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柴犬パンの熱帯生活  作者: 外村パン
2/11

私のお城 その1

私のお城は、お母さんに「ハウス」って言われてる。

私が外村家に来た時、私のお城は、鉄でできた大きな大きなケージだった。四方八方鉄格子で、なんだか監獄に入れられたみたい。お父さんとお母さんは、まだ小さかった私が危なくないようにって、入れていたんだって。

確かに小さい頃の私は、危ない子だった。ゴミ箱は、倒して遊ぶものだと思ってた。電気コードは噛むものだと思ってた。そしてサッシの溝に挟まってるホコリや髪の毛は、お菓子だと思っていたんです。

だからお母さんが手が離せない時は、監獄に入れられちゃったんだ。確かにここは、危ないものは何にもないけど、おもしろいものも何にもないんだよー。おまけにこのお城は、足場が最低だった。床まで鉄の網あみになってたんだ。私の肉球が網に食い込むのが、お母さんにはわからないの?お母さんが洗濯物干しに出てくるとき、

「だしてー!」

って思いきり、後ろ足だけで立つとき、後ろ足の肉球、めちゃくちゃ痛かったんだからね。

ところでどうして床まで網網だったかというと、私のおしっことウンチが網の下の受け皿に落ちるようになっているから。

そう。この監獄のお城に入れられていたもう一つの目的は、トイレトレーニング。おしっこしてから遊ばないと遊びに夢中になっちゃって、丸美のベッドの上や、IKEAのカーペットの上に思わず粗相してしまうのだ。でも、これは仕方ないんじゃない?丸美だって、ペー助だって、子供の頃はしてたでしょう?だから、怒られても困るんだよね。でも、悪いとは思っている。おしっこしてすぐ注意されると、「あ、これ(おしっこ)のこと?」ってわかるから、私もまあ「あ、ごめん」って思う。「怒ったら逆効果」ってお父さんに言われてるから、お母さんは必死で怒らないように我慢してるんだ。

「パンちゃん、やっちゃったのね〜」

て笑いかけてくれるけど、目が笑っていない。お母さんの後ろ姿から、邪悪な何かが噴き出してるのが見えるの。負のオーラが。犬だから見えるの。

それから、おしっこしてからしばらくして、お母さんが気付いた場合、これは最悪。

「あれ?」って言って、クンクン、クンクン、私の真似をしてカーペットの匂いを嗅ぐ。それから急いで雑巾と洗剤取り出して、ゴシゴシやるのだ。

「パ〜ン〜」

怒りを隠せてない、お母さんの複雑な顔。

って、そんな顔されても、私なんのことかわからない。もう覚えてないもん、そこでおしっこしたこと。だから、私もなんでお母さんが急に負のオーラをまとったのかわからない。とにかく、お母さんが怒ってるって思って、私もとりあえず神妙にする。理由もわからず、最悪の雰囲気の中でソファーの下に隠れて時が過ぎるのを待つ。この絶望的な気持ち、わかってくれる?


そして、しばらくするとお母さんは私を監獄に入れて、毎日のように

「ピーピー、ピーピー」

って呪文を唱えるようになった。私の目を見て、「ピーピー、ピーピー」って永遠と繰り返すのね。

それは毎朝、監獄の中で目覚めた私の、一日の始まりの儀式のよう。お母さん、ベランダでひたすら「ピーピー」言うの、暑くないですか?でも不思議なことに、この「ピーピー」を毎回聞かされると、私いたたまれなくなって、監獄の中をぐるぐる回っちゃうんだ。するとお母さんが「お」っていう顔をする。私は、落ち着かなくなってまたぐるぐる。ぐるぐるしているうちになんかいい気分になってきた。そう、おしっこが出る前のあの気分。ぐるぐる、ぐるぐる、ストップ。そして…。

「やったー!」

「!」

お母さん、なんて声を出すの。おかげでびっくりして、おしっこも止まっちゃうよ。

かくして私は、網あみの下に敷いてあったおしっこシートの上に見事におしっこした。そしたら、お母さんはすかさず私を、監獄から出して、ぎゅうっと抱っこしたんだ。おやつもくれた、けっこう渋ちんな人なのに。

なるほど。ここでおしっこすれば、おやつを頂けるのですね。そして私は監獄を出て、自由の身。心得ました。


だがしかし、だいたい私はきれい好きだ。ベッドとトイレが合体しているこの監獄が私のお城だなんて、許せない。お母さんが喜んでおやつくれるから、ここはトイレとは認識しよう。だが、ベッドだとは思いたくない。断じて。でも、お母さんは私がウトウトしてくると決まって

「ハウス!」って言ってトイレを指差す。私は断固としていかない。でも眠い。すると、お母さんはさっさと私を抱っこして、監獄に入れちゃう。

「さあ、寝ようねー」

って、ここ、トイレですから!はあ、やだやだ。ほら、「クウーン」って言ってはみるものの、サッとカーテン閉められた。仕方ない、寝るか。でも、明日こそは絶対、ふかふかのカーペットの上で寝てやる。

ここが私のお城だなんて、絶対に認めないんだ。




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