
沈黙。
レニが低く言う。
「それを……支配って言うんだよ」
ポセイドンは無視する。
視線はレオンだけに向いている。
「お前は異物だ」
空気が重くなる。
「神の意思を持ちながら、反逆の力を宿す存在」
レオンの目が揺れる。
ほんの一瞬だけ。
「……だから何だ」
ポセイドンは一歩近づく。
「お前がいる限り、この世界は一つにならない」
その声は静かだった。
だが――圧倒的だった。
「だから消す」
空間が震える。
だが。
次の瞬間。
すべてが止まる。
ポセイドンはふっと笑う。
「まだだ」
その体が崩れ始める。
「今は、挨拶だ」
最後に。
レオンの目を見て言う。
「次は……本体で会おう」
男の体が崩れ落ちる。
意識を失う。
風が戻る。
音が戻る。
世界が動き出す。
ナンドが舌打ちする。
「……クソ野郎が」
ララが不安そうに言う。
「本体って……」
ジラは静かに答える。
「海の底」
沈黙。
レオンは海を見る。
その目は、すでに決まっていた。
「……行くしかないな」
波が揺れる。
静かな海。
だがその奥には――
確実に“神”がいる。
第十八話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は戦闘を抑え、「対話」と「存在の提示」をテーマにしました。
ポセイドンという存在が初めて明確に登場し、
物語のスケールがさらに広がります。
静かな景色と、重い対話の対比を意識しています。
次回はいよいよ――
海の奥へと向かう展開へと進んでいきます。




