表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/92

22-4 街を護る良いヤクザ④

「というわけで、副業見つけてきたからもう安心だ。金ならいくらでも入ってくるぞ」


 新居に帰った神太郎は、恋人たちにウキウキと朗報を伝えていた。


 されど、ウキウキなのは神太郎だけ。それを聞かされた他の三人はただただ唖然とするばかり。


「ばっかじゃないのー!」


 そして、代表してルメシアが叫んだ。


「この屋敷が反社会的な行為じゃなくて安心していたら、本当に反社に入るなんて!」


「だって、食っていくために仕方ないだろう。お前らだって金、金、金って言ってたじゃないか。ということで、この度マフィアは日本風のヤクザになったわけだ」


「だからって反社なんかに入らなくてもいいでしょう! アンタは衛士なのよ? 国の治安を護る側なのに、乱す側に入ってどうするの!?」


「大丈夫。ウチは街を護る良いヤクザだから」


「そんなヤクザ、いるわけないでしょう!」




 その後、神太郎はルメシアの怒りから避難するように屋敷を後にした。


「ヤクザは弱きを助け強きを(くじ)くものなのに……」


 素晴らしい理想をぼやきながも、その志とは反対に力なくトボトボ歩く新親分。ただ、ルメシアに言った言葉は満更嘘というわけではない。彼はちゃんとした展望があった。


 尤も、それを練ったのは彼ではないのだが。


 キダイ王国宰相三好仙熊(せんゆう)は王国から伯爵の爵位を与えられており、王国中央区に宰相に相応しい豪邸を構えていた。


 そこに赴いた神太郎が応接室に通されると、そこには一足先に来ていた又四郎がいた。


「お? ちゃんと来ていたな」


「来たよ。仕事を放ったらかしにしてね。マリィから嫌味を言われたよ」


「なに、この寄り合いは北区のため、ひいてはトトリ飯店のためにもなるんだ」


 神太郎がそう上機嫌にソファに腰掛けると、そこに家主が入室してくる。


「おう、来たな」


 弟たちの対面に座るのは長兄仙熊。宰相ゆえに常に忙しく、兄弟だけの時間を作るのも難しい立場。されど、今回はそれに見合った大切な議題である。まず、仙熊は二人の働きを褒める。


「神太郎、ちゃんと幹部連中は一掃したようだな。今朝、大量の遺体が発見されたと国に知らせが入った」


「仙兄からの情報通りにね。会合の場所とか出席する面子とかよく分かったね」


「国政の担う立場としては、裏社会のことにもアンテナを伸ばさないといけないからな。ミラーノは生かしたか?」


「そっちも予定通り。今、構成員たちをまとめさせているよ」


「ヤツは北区の売春と賭場を仕切っている稼ぎ頭だからな。なくてはならない」


 神太郎と仙熊はその成果に満足げに頷いていた。ただ、年少の又四郎だけはどうも納得出来ないでいる。


「ねぇ、神兄。本当に運営する気なの? マフィアなんか潰した方がいいでしょう?」


「勿論、街を護る良いヤクザにするつもりだ」


「そんなヤクザ、漫画の中だけの話じゃん。……仙兄はどう思ってるの?」


「俺も神太郎からマフィアを乗っ取るなんて話を聞かされた時は、『えぇ……』と思ったさ。三好家が裏社会に関わっていたら、この国での立場を危うくさせかねないってな。でも、よくよく考えたら、ヤクザやマフィアなんてものはいつの時代、どこの世界にも必ずいるものなんだ。貧富や格差がある限りどうしても生まれてしまう。それが人間というものだ。それなら、それを利用するのも手だろう。表からは宰相である俺が治め、裏からはヤクザであるお前たちが支配する。そうすればこの国は完全に俺たちの安寧の地となる」


「まぁ、それで平穏な生活を送れるというのなら渋々受け入れるけどさ……。でも、悪いことをするのは気が進まないな」


 悪者を懲らしめる正義の暗殺者としては、自分自身がその悪者になるのは避けたいところ。


 ただ、神太郎はこう断言する。


「悪いことはしない」


「え? ヤクザなのに悪いことをしないの?」


「そりゃ、街を護る良いヤクザだからな」


「意味が分からん」


 次いで仙熊が説明する。


「又四郎、嘗て江戸の街が百万都市だったのは知っているか? しかし、その巨大都市の治安を護る町奉行は、僅か三百名ほどの与力同心によって運営されていた。勿論、街の規模に対してとてつもなく少ない。だから、町人による自身番がその穴埋めをしていたのだ。このキダイも同じだ。国民は増え続けているのに、衛士の数は常に不足している。市民による自警団の組織は、それを解決させる良い手だとは思わないか?」


「まさか、ヤクザに街を護らせると?」


「だから、さっきから言ってるだろう」


 驚愕の又四郎に神太郎が呆れながら突っ込んだ。


「でもさ、自警団なんか作って大丈夫なの? 勝手に警察みたいな活動をしたら国から怒られるんじゃない?」


「勝手じゃないだろう。ちゃんと国政を担う宰相様から認めてもらった正式な治安組織だ」


 神太郎が宰相である長兄を指しながら言うと、末弟も「ああ、成る程」と納得。ただ、他にも……。


「だけどさ、警察の真似事したとしてもお金を稼げるわけじゃないだろう? 売春とか博打とか悪いことをしないと稼げないんじゃ……?」


「売春も博打も悪いことではない。合法だ」


「え? 合法? 犯罪じゃないの?」


「前のボスの時は博打でイカサマをしたり娼婦から稼ぎを巻き上げたりと犯罪行為をしていたようだが、売春と博打自体は合法だ。俺たちは法律に従って堂々と稼ぐ。つまり、犯罪組織から合法企業へと変革するんだ」


「企業!? そういうことなら、まぁいいか」


 ここでやっと又四郎も受け入れた。


 裏社会が世を乱すのなら、裏社会を良くすれば世もまた良くなるというわけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ