24-4 二人の妹④
夕方、アルサンシェ家では千満とシャノンが仲良くキッチンに立っていた。
「でも驚きです。公爵夫人自ら料理をなさるのですね」
「私にとってはこれが娯楽だから。シャノンこそ無理して付き合ってるんじゃない?」
「いえ、私も素直に楽しんでいますよ。お城を出てからというものの、好奇心が溢れて仕方がないんです」
そしてシャノンは自分が担当している鍋を覗いた。中にはロールキャベツがぎっしり。
「ロールキャベツは好物でしたけど、作り方は今回初めて知りました」
「手が込んでそうで案外簡単だったでしょう? 自分でも作れるんじゃない?」
「神太郎さんの家に移ったら試してみます。お義姉さまは今何を作られてるんですか?」
一方、千満はボウルの中のブロッコリーを和えていた。
「ブロッコリーのごまマヨ和えよ」
「マヨネーズ! あれ、私好きです。ここに来て初めて口にしました。凄い美味しいですよね」
「でしょう? こっちの世界には無いらしいから私が自分で作ってるんだけど、結構良い感じに仕上がっているわ。引っ越す時、分けてあげるね」
「是非」
和気藹々《わきあいあい》の料理教室。とても間に入れる空気ではなかったが、彼女は意を決してキッチンに入った。
「ただ今戻りました」
気に掛けていないとばかりの笑顔で帰宅してきたクレハ。千満もシャノンも「おかえりなさい」と笑顔を返す。
「丁度良い時に戻ってきたわね。もうすぐ夕飯だから」
和えながら言う千満。するとクレハは持っていたものを見せる。土産である。
「あの……帰り道、お花屋を見掛けたんです。それで、これを……」
それは花の植木鉢。白いハイビスカスである。清純さを表すかのような白い花びらと突起した花柱が見る者を魅了させる洗練された花だ。千満もシャノンも手を止めてそれに見入ってしまった。
「珍しいー。白いハイビスカスね。いいものを見つけたじゃない」
「南方の花だそうで、最近運良く仕入れられたそうです」
千満の褒め言葉に、クレハも満悦。
そして、クレハはその満悦を彼女へと渡す。
「これをシャノンに」
「え? 私にですか!?」
思い掛けないサプライズにシャノンの目は丸くなる。
「昼間、お義姉さまと花の話をしていたのを耳にしたので、新居に持っていって下さい」
「い、いいのですか? 珍しい花なのでしょう?」
「貴女のために買ったんです。白いハイビスカスの花言葉は優美、清純だそうです。シャノンに相応しいでしょう?」
「そんな……」
シャノン、照れ臭そうに笑う。それでもその花に魅了されてしまったからか、それ以上遠慮することはなかった。
「私がこの国で初めて手にした花……。大切にしますね」
「ええ」
神太郎の言葉通り純真な笑顔を見せるシャノン。クレハもまた素直な気持ちでその感謝を受け取ることが出来たのであった。
その後、クレハは千満に「ちょっと」と声を掛けられ、廊下に出た。
二人っきりになると義姉は改めて感謝する。
「ありがとう、気を遣ってくれて」
「お義姉さま」
「元は貴女の家なのにあの子を受け入れるのを認めてくれて。本当、感謝しているわ」
やはり、千満がシャノンに親身だったのは気遣いもあった。それを知ると、クレハの内側からダムが決壊したかのように憂心が溢れ出してくる。
「……お義姉さま」
「うん?」
「私も……私も、お義姉さまの妹ですよね?」
「っ!」
気遣いの出来る千満も、今になってクレハの脆くなっていた心情に気づいた。それは母親が産まれたばかりの二人目に構ってばかりで、一人目の子供が寂しがっている様に似ている。芯のある子だと思っていた分、余計落ち度を感じてしまった。
弱った子犬のように俯くクレハ。
千満はそれを優しくしっかりと抱き締める。
こう慰めながら。
「当たり前じゃない。貴女は掛け替えのない大切な義妹よ」
「お義姉さま……」
千満の腕の中で消えていく嫉妬、憂い、わだかまり……。
この安堵感。これこそが彼女が求めていたものだ。
これまで経験したことのない心地良い抱擁の中、クレハはやっと大好きな義姉と絆を結べたと思えたのであった。
その頃、神太郎も北門に帰っていた。
すっかり夕方である。閉門時間が迫り同僚たちが忙しなく働いている傍ら、彼は見つからないように詰所の裏に回っていく。
「やれやれ、俺がいなかったせいで皆大忙しだ。これも、俺を拉致したクレハのせいだな」
全く悪気がなさそうなのはハーレム男故の器のデカさのためか。
「あれ? そういえば俺らが食べていたシシャモってカラフトシシャモっていう別の魚だったかも……。それならこっちにもいるかな?」
そして、どうでも良いことを考えながら詰所の扉を開けた。……ら、そこにいたのは上司ルメシア。しかも憤怒の形相だ。
「神太郎……」
「ひっ!」
流石のハーレム男も自分の女が怒り狂っては堂々を貫くこと叶わず。
「アンタ……。この忙しい中、よくもサボってくれたわね。しかも、女とデートだって!?」
「ち、違う。俺は拉致られたんだ。姉の妹に拉致られたんだよ」
「なに、訳分からないことを言っているのよ!」
迫る真面目上司に、サボり部下は必死に弁明。されど、日頃の行いのせいか全く通じず、ただただ部屋に隅に追いやられていくばかり。
「俺は悪くねぇっ! 俺は悪くねぇっ!」
仕舞いには見苦しい言い訳までするも、ルメシアの怒りの火に油を注ぐだけ。
こうして、詰所から「ぎゃあああああああああ!」という痛ましい悲鳴が上がるのであった。
―二人の妹・完―




