6.竜炎 / シャトルピジョン
今日中に5回更新します。
「……で? 大体の状況はなんとなく分かったけど、ちゃんと説明してもらおうか?」
撤退後、俺はとある洞窟の中でドラゴン娘と向き合っていた。一連の流れは何となく予想が付いていたが、当事者からも一応聞いておきたかった。
「まあ名乗りもせずに、っていうのもなんだな。……俺は改泉集。そこで横になってるのがグレイスで、彼女を介抱してるのがアテナだ」
消耗しきったグレイスはしばらく目を覚まさないはず。アテナも彼女に付いていてもらっているから、二人の名前だけ先に伝えた。後で改めて自己紹介することになるだろう。
「……フレイ、私の名前。……なんで? なんで私を……」
「それは“なんであの自称勇者から引き離した”か? それとも“なんで一緒に連れてきた”か?」
「……両方」
「そうだな。あんな明らかに返り討ちされそうなの見たら放置は出来なかった。向こうが手加減するとは思えなかったし、こっちとしてはアンタに聞きたいことがあったから、助けざるを得なかった……というわけだ。連れてきたのもそれが理由だな」
「……そうなんだ」
「そうなんだよ。ということで色々と質問させてもらえれば助かるんだけど……まあ大体の予想は付いてるし、答えたくなければそれで構わない」
フレイが小さく頷いたのを確認し、本命の――――そして恐らく諸々の事態の中心に関わるであろう質問をぶつけた。
「俺達はこの辺りに居るっていうドラゴンを探しに来た。それとフレイが無関係とは正直なところ思っていない。何があったか……教えてもらえないか?」
彼女は逡巡した様子を見せたものの、やがてポツポツと話し始めた。
「……シュウ達が探してるのは、私の父さんのことだと思う」
「そっか。……因みに、会わせてもらえたりは……?」
「無理、かな……。父さん、もう居ない……から」
それが『出掛けてる』とかそういう意味じゃないと想像するのは容易だった。
「犯人はあの勇者達だろ?」
そう聞くとフレイは小さく頷いた。彼女の声が湿り始める。
「あいつら、最初から父さんを狙ってた……。あんなの、あり得ない……。 父さんの爪も、牙も、炎も効かなかった……っ」
彼女の語気は次第に強く、言葉も早くなっていく。
「私のことも、“ついで”みたいに殺そうとしてきた……!」
彼女の手が震えているのは、恐怖のせいか、怒りの為か。
「私を守って、父さんは、父さんは……!」
言葉と共に彼女の呼吸は段々と荒くなり、体の震えも大きくなっていく。
「父さんは逃げろって言ったのにっ、私が思い上がったから……!」
「私が邪魔しなきゃ、父さんも死なずに済んだかもしれなかったのに!」
「私を庇って、あいつの剣が……父さんの身体も貫かれて!」
フレイが話すのは断片的な情報。それでも起こったことの凡そは伝わってきた。
「……もういい。ゴメン、嫌なことまで喋らせて」
半ば無理やりに彼女の言葉を遮った。尋ねた側が言うべきではないけど、語り続けるフレイの顔は、こちらが不安を覚えるほどに血の気が引いた色になっていた。八方手を尽くし、なんとか彼女を落ち着かせたところで、グレイスが目を覚ます気配があった。
「う……? シュ、ウ?」
「起きたか。良かった。体調はどうだ?」
「少し頭痛が。でも大丈夫だ。それより、あの後はどうなった?」
「ああ、あのままじゃジリ貧だったからな。彼女も連れて、大人しく撤退したってわけ」
全員が揃ったということで、改めて自己紹介をする。フレイの精神的な面を鑑みても、ここで一度仕切り直すのは必要なことだった。
◇◇◇
お互いに名乗り、フレイから聞いた情報をかいつまんでアテナとグレイスに伝える。それから今後のことについて話し合う流れとなった。
「いずれにしても、まずは街まで戻るべきなんじゃないのか?」
「ジスランさん達に報告する必要もあるし、そうしたいのは山々なんだけど。……多分、勇者連中もあの街を拠点に使ってるっぽいんだよなぁ」
昨日見かけた喧嘩のところで聞こえてきたあのセリフ。もちろん騙りの可能性は0じゃないけど、声の感じも本人だった気がする。
「連絡だけでも付けばいいんだけど、流石にスマホは通じないしなぁ……」
「マスター、それでしたらこちらを使うのはいかがでしょうか」
アテナが提示してきたものを、研究室から呼び出してみる。
「……鳥?」
手のひらサイズの小鳥の模型……に見える。例によって使い方はすぐに分かった。
「『シャトルピジョン』。要は伝書鳩のロボット……ファンタジーっぽく言えばゴーレムだな」
手紙を咥えさせてジスランさんのところまで届けようということか。
「あ、でもこいつジスランさんの顔とかちゃんと分かるのか?」
「私の記憶情報を元に認識させます。まず問題ないかと」
アテナの話の通りなら大丈夫らしい。簡潔に現状までの流れを手紙にし、シャトルピジョンに持たせて空へと飛ばした。
◇◇◇
「……おっ、帰ってきたな」
しばらく待っているとシャトルピジョンが戻ってくる。その嘴には持たせたものとは違う紙を咥えていた。
「手紙には何と?」
待つ間に体調を整えたグレイスが覗き込んでくる。
「やっぱり一度街に戻った方が良いって。門のところで合流しようってことなんだけど」
「さっきの連中と鉢合わせる可能性もあるだろう?」
「まあ、そればっかりはどうしようもないしなぁ。話の流れ次第では、むしろこっちから接触しないといけなくなるかもしれないし」
フレイが言っていた“ドラゴンを狙って”というのが少し気になる。会話できる相手だったって話だし、問答無用で攻撃するとは……いや、性格的にあいつら普通にやりそうだったな。
「グレイス、街まで戻る体力は?」
「これだけ休めば十分だ。道中は任せてくれ」
ヴァリュアブレットの具合を確かめて自信満々な顔を見せてくる。そこまで張り切ることもないだろうが……頼もしい。
「問題は……フレイ、来れるか? もちろん、あいつらと会っても手出しさせないって約束する」
ここでフレイを放置していくことは出来ない。少しばかり沈黙が流れたが、彼女は小さく頷いて答えを返してくれた。




