22-2 街を護る良いヤクザ②
一方、神太郎はというと繁華街に来ていた。
「う~ん、飯の種を作るってことは副業をしろってことだよな~。何か良い稼ぎはないものか……」
その副業を探すべく、通りを進みながら辺りをキョロキョロ、キョロキョロ……。されど、そう都合よく見つかることはなく。
街は賑やかだが、その分仕事はあり、そして求職者も多い。門番をしているから、キダイへの移住者が増えていることも知っている。毎日毎日出稼ぎ労働者が入国してくるのだ。
「日に日に人が増えているから、割の良い仕事はどんどん取られていくんだよなー」
自分にしか出来ない仕事。しかも高給の仕事。そうなると普通に探していては見つかることはあるまい。
それでも一応思いつく。
「そうだ。トトリ飯店名物のカツ丼。あの材料のガーフボアを狩ったらトトリが買い取ってくれるかな? この間の旅でも遭遇したからそれなりに生息していそうだし、並の人間じゃ狩れそうにないし。取り合えず訊いてみるか」
貴重な食材だから、それなりに値は付きそうだ。
善は急げと早速伺いに行く。……と、その道中、揉め事を見掛ける。何やら荒くれな男たちが言い争っていた。それ自体、前々からあることなのだが、最近はその頻度が高くなっているよう。昨日も三回も見掛けていた。
「何か、ちょっと留守にしているうちに物騒になってきたな」
遂には殴り合いを始めてしまう男たち。神太郎は巻き込まれまいと足早に去っていくのであった。
「おーっす、又四郎、いるかー?」
「あ、神兄ちゃん」
神太郎がトトリ飯店に着くと店は丁度昼休みに入っていたようで、又四郎がテーブル席で賄いのオムライスを食べていた。神太郎はそれを覗きながら対面に腰掛ける。
「お? オムライスまでやってるのか」
「これも千満姉ちゃんから教えてもらったんだ。カツ丼ほどじゃないけど受けはいいね。神兄ちゃんも旅行から帰っていたんだ。お土産は?」
「旅行じゃなくて仕事だから土産はない。まぁ、商売繁盛のようで何よりだ」
「……それが、良いことばかりじゃないんだよ」
「うん?」
「実は……それが原因でマリィが攫われちゃって……」
「なにぃ!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それは神太郎がキダイを留守にしていた頃のことである。
この日もトトリ飯店は千客万来で大繁盛。閉店間際まで客足が途切れることはなかった。だが、その店を閉める間際、真似かねざる客がやってきたのだ。三人の強面の男たちである。
「すみません、今日はもうお仕舞いなんです」
「店主いる?」
マリィがお引取り願うも、男の一人が無視して問い返した。彼女が「え? あの……」と困惑していると、厨房にいた又四郎が異変に気づいて出てくる。
「俺が責任者だよ」
「あっそ。じゃあ、ショバ代払ってくれる?」
「はぁ?」
「この辺りはウチのシマでね。治安を護る代わりに、店から手数料を頂いているわけ」
彼らはこの北区を縄張りにしているマフィアである。どこの世界にでもヤクザはいるということだ。
「初めて聞いたけど?」
「まぁ、確かにウチは千パルス払っているみたいだけど」
又四郎がマリィに振ると、彼女も一応認めた。因みに、一パルスは現実世界だと凡そ十円。千パルスだと一万円ほどになる。
純粋な又四郎はそういう支払いには気乗りしなかったが、店主であるマリィの父親がそれに従ってきたのなら雇われの身としては口を出すことは出来ない。
しかし、男の次の言葉でその考えは変わる。
「それなんだけど、今月から二万パルスになったから」
「二万!? 二十倍かよ!」
その値上げ振りには又四郎もマリィも驚愕を隠せなかった。恐らく、トトリ飯店の繁盛振りを聞いて大きく値上げしてきたのだろう。
「ふざけるな。誰が払うか! 何がショバ代だ。ただの強請りじゃねーか!」
「イキるなよクソガキ。大人しく払っておいた方が安上がりだぞ? こんな風にな」
男はそう言うと、突然テーブルを蹴り飛ばした。他の連れたちもイスを投げ飛ばし、或いは戸を蹴り凹ませる。
マリィが怯えて又四郎の背に隠れる中、男はニヤケながらもう一度忠告する。
「ウチの組を舐めるなよ? こんな店、その気になればすぐにぶっ潰せ……」
……が、その忠告を言い切る前に、そのニヤケた顔がぶっ飛ばされた。次いで、他の連れの顔面も次々と潰されていく。
そして店の外へポイ捨て。又四郎は鼻血塗れになった拳を解くと、両手をパンパンと叩きながらこう忠告し返すのであった。
「また来やがったら、お前らの組ぶっ潰すぞ」
尤も、その忠告は意味を成さなかったのだが……。
翌昼、又四郎が店で仕込みをしていると、マリィの母親が血相を変えて店に駆け込んできた。
「又四郎ちゃん、大変、大変よ! これを見て!」
彼女が差し出してきたのは置き手紙。その内容はマリィを攫ったというもの。勿論、犯人はマフィアだ。
そして勿論、それを読んだ又四郎の怒りは半端ないものであった。
「野郎ぅ……ぶっ殺してやるっ!」
仕込みに使っていた中華包丁を持ったまま店を飛び出す又四郎。
そのまま手紙に書かれていたマフィア所有の大きな倉庫に赴くと、マフィアのボスと多数の組員が待ち構えていた。
そしてボスが「おどれ、よう来たな」と言った間際、中華包丁を投げつけ、その頭を真っ二つに切断。そのまま組員も皆殺しにしていく。
マフィア側はマリィを餌に何やら取引をしようとしていたようだったが、頭に血が上っていた又四郎は聞く耳もたず。まさしく問答無用状態だった。
その後、数十人の組員全てが生き絶えると、彼は別部屋で監禁されていたマリィを発見。「もう、遅いー!」と泣きながら抱き付いてきた彼女を力強く抱き締めるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「という感じだったわけ」
「本当、大変だったんだからー」
又四郎が説明を終えると、丁度マリィが自分の賄いを持ってやってきた。彼女も無事そうで何よりである。
「又四郎、お前、無用心なんだよ。自分以外が襲われる可能性は考えなかったのか?」
「言わないでよ。今も悔やんでるって」
「ともあれ無事解決して良かったな。……あれ? もしかしてそれってお前が望んでいた正義の暗殺ってヤツだったんじゃないのか? 初仕事おめでとう」
「そういえばそうかも……。遂に暗殺者デビューか。まぁ、ショバ代の方も取られずに済みそうだよ。ただ、ちょっと問題が出来ちゃってさ」
「何?」
「マフィアのボスを殺したら、その跡目争いが起きちゃったんだよ。生き残った幹部たちが次期ボスの座を争って街中で抗争してるんだよ」
「ふ~ん。……あ、最近、街中で輩の喧嘩が増えてきているのはそのせいか」
「そうそう。だから、この辺も物騒になっちゃってさー」
「お前のせいか。困るなー、何が正義の暗殺だよ。余計面倒になっちまったじゃないか」
「俺のせいじゃねーよ!」
又四郎がそう言いたい気持ちは分かるが、やはり又四郎のせいだ。ただ、それをネガティブではなくポジティブの方向に考えるのはアリかもしれない。
神太郎は考え、考え、考えると……最高の閃きに辿り着いた。
「いいことを思いついた。又四郎、来い」
「何するの?」
「だから、いいことさ」
微笑む神太郎。
ただ、その笑みはどこか邪気が混じったものだった。




