23-3 門限破りのロドネイ殿下③
それからというものの二人の馬車酒盛りは大盛り上がり。外で警備している騎兵たちにも聞こえるほどの笑い声を上げていた。
「ははは、全く、面白い男だなー、お主は。ほれ、飲め飲め」
「そんなに面白いかなー? まぁ、面白いことは好きだけどな」
王族からの酌を遠慮なく受ける平民神太郎。その彼がふと外を見ると、その一杯を飲んで席を立つ。
「飲んでばかりじゃあれなんで、ちょっと夜回りしてきます」
「何? いい、いい、必要ない。これまでも賊や獣なんて出やしなかった」
「なに、十分ぐらいで戻ってきますので」
そして、ロドネイの制止も聞かず出て行ってしまった。
「真面目なのか不真面目なのか分からんな」
仕事では叱ることも出来ず。取り残されたロドネイは寂しそうに自分の杯に酒を注いぐのであった。
……。
その後、約束通り十分後に戻ってきた神太郎。だが……、
「お待たせしました~。……ん?」
今度は待っていたロドネイの方が寝入ってしまっていた。長座席をベッド代わりにし、酒瓶を抱きながらいびきをかいている。
「仕事中の酒盛りもお仕舞いか」
楽しい夜勤もここまで。神太郎はフック掛けに掛けてあったロドネイの外套を毛布代わりに彼に掛けてあげると、静かに出て行くのであった。
朝。ロドネイが目を覚ますと、既に陽が昇っていた。彼が寝惚け顔で窓から外を覗けば、護衛の騎兵がそれに気づく。
「おはようございます、殿下。あと十五分ほどで開門とのことです」
「神太郎は?」
「開門作業があるので中へ戻りました」
「そうか。しかし、勇者の一族は捉えどころのない連中だな。さて、次の村への訪問だが三日後としよう。向こうには用意する酒はにごり酒で構わないと伝えておいてくれ」
いつものように次回の予定を立てるロドネイ。一緒に暮らせないと分かった以上、存分に一家団欒をしようと思っていた。
ただ、騎兵の方はいつもとは違った反応を示す。
「あ、その……しばらくはお止めになった方が宜しいかと。最近は夜道が物騒なようなので」
異を唱えたのだ。忠誠心が高いこの従者がそんなことを言ったのは初めてである。だから主人もつい聞き返してしまった。
「何を……。今まで何もなかったではないか」
「ええ、そうなのですが。やはり、この辺りも夜には魔獣が出るようでして……」
「だから、出たことなどなかっただろう!?」
「……いえ、出たんです」
「?」
意味が分からず。されど、すぐに分かることになる。
彼が騎兵に誘われ馬車を降りると、そう遠くない場所にそれはあった。
魔獣である。体長三メートルほどはあろう巨大な蝙蝠だ。それが舌を垂らしながら白目を剥いて地面に伏せている。屍骸だ。
こんなものを見せられれば、ロドネイも残っていた眠気を一気に吹っ飛ばしてしまった。
「何だ、これは!? お前たちが仕留めたのか?」
「いえ、三好神太郎です」
「っ!」
「昨夜、突然馬車から降りてきたと思ったら、『なんか羽ばたく音が聞こえたから、十分ほど見回ってくる』と言い残して闇の中へ消えていったんです。我々には何も聞こえなかったので首を傾げ合っていたのですが、言い残した通り十分後、彼はその屍骸を持って戻ってきて……」
「……」
「屍骸は門番の昼班に処分させるとのこと。ただ、獣が一匹かどうかは分からないので、しばらくは外出は控えた方がいいと言ってまして……」
「そうか」
武に疎いロドネイでも、この空を舞う魔獣を狩るのは至難のことだとすぐに分かった。
飄々と無礼を働きながらも、決して一線は越えず。それでいて門番という不人気職を厳格に勤める矜持がある。
勇者の息子だ。兄は宰相である。もっと良い仕事に就けられるだろうに、まるでこの道を望んでいるかのように感じられた。三好神太郎は実に理解し難い男である。
だからなのか、昨夜の会話もそうだったがその言葉に耳を傾けてしまうのだ。
王族を陥れようという邪さや、媚を売ろうとする欲深さを感じさせなかったからか……。
それがロドネイに感心と爽快感を与えたのである。
「本当、捉えどころのない男よ」
彼はそう一笑すると、晴天を心地良さそうに見上げるのであった。
―門限破りのロドネイ殿下・完―




