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5.勇者 / 幻獣

今日3回目の更新です

 そうして到着したのは、城壁に囲まれた都市だった。現実に見ると城塞都市って威圧感ハンパないんだな。

 ジスランさんの身分もあって、確認もそこそこに通行許可が出る。別の門に伸びる行列を見た感じ、本来はもっと確認に時間が掛かるのだろう。

 馬車は街中を進んで行き、とある建物の前で止まった。周りのものより明らかに大きく、それでいて格式高い様に感じられる。


「私が贔屓ひいきにしている宿です。色々と良くしてくれるので……重宝してますよ」


 ジスランさんの先導で建物に入ると、大勢の人が左右に並び、かしこまって出迎えをしていた。ジスランさんとソフィさんは慣れてるだろうから良いとして、アテナも全く普段通りの調子だな。場の空気に飲まれているのは俺とグレイスさんだけか。


「お待ちしておりました、ジスラン殿下。また私共の宿をご利用して頂き誠にありがとうございます」


「今回もお世話になります。部屋は……どうしましょうか? 一人ずつ個室にします?」


「えっと……二人はどうする?」


「マスターと同じ部屋で。マスターがお嫌でしたら、研究室で待機いたしますが」


「私は、個室にすべきなんだろうが……このグレードの宿で個室か……」


 完全に気後れしてる……。いや気持ちは凄く分かるけど。


「3人、相部屋で」

「……すまない」


 まあ、最悪アテナの言うように研究室で寝泊まりすれば良いんだし。


「畏まりました。すぐに準備いたします」


「今日は日も落ちてきそうなので、明日から動くことにします。それまでは皆さんどうしますか?」


 どうしよう。部屋や研究室にこもるのもありだけど、せっかく異世界の街なんだし見て回りたい気持ちもある。日が落ちるまでなら、ちょっと歩いてきても大丈夫かな。


「しかしお客様。この街はあまり観光に向いた地点はございませんが」


 宿の人はそう言うけど、異世界の街、しかもテーマパークとかじゃなくて本物の。最高の観光地じゃないか。


「いえ、むしろそれぐらいが良いんです」


「シュウさんも物好きな……ああ、そういうことですか」


「はい。地元にはこんな街並みはありませんでしたからね」


 ジスランさんは納得してくれた様子。宿の人も不思議そうにはしてたけど、そもそも止めようとしてるわけじゃない。今日の予定は都市観光ということに決まった。


◇◇◇


「……で? アテナはともかく、グレイスも付いて来て良かったのか? ただ歩くぐらいしかしないつもりだったんだけど」


「あの場所に居たら息も詰まりそうだったからな。そもそも王族と同じ空間なんて緊張して仕方ない。シュウはよく平気でいられるな」


 日本じゃ王だの貴族だのに接する機会はほぼ無いからなぁ。その辺の感覚はやっぱりズレてるかも。


「生まれの違いと言えばそれまでなんだろうなぁ」


 そんな感じになりながら、街の風景や市の品物を見て歩いた。“らしい”体験が出来て大満足……だけど、回っている内に少し気になったことがあった。


「まだ見られてるけど、何かしたっけか?」


 ずっと視線を向けられている気がする。ただ、その内容はバラバラな感じだ。興味、嫌悪、驚愕や欲望、それと……敬意?


「とりあえず……目立ってはいるよな、間違いなく」


 まず、メイド服姿に加えて文字通り人形じみた美貌のあるアテナ。そして単純に美人というだけでなく、かなり珍しい容姿をしているらしいグレイス。一通り歩いてみて気付いたけど、彼女のような完全に獣の顔をした姿の人物は一度として見ていない。獣耳と尻尾だけ、みたいな人は少なからず見掛けるんだけども。


「この姿のことか? 私自身よく知らないんだが、獣人の中に極々稀にそういった者が生まれてくる……らしい。しかし自分以外には会ったこともないからなぁ。御伽噺や神話の類いなら色々とあった気もするが」


 よく分からん話なのは分かった。


「マスター、そろそろ宿に戻ることをお勧めします」


「もうそんな時間か。さて……ん?」


 すぐ近くから喧騒が聞こえた。


「喧嘩か? なかなか激しそうだな」


「このまま行って、もし巻き込まれたりしたら面倒だな。回り道しよう」


 そう判断し、立ち去ろうとしたところで、ふと聞こえてきた言葉が少し引っ掛かった。


「ハッ! “勇者”様に盾突くからそういうことになるんだよ! 分かったら大人しく――――」


◇◇◇


「“勇者”ですか。確かクヴァレ教団が喧伝している3人組のことですね。来歴は不明なものの、圧倒的な戦力を持っているとか……。その武勇と同じくらい、素行の悪さも聞こえてきますけどね」


 なんともきな臭い感じはするな。出身者不明でポッと出の強者。異世界転生した(or召喚された)日本人っぽい、なんて考え過ぎか。


「その件は一旦置いておきましょう。それでこの街に来た目的なんですけど、この地点に向かってもらえませんか?」


 ジスランさんは手元に広げた地図の一点を指して言った。


「どういう場所なんですか?」


「一言で説明するなら『幻獣の生息地』でしょうか。幻獣というのは、魔物の中でも特に強大な力を持ち、それでいて意思疎通が可能な存在のことです。有名どころだと、ユニコーンやフェンリル、それに一部のドラゴン辺りですね。『侵蝕スル者(イロウシェン)』の伝承の中で頻繫に触れられているので、何か関係があると踏んでいるところなんです」


 へぇ……。それは興味深い話じゃないか。対『侵触スル者』の面でも、単に趣味的な面でも、ぜひ行ってみたい。


「分かりました。行ってみます。それで、何をしてくれば良いんですか?」


「この付近でドラゴンが目撃されているんですよ。会話が成立したという話もありまして、以前より確認しようとしていたんです。シュウさんともこうして出会えたことですし、絶好の機会だと思いまして」


 『侵触スル者』への対策が一気に進められるかもしれないというわけだ。ドラゴンと会話できたら……考えただけでも心が踊るなぁ。戦闘になるかもしれないけど、それはそれで良い。


「つまり、そのドラゴンとコンタクトを取って、場合によっては対『侵触スル者』の協力を打診する……という感じですね?」


「そこまで上手く行くかは分からないですけどね。戦闘になる可能性もあるから、生半可な部隊じゃ確認に向かわせることも難しいんですよ」


「そこで私達の出番……と」


「そういうことですね。なんにせよ出発は明日ですから、それに備えて今日は休んでおきましょう」


 そして夕食を楽しんでから、それぞれの部屋で就寝することになった。相部屋だけど、特に何も起こりませんでした、まる


◇◇◇


「ううん……」


 翌日、宿のホールに下りていくとジスランさんが難しい顔で1枚の紙に目を通していた。


「何かありましたか?」


「ああ、シュウさん。おはようございます。実は今こんなものが届きまして……」


 ジスランさんの持つ紙には何かの文章が書いてあるようだった。どうやら手紙のようだ。


「懇意にしている商会からの物なんですが、何でも早急に面会を求めているとかいう話なんです」


「早急に……。ということは、ドラゴンの探索は明日以降になりますか?」


「そうしたいところなんですけどね。スケジュールを考えると使える時間はあまり多くないんですよ。それで、シュウさん達が良ければなんですけど、先行して向かってもらえませんか?」


 ジスランさんから出たのはそんな提案だった。


「もちろん万一の事が起こったときに危険になるのはシュウさん達なので、強要するつもりはありません」


「それもありか……。2人はどう思う?」


「私はマスターの指示に従います」


 アテナの反応は予想通り。グレイスは――――


「行っても良いんじゃないか? 絶対に戦闘になるわけじゃないし、そもそも、ドラゴンが相手になるなら5人も3人も大差ないだろう」


 それもそうか。ドラゴンだもんなー。ワイバーンとかワームじゃなくてドラゴンなんだもんなー。

 妙な納得感を得たまま、ジスランさんから地図を受け取り、ドラゴンの住むらしき地に向かって出発した。

次は13:00に更新します

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