5.勇者 / ブレイバー
今日2回目の更新です
翌日のこと。出発の為に準備を進めていると、ソフィさんからとある申し出があった。
「手合わせ……ですか?」
「はい。古き伝承に語られる、異世界からの来訪者。『侵蝕スル者』に対抗できる力というのをこの身に受けてみたいのです」
伝承に見合うほどの力があるとは思えないけど……。でも模擬戦というのはアリだな。改良したマギアドライバーのテストにもなるし、この世界の戦力がどのくらいなのか、測る指針も立てられる。
「分かりました。ご期待に沿えるかは分かりませんが、精一杯努めさせて頂きます」
手合わせの舞台は村外れの広場。程よい広さで、万が一のことがあっても村に被害は出ないはずだ。
「全力で来てください。武具も、技も、です」
ソフィさんは既に全身鎧と両手剣を装備して待っていた。彼女ただの従者って感じじゃないよね?
「それじゃあ、お手柔らかにお願いします」
――――Magia Driver Standby.
前回の戦闘を受け、マギアドライバーには改良を加えた。外見的な変化は、右ハンドルが撤去され、代わりにとあるものを装填するスロットが設けられている具合だ。
ただ、その中身は大分変わっている。戦闘補助の基幹となる魔法陣を残し、装備の生成や制御といった外部に関わるシステムは別の物に移してあった。
スマホ、というか電子書籍を参考に製作した電子魔導書。Gモバイルと命名した。
――――Braver! Magic Particle Dispersion.
展開された障壁の中で、Gモバイルを起動し、バックルに装填する。
――――Magia Base Cloth Put-on.
微小金属体――――更に洗練させて、もはやナノマシンと呼んでもよさそうなそれの集合体が、一枚布のような形でバックル中心から正面に広げられる。被さるような形で体が包まれて、全身を覆うタイプのボディスーツとして定着した。
――――Mana Solid Armor creation.
ハンドルのトリガーを引いて、装甲形成のシークエンスに入る。切削用のレーザーはスーツの表面から照射される形に変更した。これは切り出した装甲を装着するときのトラクタービームとしての役割も果たす。装着時の速度調整もして、負担はトライアル版より大きく抑えることに成功した。
「……変身!」
――――Setup! Type-Braver!
「……お待たせしました。手合わせ、お願いします」
装甲の配置はより効率的に。一つ一つの密度もより高く。防御力と動きやすさの両立を求めた基本形態、ブレイバーアーマー。
「それが異世界の防具ですか。なるほど、強い力を感じます。それでは……始めてもよろしいですか?」
「ええ、よろしくお願いします」
そう言った瞬間、ソフィさんの姿が消える。動きを捉えたときには、ソフィさんの両手剣が目前に迫っていた。斬撃の軌道は直線的。右足を引いて体を逸らし、ギリギリのところで回避した。攻撃後には大なり小なり隙が出来るはず。半身の姿勢から、上段の回し蹴りで彼女の胸を狙う。そして狙った通りにソフィさんは大きく吹き飛んだ……が、手応えが明らかに軽い。自分から後ろに跳んで衝撃を逃がしたか。
「……お見事です」
「ソフィさんこそ。従者って感じじゃないですよね?」
「いえ。私はあくまで従者です。しかしジスラン様に仕える人間であれば、あらゆることに通じていなければいけないので」
“通じていなければ”であんな瞬間移動じみた踏み込みが出来るんですか……。しかもそんな重装備で。
「では、もっとその力を見せて頂きましょう!」
動きの速度はなんとか目で追える感じだけど、両手剣で連撃かい! 回避に集中し、装甲を使った“捌き”も入れて躱し続けるが、流石に限界が来る。次のはちょっと避けられないか。
「……そんな物まで隠していたのですか?」
ドライバーやGモバイルには圧縮空間を使った格納スペースがある。今回取り出したのは、上半身の殆どをカバー出来るサイズのラージシールド。一応、ブレイバーアーマーの基本装備に位置付けている。
「全力で、ということなので。ちなみに、こういうのはどうですか?」
――――Magia Blade-Gun Standby.
以前使ったライフルは、遠近両用のマルチウェポンとして完全に別物と化している。射撃性能は順当に強化しつつ、銃身下部に近接戦闘用の刃を追加した。
「弓でも、魔術でもない……? なんですか、この攻撃は!」
まずは射撃で牽制を試みる。ドライバーを使っている今なら片手で扱うことも可能。シールドは構えたままフルオートで発砲した。模擬戦用の超低密度魔素結晶弾に設定してあるから、決定打にはならないはずだ。
「今度はこっちから行きますよ!」
牽制を続けながら、ソフィさんとの距離を詰める。
――――Turn to Blade!
接近戦のレンジに入る直前でマギアブレイガンを変形させて斬り掛かった。さっきのソフィさんほど一方的とはいかないが、今度はこっちが押せている。何度か剣戟を繰り返し、鍔迫り合いに持ち込まれ、互いに動きが止まった。
「想像以上に素晴らしいですね。あなたの力を疑ったこと、お詫び申し上げます」
「それはありがとうございます。正直自分でもビックリしてるぐらいなので。もっと精進するつもりです」
言葉を交わし、再び距離を取り、これで終わりになるかと思ったところで、ソフィさんから声を掛けられた。
「最後に一つ。私の一撃を受けて頂きたい。全力を込めた最大の技を――――」
ソフィさんは両手剣を、剣道で言うところの上段に構えている。魔力が収束し、実体を遥かに越える巨大な刀身を形作っていた。あれが振り下ろされるわけか。確かに全力だ。……それでも、真っ向から相手することを選んだ。ドライバーのハンドルに手を掛ける。
――――Finisher Program Activate.
「参ります。王国流魔術剣技『ニーズヘッグ』!」
「ではこちらも!」
――――Braver - Strike!
ドライバーを操作することで一時的にアーマーの出力が上昇する。攻撃の強化や機動性の向上など、出力の配分調整によって出来ることは多岐に渡るが、今回は最大出力の一撃で決めたい。
ソフィさんの技に対抗できるだけの力。パワーを集中させるのは右足だ。勢い良く駆け出して、魔力の塊となって迫ってくる両手剣に跳び蹴りを放つ。こうなると、剣とキックというより、2つの膨大なエネルギーのぶつかり合いだ。しばらく拮抗を続け……そろそろ頃合いかな。軽く横向きに衝撃を加え、ソフィさんの攻撃を後ろに逃がした。もちろん村の方に行かないよう注意して。更にその反動を以てソフィさんの背後に着地する。
「……完敗です。あそこまで簡単にいなされるとは思いませんでした」
「いえ、あのまま打ち合ってたら、きっとこっちが押し負けてましたよ」
色んな意味で苦肉の策だった。ソフィさんの技がどれだけ続くか分からなかったから、場合によってはドライバーの過負荷や魔力切れが起こる可能性も十分にあったからだ。
そんなふうに装備を整えたり、本題となる転移陣の設置をしたりと準備を進め、いよいよ出発の日になった。
「王都まで直接……と行きたいところですが、途中の街の近くで、先に確認しておきたいことがあるんです。まずはそこへ向かいましょう」
移動手段は馬車か。散々好き勝手してきた上で言うのも何だけど、こういうファンタジーっぽいのは凄く良いな。ちなみに御者はソフィさんだった。マジで多才な人だな……。
次は10:00に更新します




