源実忠(その5)
さて、例の宰相源実忠様は、今度は州浜の上に川島をたいそう美しく造った飾り台の上に、千鳥が飛び違う様子をつけ、これに歌を書き付けられました。
浦せばみ 跡かわしまの 浜千鳥 ふみやかえすと たずねてぞかく
(この浦が狭いので、川島(かわしま)に浜千鳥がしきりに(文字と散らしているように)土をふみかえして、足跡をつけているのを見ますと、もしや文をかえすお気持ちになって、わたしと文を交わして下さるのではないかと思って、それを尋ねにこれを書いているのです。)
わたくしが、
「妙なこと。あなとは、いつも私が困る物をみせるのですね。」と言いますと、兵衛の君は、
「姫様こそ、いつも知らぬふりをなさいますね。」というので、
「それなら、いつものようにあなたが返事をお書きなさい。」と言って歌を書き付けました。
浜千鳥 踏み越し浦に 巣守子の かえらぬ跡は たずねざらなん
(浜千鳥が踏んできた浜辺に、まだ孵らない卵の跡があるのは、あなたの思いにこたえる気がないからです。お尋ねにならないで下さいな。)
「これは、兵衛の君の言葉としてお渡しなさい。」と言いました。
「これでやっと、私の役目が果たせました。」と言って、
「兵衛に下さったものだとあて宮様に申し上げましたら、これを書き付けられました。」と、歌を実忠様にお渡しすると、
「たいへんうれしいことです。あて宮様がおっしゃったことを聞けば、わたしの思いが伝わったのだと、とてもうれしく思います。」と感激されたということでした。
(兵衛の君の頑張りの甲斐あって、ついに返歌を手にした実忠でした。)




