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#05 神様、バースデーだそうです

 7月に入って3日、千代紙を使った七夕飾り制作に勤しんでいました。我が家ではパパさんが頑張って本物の笹を手に入れてくれるので、七夕飾り職人の私がでこれーしょんします。夏のクリスマスツリーなイメージです。

 2年前までは飾りも含めてパパさん達が用意してくれていたのですが、ハサミが解禁された去年から私が担当になってます。園でも、家でもチョキチョキ。提灯飾りやら星やらあみ飾りやら、どれも簡単なものばかりで失敗もなく楽しく量産してます。


 今日も今日とてせっせと飾りを制作していたのですが、


 「つぼみちゃーん。真琴くんからお手紙届いてますよ」


 『しょうたいじょう』


 出動命令が出ました。


 片仮名、平仮名を駆使して黒一色で書かれた文字は、大きく、歪んでいて一生懸命に書かれたものだとよく分かります。

 その内容は、たぶん「誕生日パーティがある。めんどうだ。本も読めずにたくさんの人の相手をしなければいけない。つぼみ、お前の出番だ、盾になれ(CV:私)」意訳するとこういうことかと思われます。そう、意訳です。当然文面にはほぼ推測した内容を掠っていない文字が羅列しています。でも何故でしょう。聞こえるんです。相変わらずお友達とは。と問いたくなる副音声が。

 だって、あの真琴さまが「一緒に過ごして欲しい」なんて本心で思って書くと思えません。きっと中身を美琴さまに見られることを考えたか、見られている傍で書いたのでしょう。

 えぇ、名探偵春宮つぼみは騙せませんよ!!


 めんどうくさげな匂いがぷんぷんします。私は声が出ませんし、文字は読んで頂けず、同年代の皆様には舐められがちなのです……公園デビューでは酷い目に遭いました。でも、その後すぐにしょぼくれていた私に気付いた、小学5年

生のお姉さんお兄さんが遊んでくれたので、大満足の公園デビューでしたが。彼らにはそれからも定期的に遊んで貰っています。今ではすっかりドッチボールのプロですよ!! ……避ける専門ですが。



 閑話休題(それはさておき)



 お断りしたい所ではありますが、寝落ち後にタオルケットを掛けてもらった数は数知れず。されど、お返しする機会は一向に来ず。……もしかしなくともここがお返し所なのでは、と思うわけです。タオルケットの御恩、ここで返そうぞ!!

余談ですが。最近のマイブームは時代劇です。『闇夜のブルース』、『共犯者』ブームは真琴さま共々去りました。私達子供の興味というのは移ろい易いのですよ。乙女心程ではないにしても、子供心は難しいのです。



 私は了解の返事を千代紙にしたため、お星さまを折ってお届けしました。形式ばったお返事は母さまがしてくれるので、折り紙のお返事というのも中々趣があるのではと、やってみたところお母様からOKがでました。

お母様のお手紙の封筒に同封してくれたそうです。七夕飾りの制作中の事だったので、広げていた千代紙の中でもお気に入りの模様を選びました。鶯色のベースに金箔の混じった薄い和紙が重ねてあり、さらに小花が散らされていてとても可愛いんです。ちょっと勿体無い気もしましたが、お誕生日を迎える真琴さまには特別です。



 それからは慌ただしい時間が過ぎました。真琴さまへのプレゼント選び、ドレス選び、靴、ヘアサロン、マナーの確認。慣れないことの連続にくたくたです。

 翠川グループ一人息子としての交友関係……次世代のコネ作りの場ともあり上流階級の皆様がいらっしゃいます。一方こちらは社長秘書と大手企業の中間管理職の娘、裕福な方ですが彼らからしたら庶民も庶民。場違いの格好になってしまわないようにするのは勿論。両親にも恥をかかせるわけにはいきません!

 くたくたでも頑張ります。恩返しも楽じゃありません。



 さてさてそうするうちにやって参りました当日、七夕ですよ。


白いワンピースに合わせた白い靴は履きなれない私のために柔らかい素材を選んで貰いました。お腹は淡い若葉色のリボンが巻かれ、後ろでふわふわしたお花のコサージュで留められている。余ったリボンがヒラヒラして可愛いです。リボンから下のスカート部分はレースで覆われた二重構造になっていて、お花の刺繍が散らされています。髪の毛はいつかの美琴さまにして頂いたようにふわふわに弄られ、控えめなリボンの付いたレースのヘアバンドカチューシャで留めている。

 スケッチブック(相棒)も表紙、裏表紙ともに若葉色のリボンをワンポイントに白いサテンのカバーがかけられパーティ仕様になっている。さらに、同じ若葉色のリボンでカバーとペンが結び付けられており、使わない時は表紙裏のポケットに収納しておける優れものだ。


 このように、格好だけなら、母様とヘアスタイリストさんのお陰で恥ずかしくないものになっているかと思います。……思いたい。

 あとはいかに私が食欲を抑え、ビビらずお淑やかにキメられるかにかかっています。いざ出陣。両親に恥をかかせず、友を人波からまもるのです!!



**



 「よし、つぼみ。復習だ」


 会場を前にパパさんが屈み、私の視線に合わせる。


 「どんな理由があろうと知らない人には付いて行かないこと」


 こくり。はい、絶対に知らない人について行きません。


 「困った時はすぐにパパかママを探すこと」


 こくり。わかりました。私が頷くのを見て、「翠川さんとこの坊ちゃんはつぼみを連れ回すだろうから、ずっとパパ達が一緒って訳にはいかなそうだからな」と苦笑い。よく分かってらっしゃる。

 そうです、私には真琴さまの盾になる任務があるのです。しかし、万が一にも何かあった場合は事が大きくなる前に救難信号を出す所存です。私はできる子ですよ!!


 「つぼみはなんだかんだ賢いから、俺は心配してないんだがな。ママが心配そうにしてるからなるべく目の届く範囲内にいてくれよ?」


 ……こく、り。善処します。


 「さて。今日も1等可愛いぜ、ママはマナーとかどうこう言っただろうが、せっかくなんだ。美味しいもんいっぱい食べてこい」


 !! わかりました! 任せてください。美味しく頂いて来ます!! 思わず興奮して何度も頷くと、パパさんはくしゃりと私の頭を撫でてくれました。えへへ……あっ、でも、ちゃんと自重はしますよ!


 「直之さん、つぼみちゃん、お待たせしました」


 「おかえり。楽しかったかい」


 ご友人に捕まっていたお母様が、少し早歩きで戻ってきました。あまり会えない方らしく、つい盛り上がってしまったのだとパパさんから解説が入ってましたので、差程気になりません。……むしろ。お母様のキラキラとしたお顔を見ると友人とは素敵なものだと、感じました。


 「それじゃあ、行こうか」


 お母様は差し出されたパパさんの手にそっと手を重ね、私はお母様に手を引かれ。いざゆかん、戦場へ!!


 煌びやかな会場の奥にできた人だかりがすぐに目に付き、すぐに真琴さまの居場所に察しが着いた。私がピクリと反応したことに気付いたお母様は。


 「大丈夫よ、つぼみちゃん。きっと喜んでくれるわ」


 怖気付いたと勘違いしたのか、そっと微笑んで励ましてくれた。私は抱えたプレゼントをキュッと抱きしめ、気合いを入れる。

 気張るのです、私。風邪を引かずに済んだのはひょっとしたら真琴さまのおかげかもしれません。寝落ちの関係で複雑な体制での睡眠でも寝起きスッキリなのは、真琴さまが貸して下さったクッションのおかげかもしれません。確かに真琴さまにはあまり友情を感じませんが、確かにあれは真琴さまの優しさなのです。それならば、私だって何か彼のためにひと肌脱がねばなりません!!



 「つぼみ!!」


 挨拶に伺う前に先に気付かれました。スタスタと早歩きでこちらへと突き進んできます。周りの子達は置いてきて良かったのですか。とりあえず、にこっと笑って軽く会釈をしたのですが、キッと睨まれてしまいました。やはり私達に友情はないのです悲しい。

……冗談です、半分くらい。

遅かったですか、すみません。


 いつもの3割増で不機嫌そうなお顔でしたが、私の両親の存在に気付くと、はっとしたように表情が他所向けに変わりました。流石です。


 「こんばんは、春宮さん。おいそがしい中、今日は僕の誕生日を祝いにきていただきありがとうございます」


 おぉ……初めて見ましたが、これがあなたの本気モードなんですね。流石5歳でも跡取り息子さん。公園デビューで遭遇した皆様とはひと味違います。素晴らしいです。


 「こんばんは、真琴くん。お誕生日おめでとう。こちらこそ素敵な日に招待してくれてありがとう」

 「おめでとう真琴くん。こんな素敵なお誕生会にお招きありがとう。これは私達からのプレゼント。つぼみとこれからも仲良くしてね」


 「ありがとうございます妃那子さま。直之さんもありがとうございます。後で開けさせてもらいます。大切にしますね」


 最近は文字の練習を頑張ってるという情報をリークしたところ、子供用の中々にお高い万年筆を贈ることにしたと聞きました。美琴様のところに案内するという真琴さまに、パパさんが先程周囲にいた子達はいいのかと聞いたところ、お母様は美琴さまの大事な友人だからとか言っていました。ぶっちゃけなんでもいいから抜け出したかったのだと思います。


 そうして歩き出す私達一行。

 ……あれえぇ……私からのおめでとうは? 要らないですか?? 真琴さまはチラリとも私には視線を向けません……なるほど。これは意図的にタイミングを頂けてない気がします。パパさんはにやにや楽しそうで助け舟はくれない様子。真琴さまには何か考えがあるのかもしれません。わかりました、大人しくしてします。


 あれよあれよとことは進み、美琴さまにご挨拶を済ませ(お洋服が可愛い、素敵だと褒めて貰いました)私は真琴さまに手を引かれて、ズンズンスタスタ会場の隅へ。そして、とす……と両肩を捕まれ、真琴さまは深刻そうなお顔をされました。怒ってはいないみたいですが……?


 「つぼみ、『さま』付け きんしれい はつれいだ」


 ……??

 真剣に告げられた言葉は意図が理解できず、45度程右に顔が傾いた。はいっ、更なる詳しい説明を求めます。


 「『まことさま』と呼ぶお前と、呼び捨てしている俺では、俺が無理やりつぼみを付き合わせているんじゃないか。と言われてしまった」


 あっ。把握しました。……しかし、翠川家と我が家では生きる世界が違うといいますか。格が違うのですから、その辺はちゃんとせねばいけないと思いますが。本当にいいのですか? 美琴さまがそういうことを言うようには……。でも、そのお顔見るにあまり嘘を吐いているようにも見えません。


 「そこでだ、呼び捨てのさらに上を行くぞ」


 呼び捨ての、上ですか……なんでしょう?


 「……あだ名だ」


 っ、あだ名!! ……あだ名?


 「それは、『はるひこ』を『はるぴょん』。『るか』を『るかっち』、『ともひさ』を『ともぴー』みたいに、トンチキな程仲良く見えるそうだ」


 ふむふむ。トンチキ……ですか。可愛くていいと思うのですが。『まこぴょん』とか『まこぴー』とか可愛い。美琴さまも良いと言っているなら是非とも呼びたく!


 「なんだよその目は……!! い、嫌だぞ『まこぴょん』とか、『まこっち』とか俺は だんこきょひ だ。いくら作戦でも、そんな変なので俺は呼ばれたくないんだけど」


 ……残念。仕方ありません。私としては是非とも面白可愛い『まこぴょん』を推したかったのですが。仕方ないです、ここは落とし所を見つけましょう。ふむふむ。うーん。

 あっ、ひらめきました!!


 『まこちゃん で いかがでしょう』


 スケッチブックに思い付いたものを書き出し、伺いをたてる。省略された名前に敬称付きというシンプルなものですが、付けられた『ちゃん』により控えめに『トンチキ度』を上げる、行き過ぎず弱過ぎず、可愛らしさもプラス。どうですか!!



 「んー。むぅぅ……さいようだ」


 やったー!! 今日からあなたはまこちゃんです。呼び名が変わっただけなのに、なんででしょう。すごく仲良しさんに近付けたきがして心がほわほわします。


 やっぱり私は、まこちゃんと仲良しになりたいのかもしれません。


 私達は5分程のプチ会議を終えて会場の中央へと戻った。基本立食パーティだが、子供スペースも含めて一応椅子のあるテーブルも用意されている。真琴さまはそさくさと二人がけの椅子を占拠した。なるほど、相席防止策ですね。手を引かれるまま大人しくついて歩いていた私は、促されるまま隣に腰を下ろす。……実は私達の到着が遅かったようで(定刻前には勿論居ましたよ!!)挨拶はあらかた済んでしまったのだとか。うっ、1番忙しいときに盾になれずすみません。


 あっ、そうだ。


 『まことさま おたんじょうび』『おめでとう ございます』


 予め書いておいたそれをページを捲って見せる。やっと言えた……!! 本人もハッとしていることから忘れていたようです。ちょっと悲しい。


 『こんやはすてき なパーティに』 『おまねき くださり』

 『ありがとう ございます』


 「こっちこそ、来てくれてありがとう。……さっきは悪かった、ごめん」


 私が最後まで挨拶を終えるのを待ってから、そう言ってくれた。こうして待っててくれるあたり、やっぱり真琴さま……いえ。まこちゃんは優しいのです。

 私を無視するように両親と挨拶を交わしたことなら、私に『まことさま』と呼ばせない作戦だったみたいですし、謝らなくていいのに。

 首をぶんぶんと振って、それからにこにこと笑って『気にしてない』と伝えます。

 そうしたら、まこちゃんがふっと安心したように笑ってくれたので、私も思わずにこにこしちゃいます。


 あぁ、これも忘れてました。

 どうぞ、つまらないものですが。お誕生日のプレゼントです。


 「……本? っ!! 開けてみていいか?」


 もちろんです。こくり。と頷いて了承を示せば、彼は嬉々として包装を解きだしました。不機嫌そうないつものお顔とは違う、キラキラとした表情に私も嬉しくなります。


 私からのオススメのお話です。読んだことないものだと思います。たぶん。これでも記憶力がいい方なので、真琴さまのお部屋の本棚の中身は暗記してます。最近は探偵ものがお好きなようでしたので、読み漁って真琴さまの好きそうなものを探しました。ほぼまる1日かけたんですよ!!


 「『ブラック・ドロップ』!! 次の次くらいに読もうとしてたんだ!! なんで欲しいの分かったの!?」


 っ、えへへ。想像以上に喜んでもらえて嬉しい。ま、まぁ伊達にあなたの読んでいる本を見てませんからね!!


 『たくさん まよいました』『よろこんで くれました?』


 「うん! 最高!」


 『いっぱい なやんで』『よかったです』


 「ありがとうつぼみ」


 そんなそんな。ふるふると首を振って私はペンを走らせる。

 『よろこんで もらえて』『うれしい』

 私。わかりました。私はまこちゃんとちゃんと仲良くするお友達になりたい。まこちゃんの険しいお顔が綻んだことが、こんなに嬉しいのは、きっと だいすき だからです。だいすきなら、友情のあるお友達になりたい。


 でも、『仲良くする友達』は、まこちゃんは嫌かもしれないので、私の秘密です。


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