24-2 二人の妹②
「ど、ど、ど、どこへ連れて行くんですか?」
駆ける馬車。突然、そこに押し込められて拉致された神太郎は、それはそれは心細さそうに対面の誘拐犯に質問した。
「ビーザック通りよ」
「ああ、前に一緒に行った高級店が立ち並んでいる……」
「そこでお義姉さまへのプレゼントを手に入れるんです。それで歓心を得ます」
「物で釣るっていうのは定番だけど、創作物ではあまり良いオチには……」
「神太郎さんは弟なんだから、お義姉さまの好みを良く知っているでしょう? 彼女が絶賛するようなものを考えて」
「姉ちゃんが欲しがっているものなんて……。そうだな~。姉ちゃんは料理とか家事が得意だから、それに関したモノがいいんじゃないか?」
「お義姉さまって公爵夫人なのにそういう下々の者のすることが好きなのよねー。となると、調理器具とか食器とかかしら? でも、我が家には既に一流品ばかり揃えてあるから……」
「なら、やっぱり服とか?」
「お洋服はデザインとかはともかく、サイズは測ってみないことには……。本人が立ち合わないと難しいです。下々の者なら既製品やお下がりでも宜しいんでしょうけど」
「じゃあ、お手上げだ。分からんよ、女の好みなんて」
「必死に考えて下さい」
その後、馬車はビーザック通りに到着。以後は自分たちの足で散策してみることにする。
建ち並ぶ高級店。通りを行く人々も上品な雰囲気を醸し出している。皆、貴族か金持ちなのだろう。
さっきの雑多な大衆食堂ではクレハが浮いていたが、この街では神太郎の方が浮いていた。
「相変わらず高そうな店ばかりだなー。姉ちゃんの行きつけとかないの?」
「お義姉さまの行きつけと言えば……『フーディア商店』ってお店ですね。国外の様々な食材を揃えてあります」
「ちょっと覗いてみるか」
ということでフーディア商店に入店。
すると、早速出迎えてくれたのはみずみずしい果物たちだった。マンゴー、バナナ、パイナップル等々。これらはキダイより遥か南方にある果物で、庶民街では店頭に並ぶことのない珍味である。
「おー、バナナがある。黄色くて美味そうだ」
神太郎もこっちの世界に来て初めて目にした。庶民には手の届かない高級品なのもあるし、南方産故にそのほとんどが南門を通過するため、北門の門番が見ることはなったのである。
これまで渇望することはなかったが、目の前にあると不思議と食べたくなるもの。寄ってきた店員に問う。
「これ、おいくら万円?」
「はい、ひと房、六百パルスになります」
「六百っ!? 日本円にして六千円か。やっぱり輸送費が掛かるんだろうな」
「何せ、遠い南方の珍味ですから」
「ああ、俺も門番をしているから分かるよ」
それでもバナナは安い方である。保存が利くお陰で掛かるのが輸送費だけなのだから。
次いで神太郎は保存が利かない品を見に行く。店の奥に行くとずらっと並ぶは大きな木箱たち。木箱の蓋を開けると、出てきた冷気が顔に掛かった。その中身は……、
「おっ? 鯛だ」
海産物である。鯛やヒラメ、マグロまである。これもまた遠い海から冷凍保存で運ばれてきたのもの。
当然、この世界に電気はない。機械もない。だが、代わりに魔術がある。海から遠い内陸国家であろうとも美味い海鮮を味わえるのだ。ここの人々は思っていた以上に恵まれていた。……値はとてつもなく張るが。
「その鯛に目を付けるとはお目が高い。本日到着したばかりのカラメラ海の鯛でして、お値段は……」
「いや、聞きたくない。それでウチの姉ちゃん……いや、アルサンシェ公爵夫人はいつもどんなものを買ってるんだ?」
「公爵夫人の弟君でしたか。夫人には大変ご贔屓にしてもらっています。そうですね、最近では香辛料をお買い求めになられました」
「香辛料か……。う~ん」
あまり贈り物の参考にはならなそうな情報……。仕方ないのでクレハが神太郎に問う。
「お義姉さまはどんなものが好物なんです?」
「そうだなー。魚ならシシャモが好きかなー」
「シシャモ?」
聞き慣れない単語にクレハが思わず店員に視線をやると、彼もまた困った表情をした。
「夫人からも問い合わせを受けたことがあるのですが、生憎ウチの店では取り扱いはしておらず……。正直申しますと、そのような魚は聞いたこともありません」
「あー、昔、仙兄に聞いたことがあったけど、シシャモは日本固有らしいからな。こっちには無いかもなー」
向こうの世界にあるものがこっちの世界には無いこともあるし、逆もまた然り。一長一短というわけだ。
「神太郎さん、じゃあ他には?」
「いや~、そもそも姉ちゃんが欲しがっているものなら、もう姉ちゃん自身が買っているだろうし」
「えー」
結局、無駄足であった。




