5.勇者 / 丘陵
今日4回目の更新です
「なんとなく危険地帯の荒野……みたいなのを想像してたけど、意外にのどかな所じゃないか」
目的の場所は、緑豊かな丘陵地だった。
「探し易いのは助かるな。しかし、どうやって探す?」
「手掛かりがあるわけでもないんだよな。アテナは何か知ってたりしないか?」
「……申し訳ありません。“幻獣”に相当するデータは確認できないようです」
アテナが検索できないなら研究室のデータベースにも無いだろうな。……けど、それは何かおかしくないか? 『侵蝕スル者』の伝承と幻獣がセットなら、全くの無関係ということはまず考えられない。伝承を残したのが研究室の元の所有者だとして、なんで研究室には幻獣関連の情報を残しておかなかったんだろう。
何かのリスクに備えて情報を分散させた……か? あり得なくはないけど可能性としては弱いな。
「まあいいか。当てが無いなら無いなりに、適当に散策しながら探そう」
見晴らしの良い草地を歩いてみたり、林の中で川の音を聞いてそっちに向かってみたりと思いのままにぶらついていたら、アウルシュッツェを装備していたアテナが何かに反応を見せた。
「マスター、向こうに何か居る……」
「ドラゴンか?」
「……そんなに大きくない。人間? でもちょっと違う?」
……? 要領を得ない説明だな。まあ行ってみれば分かる……か? アテナが止めないということはそんなに危険ってわけでもないんだろうし。
「アテナが言っていたのはこの辺りか?」
「みたいだな。さて、いったい何が居るのやら……と?」
川の流れに沿って上流の方へと歩いていく。
ほどなくしてアテナが感知した対象らしきものを発見。そして目が合った。
「女の子? いや、あれ、もしかして……」
草むらに座り込み、清流に足を付けていた女の子。だいたい高校生くらいな感じだけど、彼女には元の世界の人間、この世界で言うところの“オリジン”には無いパーツが見受けられた。
額から伸びた一対二本の角。そして背中に生えている1枚の片翼。それはまるで――――
「……ドラゴンか?」
そう言った途端、彼女の顔に強い恐怖の感情が浮かぶ。
「く、来るな……」
「え?」
「来るな……来るな、来るな来るな来るなぁ!!!!!」
「ちょっ!? なんだいきなり!?」
その娘は錯乱した様子で炎の塊を次々と撃ち出してきた。ドライバーを取り出す余裕も無く、咄嗟にガントレットシールドの障壁を起動させる。
「なんて威力だよ……」
「やはり彼女がドラゴンか? …………ってシュウ、マズイぞ! このままでは火が広がる!」
炎は闇雲に撃ち出されている。俺達に向かってくるのは全体の半分ほど。つまり、残りの炎が何に着弾しているかというと、林の木々や下草なんかだ。魔術で発生したとしても炎は炎。着火し、延焼し、いつの間にか障壁の外は火の海になり始めていた。
「早く消火しないと大変なことになる……!」
「分かってる! でもここで障壁を解いたら、それこそ一気に丸焦げだ!」
そもそもこれだけの火災を鎮火させる方法が……。
「アテナ! 研究室に使える道具は無いか!? 消火器とか人工降雨機とか、後その類いの魔法陣!」
「……検索結果は0です」
肝心な時に! 魔法系技術を先に研究しておけば……!
「どっちにしても障壁出している間は身動き取れないんだけどさ! ったく、いい加減に……あ?」
急に炎の雨が止んだ。まさかこっちの苦情を聞き入れてくれたわけじゃないだろう。術者本人も戸惑っている様子だし、魔力でも切れたか?
「とにかくチャンスだ。……グレイス、氷の魔術でどうにか火災を抑え込めないか?」
「この炎をか……。……よし、分かった。他に方法は無いのだろう? 出来る限りの手は尽くす」
「頼む。……無理言って悪いな」
思わず漏れた謝罪に、グレイスは軽い笑みで答えた。
「謝られるようなことじゃない。やるべきことを全力でやるだけだ。いくぞ……『アングストゥム・ニブルヘイム』!」
グレイスが地面に両手を着けると、膨大な魔力の気配が立ち上った。そして彼女を中心に氷が広がっていき、辺り一面を銀世界へと変貌させる。
「はぁ……はぁ……。火は、収まった……だろう」
息を荒くして、グレイスが地面から手を離す。すると氷は一気に砕け散り、林は元の姿を取り戻していた。
「自由自在だな。しばらくは氷結地獄かと思ったぞ」
「はは……これほど、全力を出したのは……初めてだ、が……」
文字通り、息も絶え絶え……って具合だ。これだけの事をやった代償としては大きいのか小さいのか。どっちにしてもグレイスには感謝しかないな。
「……さーて、これだけ無茶苦茶やったんだ。話ぐらいは大人しく聞かせてもらおうか」
「ひっ! や……やだっ! 来るな、来るなぁ……!」
火災も落ち着いたところで、改めて女の子に向き直る。もう魔術を撃つことも出来ないだろうに、必死な表情で腕を振り続けていた。なんかこっちが悪者みたいな感じさえしてきたな。
「来るな来るな来るな…………ぁ」
最終的に、その娘は糸が切れたように倒れ込んだ。
「……気絶してるだけか。ったく、何がどうなってるんだ」
「しかし……彼女が、ドラゴン……なのか?」
少し息を整えて、グレイスが尋ねてくる。角や翼といった特徴は確かにドラゴンっぽくはあるんだけど、なんかイメージと違うなぁ。
「なんにしても、放っておくわけにはいかないな。とりあえずどこか野営できるような場所を……」
――――探そう。と続けようとしたとき、草むらを掻き分けるような音と人の話し声が聞こえてきた。
「……ったくよぉ。こんなとこまで来たのに、さっぱり収穫なしだな!」
「仕方ねぇよ。こないだみたいな大物なんてそうそういないって」
「それはだけど、他のやつだって全然出てこないじゃーん! 無駄足とか最悪なんだけど!」
「案外オレらにビビって出てこないとかだったりしてな! ん……?」
気付かれたか。現れたのは男2人と女が1人。
「なんだオマエら? ってオイオイ! あれこないだ逃がしたヤツじゃね!? オマエらなに横取りしてんだよ!」
「いや、いきなりそんなこと言われても……。何の話だ?」
「惚けんなよ! そいつだそいつ。そこの人間モドキのことだよ!」
リーダーらしい男が指しているのは、例のドラゴンっぽい女の子だった。
「オリジン至上主義者か。揃いも揃ってふざけたことを……!」
グレイスが吐き捨てるように言う。彼女がこれだけ嫌悪感を露わにしているのは初めて見たかもしれない。
「うっわ何あれ狼? あれも狩って良いやつ?」
「良いんじゃね? あーでも後ろのは両方ダメそうだな。メンドくせぇ」
言葉は通じるが話は通じないって典型例だな。勝手なことをベラベラと……。
「なあ、おたくらの主義主張とか知らないけどさ、ちょっとは話し合おうとか思ったりしないわけ?」
男達はそれに答えず、何故か急に笑い出した。
「ぶはははははっ! NPCのクセに説教とかマジウケる! こちとら勇者様だぜ? 好きに振る舞って何が悪いって話だよな!」
「ホントそれな。めっちゃウケるわー」
「あ! あたし思ったんだけど、コイツもヤっちゃっていいんじゃない? あたし達ってなんか偉いっぽいし、揉み消しとか出来るっしょ」
こいつらが例の勇者ご一行か。この短いやり取りで、よくここまで殺意煽ってくれるわな。いっそ感心するわ。後もう一つ、彼らの言葉から分かったことがある。
「見た目でなんとなくそうじゃないかと思ってたけど、NPCとか勇者とか……お前ら日本人だろ」
「……は? え、何? もしかしてお前も? えぇ……なんか萎えるわぁ~。……でもそれなら話は早いか。なぁ、そこの2匹オレらに譲れよ」
「断る」
ノータイムでそう答える。当然だろ。
「はあ? 何言ってんの? オレら勇者なんですけど? オマエらみたいなザコと違って、力も権力も持ってんの。逆らうとかバカじゃねぇ?」
「力とか……。そういうのは関係無いんだよ。お前らの考え方とか言動とか、とにかく全部が気に入らない。要求突っぱねるには十分だろ」
一触即発の空気になる。沈黙を破ったのは、勇者パーティーの女の動きだった。
「もうメンドくさいなぁ!」
女が持っていた杖を振るうと、猛烈な風が巻き起こる。何かが来ると分かっていても、咄嗟には対応できなかった。
「なるほどそりゃ早いな!」
こっちが隙を晒したタイミングで、残りの2人が斬り掛かってきた。
「セット! ……ったく、ホントに自分勝手だな!」
マニスタルソードでリーダー格の剣を受け止める。もう一人の方のナイフは、ウルスファウストに換装したアテナが腕の装甲で防いでいた。
「ハッ! こっちは勇者だそ? 好き勝手して何が悪いんだよ!」
「オーケー。お前ら、俺の嫌いなタイプだな。よく分かったし、遠慮する気も完全に失せたわ」
穏便に済ませるのは無理そうだ。一度距離を取って互いに向き合う。とは言え今はこっちの状況があまり宜しくないな。ドラゴン娘を守る必要があるし、なにより大技を使った直後でグレイスの消耗が大きい。
「グレイス、その娘に付いていてくれ! アテナはあっちの魔術師を先に仕留めろ!」
「あ、ああ。……済まない」
「了解。マスターこそ1対2で大丈夫?」
「現状じゃそれしかやりようがないって。……変身!」
――――Setup! Type-Braver!
次は16:00に更新します




