苦い想い 〜姫騎士は号泣する〜
16歳を過ぎても、リュエマには「月の穢れ」が訪れなかった。
普通なら10歳を過ぎるあたりから14歳になるくらいまでに訪れるはずの最初の「月の穢れ」が無い。これが無いと、子を成すことが出来ないことはハッキリしている。子を成すことが出来ぬ女を嫁にもらう男などいるまい。ましてや跡取りが絶対に必要な嫡男の嫁になどなれるはずがないのだ。
そのころから幾つかあった縁談を、理由を述べることも憚られながら、のらりくらりとかわすことに疲れていたリュエマは呟く。
「いっそのこと、尼にでもなってしまおうか・・・」
そう言って重いため息を付く。
「つぅ・・・」
そんなある朝、リュエマは激しい腹痛に目覚めた。
違和感を感じて上掛けをめくれば、その目に入ったのは「月の穢れ」の印だった。
「姫様!!ようやく・・・おめでとうございます!!」
起こしに来た侍女頭ラウリエに見つけられるまで、リュエマは呆然としていた。
そうか、めでたいことなんだなと、涙を浮かべて喜ぶラウリエと母を見つめた。
こんなに痛くて、だるくて、辛いのに・・・めでたいのか・・・。それがリュエマの本根だった。
「女って・・・大変だな・・・」
痛み止めの薬湯を煎じてもらって、苦いそれを無理矢理喉に流し込みながら、リュエマは思うのだった。
17歳の誕生日を目前にして、やっと「女」になったリュエマは、まず、父から「体術」を禁じられた。「体術」というのは素手で組み合う激しい格闘術だ。
「これは女性には向かない。これからそなたの身体は女性として成長していくのだから」
そう言われて、すごく悲しかったが、「月の穢れ」の度にあのような痛みやだるさを覚えるならば、確かに女の身には向かないのかもなと諦めることにした。
だが、その後も普通は決まった周期で訪れるはずの「月の穢れ」は、リュエマの場合気まぐれだった。
数日前から起きあがれないくらいの腹痛や腰痛、吐き気などに悩まされる時もあれば、何の前触れもなく不意に訪れて、慌てることもしばしば。期間もバラバラで予測不可能。これにはさすがのリュエマもうんざりだった。
しかも、
「「月の穢れ」が整わなければ、将来子を成すことはなかなかに難しい」
と、侍医から言われてしまえば、リュエマは諦めの気持ちで一杯だった。
「それならいっそ・・・こんなもの無くなってしまえばいいのに・・・」
母には悪いが、女に生まれて良かったことなど無いなと、リュエマは「月の穢れ」を整えるための苦い薬湯を飲みながら思うのだった。
長男で無ければ、跡継ぎで無ければ、自分が子を成す確率が限りなく低かったとしても、嫁に行くのは可能かもしれないと思い始めた矢先に、まさかの「世継ぎの王子」からの求愛&求婚にリュエマは驚き戸惑った。
「いや、それだけは絶対に無理〜〜〜!!」
よりによって、一番「子宝必須!」な相手との縁談である。
そして、その相手がよりにもよって、自分好みな外見で、そして、自分が想いを重ねられそうな相手だなんて最悪だとリュエマは泣きたくなる。
「いっそのこと、まったく好みじゃなかったり、気の合いそうに無い人なら良かったのに・・・」
ノルディアス。彼が微笑むと、その明るい微笑みにつられて微笑み返しそうになる。
王太子としての彼の優秀さは、兄たちから聞かされていたから元々好感を持っていた。騎士としてお城勤めが始まると、時折姿を見かけることはあった。武術はそこまで得意ではなく、どちらかというと文官的な知的な佇まいを持った人だなと思ってみていた。
黒髪に見えるが、陽に透けると青く輝く濃紺の髪に濃紺の瞳。それは王家に縁のある男性のみが持つ特徴的な容姿。騎士の家系で体格の良い兄たちと並んでも見劣りしない長身で、鍛えられたしなやかな身体。密かに、その姿を見られることを「眼福だ」と思っているリュエマだった。
だが、しかし、それは恋愛的なものではなかった。彼は王太子だ。いずれは他国の姫君か、国内の有力な貴族の姫君を妃に迎えて、その地位を揺るぎないものとするのだろう。
遠くから、そっとその姿を眺めている。鑑賞対象。好きでも嫌いでも無い相手。それがリュエマにとっての王太子ノルディアスだったのだ。
それが、思いも寄らないようなあの狩りでの出来事で、ノルディアスの目に留まってしまった。
鑑賞対象に、思いも寄らぬ出会いから求愛され、求婚され、戸惑うばかりだった。「絶対に選べない相手」だと、自分には彼に寄り添う資格が無いのだと、だから、思いを寄せるなんて出来ない、出来るはずがない・・・。
本当は、気が付かない振りをしていただけで、鑑賞対象として目で追っていることが、すでに「好意」を抱く第一歩だったのだ。
「リュエマ、大丈夫だよ。きっと僕がなんとかしてあげるから」
いつの間にか、ラスティアルの腕に抱きしめられて、リュエマは泣きじゃくっていた。
「ラスティ兄上っ・・・ご・・ごめん、なさい」
するとラスティアルは幼い子どもをあやすように、リュエマの背をポンポンと叩いてくれる。
「リュエマ、僕は本気だよ。ちゃんと研究して、君の不安を取り除く方法を考えるから。僕を信じて!」
「兄上・・・」
「本当は、ノルディアス様が好きなんだね?」
そう問いかけられて、リュエマは小さく頷いたのだった。
久々の連投です。
少しペースUP出来たらなぁと思いますが、5月後半から6月半ばまで、仕事が忙しくなる予定です(泣)
そうなる前に少しでも進めていけたらなぁと思います。
頑張ります!!
雨生




