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3.災禍の森 / 群狼

「人に見えなくもないが……魔物だな」


「ん。E型の反応もあるし間違いない。……かなり強い反応」


「アテナがそう言うなら、そうなんだろうな。来るぞ!」


 魔物の腕が前に伸びる。


――――キキッ


 そいつが小さく笑ったような気がした。


「全力回避!!!」


 魔物を円状に取り囲むように伸びた何かが、鋭利な先端を向けて襲ってきた。蛇の魔物を葬ったのと同じ物だろう。厄介なことに柔軟さもかなりのもので、こっちの細かい動きにも対応してくる。


「やっべ……ちっ、障壁起動! 2人共、俺の近くに!」


 攻撃の密度が高過ぎて全部を回避するのは困難だ。シールドの魔法陣を最大出力で発動し、半球状の障壁を展開する。障壁の表面が全方向からの攻撃で覆い尽くされた。


「これは……だいぶ太いが、蔦か? いや、樹……なのか?」


 障壁の中からは攻撃の正体が見えていた。鞭のように柔らかくしなっているが、外見はゴツゴツとした樹皮のようだ。


「どっちでもいいけど、このままじゃ割られるかも」


 強い衝撃が加わり続け、障壁にはヒビが入り始めていた。アテナに言われずとも、その結果は余裕で予想できてしまう。


「くそっ……」


 障壁を小さく縮め、スペースが狭くなるのと引き換えに強度を上げる。もっとも、せいぜい焼け石に水な程度だけど。


「そろそろ限界だ!」


 障壁の全てにヒビが回り、割れるのも時間の問題となったとき、伝わる衝撃が不意に止んだ。


「……何とかなったか?」


 魔物の姿は消えていた。どうやら諦めてくれたらしい。


「とは言え放置するわけにもいかないな。アテナ、何度も悪いけど、辺りを探ってくれないか」


 しばらくしてアテナが調べた結果が出たが、それはとんでもない情報だった。


「……さっきの魔物、村の方に向かってる」


「なんだって!? ならすぐに戻らないと!」


 グレイスが焦るのも無理はない。しかし、アテナの情報はそれだけじゃなかった。


「それだけじゃない。E型の反応がこっちに近付いてきてる。20体以上」


「おいおい、いくらなんでも多過ぎだろ……」


 と、愚痴っていても仕方ないか。村をほっとくわけにはいかないし、かと言って移動中に襲撃されるのも危険だ。ここは――――


「手分けするしかなさそうだな。済まないが、私が村の方に向かっても構わないだろうか?」


「確かに、それが1番いいだろうな。さっきのヤツは何かヤバい感じだったから、くれぐれも気を付けて」


「分かっている。あんな得体の知れないもの……まともに相手しようとは思わないさ」


 互いの無事を祈りあって、それぞれの相手に向けて動き出した。数だけならコッチの方が危険だけど、グレイスの方も何か胸騒ぎがするのは気のせいか……。

 それを抑えつつ、アテナの先導で目的の魔物の近くまで移動した。


「あれか。狼っぽい魔物だな。じゃあ群れるのも当然……なのか?」


 例によってもやまとってるが、見た目は地球にいる狼とあまり変わらないように見えた。

 狼の顔と言えばグレイスもそうだけど、魔物の方は彼女より人相が悪い――――ような気がした。


「2人同時に仕掛けても、数的には意味が無さそうだ」


 魔物の群れは整然と列になり、同じ方向に向かって進んでいる。


「左右から挟み込んでみるか? アテナはどう思う?」


「マスターが決めたなら、全力でサポートする」


「そうか。じゃあそれでいこう。アテナは右に回って奴らの注意を引いてくれ。俺は左から奇襲する」


 方針を決めて散開する。草むらに身を潜めていると、魔物がいる辺りが騒がしくなった。アテナが攻撃を始めたようだ。


「さてと、こっちも始めるとするか」


 弓を手に取り、魔物に向けて狙いを定める。これは前に使ったのと同じモデルだ。多少の整備はしたけど本体の性能に変わりはない。


「まず……1つ!」


 隙だらけの魔物を1匹ずつ狙撃していく。狙いどころは、本来なら心臓がある辺りに存在する魔物のコア

 今更ながら、魔物を倒すためのアプローチには2種類ある。

 1つは、傷を与え体内の魔素マナを漏出させることで魔物の体を崩壊させる方法。もう1つは、単純に魔物のコアを破壊する方法。

 前者は、時間さえ掛ければ何とかなる持久戦じみたパターン。後者は、魔物の懐に飛び込む勇気と核を狙う精密さを必要とする短期決戦パターンだ。


「チッ……流石に百発百中とはいかないか」


 何度かの射撃で、まずは4匹だけ仕留めた。反対側では数匹がアテナによって沈黙させられたようだ。

 しかし、一方的に攻撃できる状況も、そう長くは続かなかった。


「立て直しが早いな。……あの個体がリーダーか?」


 一回り大柄な魔物を中心にして円陣を組むように動いていた。それにつれて、こっちの射った矢に対しての防御も行うようになってしまう。こうなると隠れながらの射撃は効果が薄くなる。そのうち、こっちの位置も特定されるだろう。


「なら……リーダーを抑えるのが先か」


 魔物達の陣形の隙間を狙って、リーダー個体に向けて弓を引き絞る。放たれた矢は一直線に飛び、狙い通りに到達した――――


「……やるな」


――――が、リーダー魔物は体に突き刺さる直前の矢を叩き落とした。そして、魔物達はこっちを注視するようになった。今の一射で位置がバレたらしい。


「潮時か……セット!」


 もう隠れているのは難しい。そう判断して接近戦に切り替えた。


「っしゃおらぁ!」


──ガルルッ! ──ウオォォン! ──ガフゥゥ!


 次々と魔物が飛び掛かってくる。一匹一匹はそんなに強いと感じないが、連携の取り方が上手くて厄介だ。


「マスター……危ない」


 気付かぬ内に近くに来ていたアテナが、死角から来た魔物を迎撃してくれた。今のは正直危なかったな。


「大丈夫……?」


「スマン、助かった」


 続けての牽制射撃で魔物達が距離を取る。少しだけ、打ち合わせの時間が稼げた。


「やっぱアレ使うか……」


 スマホ経由で取り出したのは、ファンタジーの世界には似合わない兵装。ミリタリーというよりSFチックなライフル銃。


「どこまでちゃんと使えるか分からない。フォロー頼めるか?」


「当たり前……、私はマスターの力になるのが最優先だよっ!」


 アテナはルプスリッターに換装し、そう答える。ホントに有り難い。ちゃんとマスターらしく振舞えているか、不安になってくるぐらいだ。


「ありがとう。……攪乱を頼む。こっちも注意するけど、魔物と俺の間には入らないように気を付けてくれ。弾道の安定性に自身がないんだ」


「了解! 気を付けるけど、マスターも私のこと撃っちゃダメだよ!」


 そう揶揄からかうように言って、アテナは魔物の方に向かっていった。

 彼女は攻撃を繰り返しながら魔物の周りを回っていく。彼女に反撃を加えようとしつつ、魔物達はこっちへの注意をも怠っていない。だが、弓とは威力も弾速も桁が違う。


「3点バースト、発射!」


 1トリガーで3連射、魔素結晶マニスタルの弾丸が吐き出される。魔物達の警戒を潜り抜け、その内2体へと命中、片方はコアを砕き消滅させた。


「思ったより当たるな。嬉しい誤算だよ、っと!」


 更に発砲を繰り返す。こっちの脅威度が上がったからか、魔物達の注意は更に分散され、アテナの方でも撃破が進んでいった。


「このまま終われれば楽だったけど……そう上手くはいかないか」


 流れを変えたのは、やっぱりあのリーダー魔物。


「ったく! 割り切り良すぎだろ!」


 群れは殆ど壊滅状態。撤退しようにも、後ろから撃たれるかアテナに斬られるかに終わると分かっているのか、逆にこちらへ向かってきた。周りの魔物達に指示を出すことも止め、単騎で襲い掛かってくる。


「この距離でかわすって!?」


 近付かれたところで銃撃したが、ものの見事に回避されてしまう。お返しとばかりに爪が振るわれ、ギリギリのところで鼻先を掠めていった。


「危ねぇ……。そりゃ防御面ガバガバだもんな……」


 近接戦か。ライフルを投げ捨て、マニスタルソードを抜き構える。

 リーダー魔物は俺を仕留め損なったことに苛立ちを覚えたらしい。不機嫌そうな唸り声を上げ、今度は飛び掛かってきた。ある意味、チャンス。上手く狙えるか……?


「こ、こ、だぁぁぁぁ!」


 マニスタルソードの出力を最大に上げ、リーダー魔物の勢いも利用させてもらい、全力で剣を振り下ろす。予想以上の大成功。身体の中央に大きく斬撃の跡を刻まみ込まれ、リーダー魔物は魔素に還元されていった。


「マスター、こっちも終わったよ!」


 一息ついていると、残りを全滅させてアテナが戻ってきた。


「お疲れ。早速で悪いけどグレイスが心配だ。早いとこ合流するぞ」


「了解! 急がないとね!」


◇◇◇


 その頃、グレイスと、彼女が追っていた魔物の戦闘も決着が付いていた。


「あ……あぁ……、ま、て…………、村……皆…………」


 大樹にもたれ掛かるようにしているグレイス。短剣や服、装備の全ては原型を留めないまでに破損し、彼女の四肢は左腕を残して全てが失われていた。

 その前に立ち、ニヤニヤとあざけるように笑う魔物。勝敗の行方は明らかだった。

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