25-2 好景気の光と影②
翌日、神太郎は街を軽くぶらついた後、カフェに入った。テラス席にてミルクたっぷりのコーヒーを飲みながら、昼下がりの街並みを眺めている。
「はぁ~。昼間っからカフェでお茶とは優雅だな~、俺」
初夏の爽やかな空気を味わいながら、コーヒーを一啜り。ただの下級衛士じゃ中々出来なかったリラクレーションも、マフィアを乗っ取ったお陰でやれる余裕が生まれた。異世界であろうとスローライフを味わうには金が必要なのだ。
すると、そこに本日の連れが現れる。
「おう。来たか、ケードル」
「よう、神太郎」
それはケードル・マーベッツ侯爵公子。嘗てクレハに言い寄り、神太郎と殴り合い? をした太っちょ貴族である。(EP10・『姉の妹』より)
実は神太郎は彼のその男気に感心し、あれ以来誼を結んでいたのだ。
ケードルが対面に着いてストレートティーを注文すると、早速話に花を咲かせる。
「久しぶりだな。クレハのことは諦めたのか?」
「俺も男だ。完全に芽がないと分かればキッパリと諦めるさ」
「その割には固執していたようだけど?」
「そりゃ、一度失敗したぐらいで諦めていたら男じゃないだろう?」
「成る程、確かに……。で、新しい恋を探し中か。でも、侯爵公子ならいくらでも紹介や縁談があるだろう?」
「妻に迎えるとなれば相応しい女性を選びたい。自分の目でな」
「うん、立派なもんだ」
そしてストレートティーが届くと、話題は近況のことに。
「ケードル、そういえばお前って仕事は何をしてるんだ?」
「王国軍・第一軍団・第一騎兵連隊所属・第四騎兵中隊、中隊長」
「軍人さんか。そっちも忙しそうだな」
「ああ、この間も運輸局の護衛の任があって一昨日帰ってきたばかりだ」
「運輸局って謂わば国営の運送屋だよな。毎日大量の大型牛車を回している……」
「国営だからその護衛も王国軍に任せられるわけだ。お陰で安心安全と荷主たちからの注文が殺到しているらしい」
「民間の運送業者も冒険者とかを護衛をつけているらしいが、正規の軍隊と比べれば信頼性は段違いだよなー」
「国を護る軍隊を運送の護衛に回すのは反対者も多かったが、宰相が推し進めたらしい。今のところ大正解ってところか。今の宰相になってからキダイの景気は良くなっていく一方だ」
「仙兄か……。もしかして国の護りを俺一人に押し付けるつもりか?」
お陰で門番の仕事は多忙である。彼が望むのんびりとしたスローライフからは遠のくばかりだ。
「さて、神太郎、そろそろ行くか」
「お? 待ってました」
そして、二人は揃ってカップを飲み干すと席を立った。
街中を行く神太郎とケードル。
今回はケードルが食事をご馳走してくれるそうだ。美味いステーキを食わせてくれるらしく、神太郎も昨日からウキウキである。
「こうやってステーキをご馳走してもらえるのも好景気のお陰か」
「馬鹿にするな。景気に関係なく馳走するときはするさ。俺は男だからな」
「で、どんなステーキなんだ?」
「スナウサギのステーキだ」
「スナウサギ?」
「西方の砂漠地帯に棲むウサギで、肉が柔らかくて美味い。レアがお勧めだ」
「ほう、太っちょのお勧めなら期待出来るな」
「うるせえ」
やがて二人が通りの角を曲がろうとした時だった。
「いて」
突然尻餅をつくケードル。先から歩いてきた男とぶつかってしまったのだ。
「おい、大丈夫か?」と手を貸して立たせてやる神太郎。一方で、相手の男は無視してそのまま行ってしまった。
「何だ、アイツは」
「尻餅をついただけだ。やれやれ、移民が増えたせいでああいう躾のなっていない輩が増えてきた」
ケードルも何もなさそうなので何より。
二人は改めて歩き出した。
……。
……が、すぐに立ち止まった。ケードルが。
「どうした? 持病の痔が破裂したか?」
「俺は痔じゃない」
「じゃあ、何だ?」
「……財布がない」
「なにっ! もっと大変じゃねーか!」
身体中に手を当て財布を探すケードル。しかし、見つからず。何度探っても見つからず。
「カフェの支払いの時は確かにあった。……あっ! アイツだ! あの時のぶつかってきたヤツ!」
「スリか!」
スラれたのである。
「くそ、追うぞ!」
「俺から盗むなんて許さん!」
神太郎としても友人の危機を放っておけないし、治安を護る衛士としても犯罪を見逃すわけにはいかない。何よりこのままではステーキを奢ってもらえない。
あの男を追うべく、二人は駆け出すのであった。




