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22-3 街を護る良いヤクザ③

 夜。貧民街の外れにある無骨な屋敷。高い壁に囲まれたそこはマフィアの本部であり、ボスが殺害されたこともあって物々しい警備が敷かれていた。


 そして、内部の会議室では幹部たちによる今後の話し合いが行われている。それを主導するのは組織ナンバー2の若頭。卓を囲っている幹部たちに今後の方針を告げる。


「ボスが亡くなってからしばらくゴタゴタが続いていたが、そろそろ跡継ぎを決めるべき時期だろう。身内同士で争っていては他の組織に付け入る隙を与えてしまうしな。今は組織の建て直しが最優先だ」


 若頭らしい組織全体のことを考えての意見だった。


 されど、幹部の一人が反論する。


「いや、まずはボスの敵討ちだろう。親を殺されていながら指を咥えているだけ。それでは他の組織どころか、寝小便しているような子供にまで笑われるぞ。我々の面子は丸潰れだ」


 それもまた道理の一つであった。反社会組織は相手を脅し搾取することで生きている。だが、その相手に舐められてしまってはそれも叶わない。つまり、滅びるということだ。


 更に、別の幹部が問う。


「次のボスは誰になるのだ? 若頭か? だが、アンタは取引をミスってボスから謹慎を命じられていただろう。そのことを有耶無耶にする気か?」


 それは明らかな反意だった。若頭と言っても、全員が彼に従順というわけではなかったのである。


 若頭の側近が「口が過ぎるぞ」と嗜めれば、その幹部も「黙れ、腰巾着」と言い返す始末。


 このままでは場は乱れるばかり。そこで若頭は場の空気を変えるべく、まだ一言も発していなかった末席の幹部ミラーノに意見を求める。


「ミラーノ、お前はどう思う?」


「わ、私ですか?」


 ミラーノは多額の上納金により三十五歳の若さで幹部に取り立てられた組織の稼ぎ頭である。だが、優れているのは金を稼ぐことだけで、他の幹部たちが担っている暴力関係は苦手。どちらかと言えば気も弱かった。


「このままいがみ合っていては商売も上手く回らない。とにかく組員同士の衝突だけは禁じるよう命じて頂かないと」


「フン、やはり貴様は金、金、金か。少しは汗を流す気にはならんのか」


 そう蔑んだのは武闘派の幹部。血を流して組織を大きくしてきた者としては、金勘定だけで成り上がった彼が気に食わなかった。


「金を稼ぐことも組織を運営していくには大事なことです」


「これを機に他所が抗争を仕掛けてくるかもしれないんだぞ。その時は貴様も剣を握らなければらないことは分かっているんだろうな!?」


 卓を叩きながら叫ぶ武闘派。


 とにかく、ボスの死に方が不味かった。病死や事故死ならともかく、多くの部下と共に惨殺されたのである。明らかに組織の権威を弱らせる死に方だ。これを機にライバルたちに攻められ、壊滅することもありえる。流血は避けられないだろう。


「そもそも、ボスは何故、誰に殺されたのだ?」


「弟の彼女を襲ったからだよ」


 幹部の一人の疑問に、思いもよらないところから返答が。


 その声に釣れられてその場にいた全員が扉の方を見ると、そこには一人の少年が立っていた。


「何だ、お前。どうしてここにいる!? 外の連中は何をしていた!?」


「ここで会合が開かれるって聞いてね。驚いた? まぁ、蛇の道は蛇ってヤツよ。外の護衛もおねんねだ。流石、S級暗殺者。手際が良い」


 幹部の詰問に飄々(ひょうひょう)と答える少年。


 秘密裏に開かれた会合に現れた異様な存在に、その場にいる全員が息を呑んだ。しかし、彼らはマフィアである。これ以上、面子を汚したくなかった。


「お前、俺たち組織に逆らってこの街で生きていけると思うなよ」


 若頭が合図を送ると、全ての組員が臨戦態勢に入る。彼に反感を示していた者までも短刀を握った。


 しかし、少年もまたそれ以上の殺気を(たぎ)らせていた。


「お前ら、俺たち三好家に逆らってこの国で……いや、この世界で生きていけると思うなよ!」


 家族に仇なす者は誰であろうと許されない。


 ……。


 ……。


 ……。


「こっちは終わったよー」


 又四郎がナイフに付いた血を布で拭きながら会議室に入ってくると、神太郎もまた血が付いた拳をハンカチで拭いていた。


 現場は正に地獄絵図。ほとんどの者が原形を留めていない惨い死に方をしている。それを見て、又四郎はついぼやいてしまう。


「あーあ、どうせなら俺が幹部をやりたかったなー。何で外の雑魚なんだよ」


「お前は迂闊(うかつ)だから間違えて殺しちまうかもしれないだろう?」


 神太郎・又四郎兄弟によるマフィア襲撃。これは先の誘拐に対する報復の意味だけではなかった。というか、報復はあくまで表向きだ。


 神太郎は部屋の隅で縮こまっている唯一生かしてやった男の下に歩み寄る。


「お前がミラーノか?」


「な、何だ? 何なんだ? お前らは何なんだ? 他の組織の刺客か?」


 ミラーノもまた若頭の合図で短刀を構えた男の一人だったが、殺しどころか人を殴ったことすらない非戦主義である。神太郎の殺戮が始まった瞬間、部屋隅に逃げていた。


「お、俺も殺すのか?」


「う~ん、どうしようかな~」


 意地悪そうにニヤニヤしながら答える神太郎。


「た、頼む、殺さないでくれ。か、金ならやる」


「金は欲しいな~」


「女か? 最高の美女を用意してやる」


「女も欲しいな~」


 そう答えつつも、どれも神太郎の望んでいる言葉ではなかった。ミラーノも察する。だが、彼には正答が分からない。だから、もうこう懇願するしかなかった。


「何でもするから」


「何でも?」


「何でも!」


「……その言葉が聞きたかった」


 そして、それこそが正答だったのである。神太郎の笑みは忽ち満面となり、生き残りに新たな人生を与える。


「ミラーノ、お前が若頭として組織を仕切れ。今日から俺たち兄弟がボスだ」

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