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25-1 好景気の光と影①

 この日の北門はいつも通りの多事激務状態。出入国を待つ人間や馬車、牛車がまだかまだかと押し合っており、それを捌く門番たちも忙しなく働いていた。


 それでも神太郎は上機嫌に仕事を務めている。何せ、明日は楽しい楽しい休暇なのだから。


「はいはい、次の牛車進んでー」


 彼は入国審査を済ませた馬車を進ませると、次に待っていた牛車をチェックする。


 ただ、牛車と言っても、その牛はこの世界特有の巨大牛である。アジアゾウぐらいあるかもしれない。その上、牽引している荷台の方も大型トラック並みに大きい。長路にも耐えうるしっかりした車輪に、雨風も凌げる立派な屋根が付いていた。


「また大型牛車か。最近は増えているな」


 これが毎日何十台、何百台も何百キロ先からやってきているのである。物流は現実世界の中世より遥かに優れているよう。


「お役人様、いつもご苦労様です。こちら荷品と納入先です」


「はいはい、えーっと、荷品は小麦か」


 荷主である行商人から入国証と目録を渡され、それに目を通す神太郎。次いで荷台に乗り込むと、ズラッと樽が並んでいた。念のため蓋を開けてみれば詰まっているのは小麦。


「うん、小麦だな。しかしオタク、二週間前にキダイを出国したばかりじゃないか」


「お陰様でこちらでは高く捌けますので。休んでいる暇はありませんよ」


「人口は増える一方だからなー。人が来過ぎなんだよ。こんな狭い国に」


「今では人口増加率世界一の国って聞きましたよ。以前は魔術大国エイゼンの方が人気だったらしいんですが、何でも自慢の魔術師団が壊滅し、王都の壁も一部崩れたって噂じゃないですか。魔族にでも襲われたんですかね?」


「あー……。そうらしいな」


 流石に自分と両親がやったとは言えず、神太郎は早々に入国証に許可印を押すのであった。




 夕方、北衛門府・北衛長執務室。ルメシアがせっせと書類仕事をしていると、仕事を上がった神太郎が入室してきた。


「閉門作業終えたぞ」


「お疲れ様。今日はどうだった?」


「相変わらずだよ。事務方にこんなに分厚い出入国名簿を渡したら悲鳴を上げていたぜ」


 神太郎が両手で二十センチほどの幅を作ってみせると、ルメシアも辟易した表情を晒してしまった。


「はぁ~。事務方がそれをまとめて私に提出する頃には、もう八時を回っているだろうなー」


「明日以降やればいいじゃないか」


「そういうわけにはいかないわよ。門は毎日休みなく開くんだから。ちょっとでも溜め込んだらパンクしちゃう」


「現場は大変だと思っていたけど事務の方も大変だよなー。俺、出世しなくていいわ」


「志が低い……」


 ルメシアも分かっていたとはいえ、婚約者の上昇志向のなさには思いっきり落胆させられる。ただ一方で、組織に縛られるような器ではないことも知っているので責める気にはなれなかった。


「それより明日休みでしょう? 私もだから遊びに行かない?」


「いや、予定が入っている」


「ユリーシャ?」


「NO」


「シャノン?」


「NO」


「はぁ……? じゃあ、どこの女よ!?」


「女じゃないよ。男さ」


「オトコ!? アンタ、バイなの!?」


「違うわい!」


 いつもボケ役の神太郎もこの時はツッコミに回ざるを得なかった。


 されど、ルメシアの疑いの眼差しは収まらない。


「やっぱり女か……」


「信用ないな~」


「そりゃ、エイゼンから女の子を連れ帰った前歴があるからね」


「安いハーレム漫画じゃあるまいし、女とばかりつるんでも面白くない。男同士だからこそ味わえる気楽さというのもあるのさ。お前だって女同士だけでつるみたい時もあるだろう?」


「まぁ……」


「じゃあ、そういうことでお先に失礼するよ。仕事頑張れよ、俺の可愛いルメシアちゃん♡」


 そして、とっとと帰ってしまう神太郎。それを見送るルメシアは、何とも言えない不満を抱きながら事務仕事に戻るのであった。

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