22-1 街を護る良いヤクザ①
キダイ王国・北区にある閑静な高級住宅地。神太郎とルメシア、ユリーシャ、シャノンの四人はその一角にある一戸建ての前にいた。
二階建ての煉瓦造り。公爵家の大きな屋敷とは比べ物にはならないが、こじんまりとしつつも品のある綺麗な建物である。一方で庭は広く、整えられた芝生が広がっている。キチンとした門と塀もある立派な家屋だ。
その屋敷を指して、神太郎はこう宣言した。
「お待たせ。ここが俺たちの住処だ」
「え? 本当!?」
予想外の立派な新居にルメシアは驚きを隠せない。ユリーシャもだ。下級衛士が買うどころか借りられるとは到底思えず。
それでも神太郎が悠々と中へ案内してくれるので訝しみながらも付いていった。
そして中もまた立派な造りだった。天井の高いリビングに、ソファとテーブル、家具に暖炉。他にも部屋が数室にキッチンや浴室もある。どれも洒落てどれも掃除が行き届いていた。令嬢が住んでも恥ずかしくない屋敷だろう。こんなところに住めるのは貴族か商売に成功した者ぐらいだ。
だから、ルメシアは余計気になってしまう。
「ここ、どうしたの?」
恋人たちは喜びよりも不安の方が大きいようだ。なので、もったいぶっていた神太郎も種明かしをする。
「ふふふ、実は和平の使者のご褒美としてお国から頂いたのさ」
「あー、成る程」
やっと合点がいく女たち。そうと分かればルメシアもひと安心だ。
「良かった。てっきり反社会的な行為で手に入れたのかと……」
「信用ないなー、俺。まぁ、前のアパートと比べたら雲泥の差だろう? ここなら全員にそれぞれ部屋を割り当てられるし、お前たちの実家ほどじゃないがそれなりに不便なく暮らしていけると思うんだ」
「そうね。それじゃ早速引っ越しの準備をしようかな」
ユリーシャも満足してくれたよう。
「ここが私の新しい家……。これからの生活が楽しみです」
最後にシャノンも自分の新たな住処を嬉しそうに見渡した。すると、そんな彼女に恐々と声を掛ける者が……。
「あ、あの……シャノン殿下」
ルメシアである。シャノンが「はい?」と応じると、ルメシアは思いっきり頭を下げた。
「申し訳ございませんでした!」
「え?」
「先日は王女とは知らず無礼な態度を取ってしまいました。どうぞ、お許し下さいませ」
それは真面目なルメシアらしい謝罪であった。他国とはいえ、王族相手に礼を逸してしまったのは貴族としても東衛長としても失態である。
片や、心優しいシャノンは当然の如く気に留めていない。
「いえ、全く気にしていませんので」
そもそも無礼らしい無礼もされていないので、シャノンも謝られて困惑してしまった。しかし、この封建社会ではそれが常識なのである。特に公爵家という上流の世界で生きている者としては身分は絶対だ。
それでも王女は謝罪を受け入れない。
「私はルメシアさんやユリーシャさんと同じ立場なのですから、気遣いなんて必要ありません。それどころか、私たちは同じ屋根の下で暮らす家族なんですよ。私のことは呼び捨てにして構いませんから」
「でも……」
本人がそう言ってもルメシアの方は「ハイ、そうですか」と簡単に頷くわけにはいかず。
ただ、神太郎もまたシャノンに同意見だ。
「まぁ、その通りだな。シャノンはお忍びの立場だ。エイゼンの王女がここにいると触れ回すのは都合が悪い。……身の危険とかな」
彼がソファに座りながらそう補足すれば、彼女も受け入れざるを得なかった。
「分かりました……。いえ、分かった。それじゃ宜しくね、シャノン」
「こちらこそ、ルメシアさん」
こうしてシャノンは神太郎ガールズの仲間入りを果たしたのであった。
一方で、残りのガールズであるユリーシャにはとある懸念が浮かんでいた。神太郎の隣に腰掛けると、そのことを問う。
「ところで、お金の方は大丈夫ですか?」
「お金?」
「生活費です。私たち四人の食費、衣服代、光熱費等々……」
「……」
「この屋敷も頂きものとはいえ、それとは別に維持費は掛かるでしょうし」
「……」
「下級衛士の給料ではとても賄えるものではありませんよ?」
「……」
呆気に取られる神太郎。彼はその呆けた顔を晒しながら必死に口を動かす。
「で、でも、お前たちも給料入れてくれるだろう? 俺より貰ってるだろうし」
「確かに下級衛士よりは貰ってますけど、屋敷を維持出来るほどではありませんよ? 公爵家の大きな屋敷は国から与えられた知行や代々の家業などで維持しているんです。それと比べれば衛長の給金など雀の涙です」
「え? ……じゃあ、やばい?」
家があっても金はない。屋敷だけでは金持ちの生活は成り立たないのだ。それを横で聞いていたルメシアも「えー、ちょっとー」と顔を顰めざるを得なかった。
「神太郎、まさか私たちに我慢をさせる気じゃないでしょうね。結婚前と同等とは言わないけど、三食ちゃんとした食事は取れるようにしてくれないと」
「朝はパン一枚とか……ダメ?」
「ダメ。他にもスープにサラダに紅茶に……。勿論、それらは貴族御用達の上物じゃないと。ねぇ? シャノン」
「私はパン一枚でも……」
心優しいシャノンは神太郎を庇ったが、彼の上司であるルメシアは甘やかしてはいけないことを知っている。
「神太郎、アンタ、ハーレムを作りたいって言うのなら、それに相応しい財力を示してみせなさいよ」
「あっ」
「甲斐性よ、甲斐性。甲斐性がないのならハーレムを作りたいなんて言うな!」
「あわっ……!」
ルメシア、責める、責める、責める!
更にユリーシャまでも。
「例えば、私やルメシアは出勤する際に馬車を使っていますけど、今後は公爵家ではなく嫁ぎ先である神太郎が用意しなきゃならない。購入しろとは言いませんが、毎日業者に送迎を依頼するにしてもそれなりの金額が掛かりますよ?」
「あわわわ……」
「私たちの親も娘にひもじい思いをさせたくて送り出したいわけじゃないと思うの」
「あわあわあわあわあわあわぁ……!」
全くの正論を前に、神太郎は言い訳すら言えなくなった。
プルプル震えて、うんうん唸る。
どんなに腕力があっても金がなければ何も出来ないのが資本社会。
ハーレムとは顔と腕力だけでは成せないものなのだ。
……。
いや、それでも彼にはもう一つ武器があるではないか。
それは……諦めないという勇気だ!
彼はスタっと立ち上がってこう宣言する。
「ま、待ってろ。すぐに……すぐに飯の種の作ってくるからな!」
そして、そのまま新居を飛び出す甲斐性なし。呆気に取られた女たちは、ただただ顔を見合わせるばかりであった。
「そう言ったって、そんなすぐに作れるものなの?」
「まぁ、しばらく待ってあげましょうよ」
ルメシアの疑問にユリーシャは寛容に受け入れようと答える。ここはハーレム男の腕の見せ所というところか。
「それより、早速この家を見回ってみませんか?」
「そうね。私たちがああだこうだ言っていても仕方がないし」
その後、シャノンの提案に沿って三人はウキウキと新居を見回り始めるのであった。




