第十七話『裂かれたヴェール』
夜は、ただの休息の時間ではない。
心が静まるその時、
見えないものが語りかけてくる。
それが夢なのか、
それとも――警告なのか。
石段を上った先にある寺は、静寂に包まれていた。
尾道の丘に佇むその場所は、どこか現実から切り離されたような空気を持っている。
レオンたちはゆっくりと中へ入った。
木の床が軋む音だけが響く。
奥から、一人の僧が現れる。
年老いたその姿は穏やかだったが、その目には深い疲れがあった。
僧は静かに頭を下げる。
「……待っておりました」
ララが少し驚く。
「私たちを……知っているんですか?」
僧はゆっくり頷いた。
「最近、この地は乱れております。あなた方のような方が来るのではないかと……感じておりました」
沈黙。
レオンが前に出る。
「この場所で、何が起きている?」
僧の表情が曇る。
しばらくの沈黙の後、彼は口を開いた。
「夜になると……来るのです」
空気が少し冷たくなる。
「影が」
ナンドが眉をひそめる。
「やっぱりか……」
僧は続ける。
「最初は一人、二人でした。ですが今は、ほとんどの者が見ています」
その声は震えていた。
「彼らは語ります」
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「“ヴェールは裂かれた”と」
全員が息を呑む。
「“もはや救いは存在しない”と」
レニの拳が強く握られる。
「ふざけたこと言いやがって……」
僧は首を横に振る。
「それだけではありません」
その目が、恐怖に染まる。
「争っていた者たちが……手を取り始めています」
沈黙。
ジラの目が鋭くなる。
「……統合されてる」
僧は頷く。
「まるで、何か一つの意思に従うように」
そして、静かに告げる。
「やがて……すべては闇に沈むと」
風が吹き抜ける。
誰も言葉を発せなかった。
ララが一歩前に出る。
「……大丈夫です」
その声は優しかった。
「私たちは、そのために来ました」
僧は静かに目を閉じる。
「どうか……この地をお救いください」
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「今夜は……ここにお泊まりください」
ナンドが周囲を見回す。
「……ちょうどいい。外も危なそうだしな」
レオンは頷いた。
「世話になります」
――夜。
寺は完全な静寂に包まれていた。
風の音すらない。
全員がそれぞれ横になっている。
だが――
誰一人、深く眠れていなかった。
やがて。
夢が始まる。
――海。
荒れ狂う水。
巨大な影が浮かび上がる。
島々が飲み込まれていく。
橋が崩れ、街が沈む。
尾道の坂道が割れ、寺が崩壊する。
人々の声。
叫び。
絶望。
そして――
深海から、目が開く。
巨大な存在。
すべてを見下ろすように。
声が響く。
『すべては沈む』
『すべては一つになる』
『救いなど――存在しない』
闇が広がる。
光が消える。
――その瞬間。
全員が同時に目を覚ます。
「――っ!!」
荒い呼吸。
汗が流れる。
ナンドが起き上がる。
「今の……見たか?」
レニが舌打ちする。
「同じだ……全部」
ララの手が震えている。
「島が……全部……」
ジラは何も言わない。
ただ、確信していた。
「……これは夢じゃない」
レオンが静かに言う。
「警告だ」
外を見る。
夜はまだ終わっていない。
だが――
確実に、何かが近づいている。
第十七話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は戦闘を抑え、「恐怖」と「予兆」に焦点を当てました。
影の言葉、僧の証言、そして夢によるビジョン。
すべてが一つの方向を示しています。
物語は今、地域の異変から“世界規模の危機”へと変わり始めました。
次回は、この予兆が現実へと変わる瞬間が描かれます。




